2021年01月17日

6次産業化と農福連携

「農のあり方を考える」【素人農業成功二事例】~6次産業化と農福連携

 中村小太郎氏(自然農園なかむら園主)は、自然農での稲作に成功するも、全く売れないという挫折に遭ったが、ネット販売等で活路を切り開いて事業を大きく発展させた。

 伊藤文弥氏(NPO法人つくばアグリチャレンジ代表理事)は、地域の耕地放棄地を使っての有機栽培やレストラン等を営み、100人以上の障害者が従事し、地域との連携を深めて、障がいのある人もそうでない人も“ごきげん”になれる社会を目指して活動している。

日時:2020年1月15日(水)18:00~20:30
会場:港区神明いきいきプラザ 4階集会室A

【第1部 講演】
 講師:中村小太郎氏 自然農園なかむら 園主  
 伊藤文弥氏  NPO法人つくばアグリチャレンジ 代表理事

【第2部 質疑応答・議論】
● 主催:NPO法人農都会議 食・農・環境グループ
● NPO法人 農都会議

農業3.0、売り込まないで売る物語ブランディング

2021011701.JPG 中村小太郎です。主催者から講演に呼ばれてびっくりしたが「素人」と言われて気が楽になった。「農業3.0」はまだ誰も言っていない。日本は縄文時代から農耕を始めたので約1万6000年になるが、この1万年前からの農業がこの100年で揺らいでいる。例えば、塩尻市で無農薬で農業をやっているのは私だけである。全部がJAの指導で200円/kg。誰もやる気がない。ところが、自分が食べる米は誰もが自然農。売るコメは関係ない。これはおかしいのではないか。義理の父がJAが嫌いで50年間やって来たことを幸い継承できた。レンゲの花を咲いたらすき込む自然農だ。

クモ膜下出血で生き方を考え直す

 自己紹介をすると18歳で父親がすい臓がんで他界し、金がないために学生起業家になった。付属高校に入っていたため大学に行ったが、学費も弟の入学金も学生バイトで稼いだ。学生起業家の後、リクルートに入り、毎日忘年会のような生活だった。リクルートのOBはワーカーホリックである。それが、クモ膜下出血で倒れる。右眼の奥で表面から手術ができない。鼠蹊部からカテーテルを入れ手術時間が5時間。そこで、ベットで考えたのはもうこんな生き方はやめよう。自分の食を考えないと死んでしまうということだった。

 アルバイト雑誌フロムAを担当したりしたが、ビジネスマン時代に学んだひとつが、小さく成功し続ける。思いついたら圃場の一部でやってみることだ。最初のかぶき者は織田信長ではないかと思う。

2021011702S.jpg  さて、民間稲作研究所、稲葉光圀(1944〜2020年)さんの弟子、矢口に指導してもらったところ、12俵/反の収量があった。ビギナーズラックで今年は6俵だが、全く売れない。2tもあるコメが売れない。試食してもらっても「おいしいね」で終わってしまう。普通の農家はJAに売ればいいのでブランド化する必要がない。そこで、どうするかを考えた。長野県からも講師を頼まれて、これまで講師として3回話している。

 マーケィングの名言に「顧客の顧客に聞け」という言葉がある。お母さんの顧客は子どもなので、子どもに聞けとわけだ。

マーケティングの観点からいうと、品質のこだわりだけでは突破できないので、ブランディングをやる。例えば、道の駅ではおばあちゃんが底値で売ってしまう。値下げ競争は自分の価値も引き下げることになってしまう。

アマゾンで売る

 さて、アマゾンでの米の最高値は2000円。相場は500~600円である。そこで960円で売ってみた。オーガニックなライフスタイルを提案する日本最大級のマクロビオティックをベースとしたWEBマガジン「IN YOU」というオーガニックサイトで4回記事を書いたのもコメを売るためだ。

 そして、マーケティグで顧客に聞いたのだが、EUはオーガニックサイトでマクロビだが、玄米である。そして、籾に残留農薬がある。そこで無農薬だと安心だと。また、炊飯器に発芽玄米機能がついているのだが、それでギャバが20倍になる。けれども、天日干しをしないと発芽しない。籾は5年経っても出芽率が7割だ。

頭で買うのか、心で買うのか物語性

 木村秋則(1949年〜)さんのリンゴは、自殺するための森から帰って来たからこそ、物語性がある。感情が動いている。これがブランディングの力である。

 例えば、嫁の夢であるパンの店「BORDER」パンを離乳にしたいということで最小5坪で年間1,200万円の売り上げとなった。子どもは金がかかる日大芸術学部に進学したのだが、このパン屋があったからこそ進学させることができた。

また、アマゾンプライムを得ると、検索の1万位の順位が5位とかになる。甘みが違う。冷めてもおいしい。口コミで3カ月かからず売れてしまった。

 ポケマルはさらにすごい。なお「食べる通信」はすごい本である。生柿のウンチクが入ってくる。送料も農家負担だが安い。

ふれあい給食

 どうせ売れないのならば寄付しようと思った。教育委員会に持って行ったら地産地消ネタを探していた。そこで、驚かされたのは、塩尻市はエプソンの事業所があってアパートの空室率もない。リッチなのかと思っていたのだが、夏休みが終わるとガリガリに痩せてくる子どもがいる。カロリーを摂取するための貴重なのが、給食なのである。7人に1人が隠れ貧困だという。

 そこで、常設の子供食堂をやろうと思っている。もう一つは、ご飯給食革命である。韓国ではほとんど9割型が有機野菜になっている。市が差額を補填している。他の国もどんどん変わっている。スイスも以前は4割であったのが自然農が97%になっている。

 塩尻市のまちづくりチャンレンジも採択された。長野県の有機農業推進でも講演をした。長野県は真剣にマッチングサイトを作り始めている。よくできている。さらに、阿部守一(1960年〜)知事がゼロカーボン宣言をしてしまった。SDGs未来都市長野でゼロカーボンを推進しているという。

 論文を書いた人が友人なのだが、彼の知恵を借りてオフグリッドのソーラーシェアリング。田んぼで発電もしたい。10月の頭に刈り取るが、4カ月は田んぼは使われていない。この間に売電してもいいのではないか。最後は、ゲーテの言葉で終わりたい。

「大胆な行いは、天才の力と魔力をもそなえ持つ。さあ、はじめよう」

GOKIGEN FARMの取り組み事例 伊藤文弥氏

学生時代に農福に出会う


2021011703.JPG 私は1988年生まれである。筑波大学在学中から五十嵐立青(いがらし たつお, 1978年~、元つくば市長)の下で議員のインターンシップを行い、農業問題や障害者雇用問題を知った。農業法人「みずほ」で研修を行い、ホウレンソウ農家を中心に農業の専門知識を学んだ。そして、つくば市で2011年から農業を始めた。

 これは、自分の成人式の時の写真だ。インターンの時で髪を短く切っている。実は、五十嵐さんからまず怒られた。ポケットに手を突っ込んでいたから「手を出せ」と。そして、ネックレスもつけるな、眉毛も剃るなと。この五十嵐氏が怖かった。これで成長ができたかもしれない。

 さて、この五十嵐氏が筑波大学を卒業するときに「文弥、やらないか」と誘ってくれた。五十嵐と一緒にやったのは三人で一人が千葉大。もう一人は中国の院生だった。彼がパソコンの使い方も教えてくれたし、インターンの半年目でリサーチも頼まれた。最初に振られたのが発達障害の子どもが学校でいじめられているケースを調べることだった。

 実は、この写真は僕の妹だ(ガングロ)。これが僕の家族の日常の風景だった。中学3年の時が一番酷く、親も胃に穴があくほどだった。算数の99もできない学習障害だ。トム・クルーズも台本が読めないという。社会も国語もできない。で、学校に行かなければ、非行になるか、引きこもるかだ。つまり、五十嵐さんから「調べろ」と言われたことが自分の家で起きていた。

 で、僕からすると、政治家はかっこいい。そこで、五十嵐さんに「なぜ政治家になりたかったのか」と聞いたところ、五十嵐さんが「ふざけるなと。そんな奴にはなってはいけないと」。つまり、他人事であった。同時に五十嵐氏は農業にも関心を持っていた。担い手がいないと。片方で障害の人もいる。その二つをつなげるとどういうフキームでできるのかと。それを五十嵐氏が思いついた。それが大学三年の夏のことだ。そして、知れば知るほど障害者が多くいる。僕は理系で大学院に進む人が多かったのだが、そういう事業ができればいいと準備を進めた。介護のアルバイトをしたり、NPO法人で福祉サービスを始めた。始めた時には何もわかっていなかったし、本で読んだり、ちょっと人の話を聞いてこんなスキームでできると思ったのだが、今はどうなっているのか。例えば、福祉団体の数がすごく増えている。したがって、そういうことで言えば現在は、仕事は過剰である。地域差もあるが、現在、8農家に人を派遣して手伝いをさせてもらっているが、そこの農家はかなりうまくいっている。農地を規模拡大し、従業員が50人いるとかで、実際の現場は、本で読んだり統計で調べたデータとはだいぶ違っている。また、一つ大切にしなければならないことは、私は福祉に力を入れているのだが、障害者をひとくくりにしてはいけないということだ。同じ症状であってもそれは別人である。例えば、1級、2級、3級の障害者がいるが、どの障害の人にどんな場所を提供できればいいのかは人によって違う。

2021011704.png 福祉施設の数も伸びていれば、企業が雇うべき法定雇用率を守る企業において雇用も伸びている。このグラフをみていただくようにかなり増えてはいる。したがって、これからは福祉事業ではなく企業が障害者の雇用先を担っていくであろう。

 とはいえ、日本には障害者が770万人いるが、それでも雇用されているのは47万人である。そして、福祉サービスに求められるのは、「軽度」ではなく「中度」から「重度」の障害者であろう。そういう人たちが必要としているのは何か。障害者が地域で「ご機嫌」に暮らす上で必要なことは何であろうか。

 ということで、私は2011年から事業を始めている。レストランもやっている。農場も野菜と養鶏がある。

 地元の人に届くためご機嫌ファームでいい野菜をつくっている。平飼いと養鶏だが、いいものが食べられる。そういう事業ができることが障害ができることにつながっていく。

 農福連携が面白いのは、地域とのつながりができることである。保育園児も高齢者もやってくる。3歳から100歳までが一緒に楽しめるものが農業以外にあるだろうか。誰もが必要としている。ということで、野菜を定期購入して配達し、400世帯に出している。

 また、福祉事業といって直接的に、かつ、定期的に届けられる商品は意外にない。福祉事業ではコースターやクッキーが多いが、それらは定期的に必要とされてはいない。また、障害者と一緒に時間を過ごすことがとても大事であることからイベントもやっている。言わないだけで、知的障害者はともかく、障害者がいると怖いという偏見がある。実は障害者は身近にいるのである。そこで、彼らと一緒に生きていくために同じ時間を農業を介してすごしている。

 我々の行動指針は6つある。

 第一が地域で一番愛される農場になろう。実は今350世帯に減っている。就労支援をしているために毎日仕事がないといけない。年間で作業量をならしたい。毎日何かが収穫ができる状態にもっていきたい。

 また、大事にしているのは指導してくれる先生である。福祉サービスといってもプロ以上のものを作らないといけない。そこで、久松達央(19702021011705.jpg年〜)さんを師匠にしている。最初に教えてもらったのは事業を始めて2年目の終わりである。

 毎回方針を変えた。最初にホウレンソウをやって駄目で、次に少量多品目を西洋野菜でやったが駄目で、どうしたら売れるかを考え、契約栽培もしてみた。こうした中で何が起きたかというと、障害を置き去りにして社員が納品で追われた。そして、夏が終わったときに疲れ果てて半分が止めた。僕自身は鬱病になって通院することになった。

 そこで、どんな野菜を作って誰に作りたいのかを久松さんに指導を受けてからやっと売れるようになった。

 また、どうしても冬期には野菜が少なくなる。夏は果菜類が毎日できる。また、草も出てくる。そして、秋冬の野菜も8月から準備が始まる。人参のための太陽熱マルチも7月に作業をする。一方、冬は仕事がないのでニンジンジュースを作ったり、ハウスで作物を作っている。

 8農家でパッキングの作業をしている。時給400円でやっている。また、週末の菜園事業もやっている。イベントをやれば300人、400人が来る。会員は400世帯弱だが、家族の構成が多いのでその家族が参加する。とにかく、一緒に時間を過ごすことが大事でそれによって障害者に対する偏見が消えていく。

 最初は友達に売ろうと思ったが、買ってくれるのは1回までである。男は料理をしないからだ。そして、それを必要としている人に出さないと買ってくれない。配達にも段取りがある。さて、この写真は、藤枝市で無農薬米を作っている人である。赤裸々にこう書かれている。「米は状況が違うと管理の仕方が違う」と。例えば、ここにはジャンボタニシがいるが、つくばのここは違う。環境によってみな違う。米はいま3年目だが駄目で、僕らは5俵しかとれていない。

 また放置された竹林がある。これも竹細工で活用している。また、竹を炭にして養鶏場に入れている。炭をくん炭にしているが、アルカリ性になるので病原菌が広がらない。

 普通の卵は18円だが、平飼い卵は50円で売らないと採算があわない。一日300個だがなんとかはけるようになってきた。

 そして、農業の師匠だが、何も隠さないでかなり先生は教えてくれる。指導料として金を払っているが、それがありがたい。

 2018年1月からレストランを始めたし、ファーマーズマーケットもやっている。そして、暮らす場所をどう使っていくかで、グループホームもやっている。13人が暮らしている。また、クラウドファンでイングもやってみた。これをすることで、事業内容が地域の応援をしてもらえるのかが確認できる。33万円をかけてウッドデッキにし、食事券を出している。こうした事業を半年間で三つをやった。

 障害のある人は工場の方が働きやすい。農業は効率が悪いが、ベビーリーフを詰める仕事とかは早い。つまり、障害がある人にやりやすいのは判断する回数が少ないことである。こうしたことで、作業性は高くないが効率化ができるかも考えている。また、家庭菜園に書いてやることをしてもらおうとしてもダメである。とはいえ、プロの農家のやり方を知ることで、障害がある人の作業性はあがる。

 また、一緒に活動している団体を増やすことが大事である。よく、NPOは利益を出すとダメだと言われているが、現実には収益をあげないとやっていけない。そして、売り上げをあげるよりは関わる人をどう作るのかが大事である。そして、今年はワインづくりも始める。また、18歳以上の障害者だが、子どもへの学習支援も始めている。リスク・コンプライアンスをしている。こうしたミッションに共感してくれることが嬉しい。

会場質問 うまくいかなかったことは。

伊藤文弥氏 私は9年目で鬱病になった。うまくいかないことが常にある。大きなトラブルは重なる。常に上下しながら前に進んでいる。あるときにはコアの社員が退職した。そこで、悩んだのだが、こうした中で、一人でやっていたのだが初めて社員に助けられた。実は、それまで誰も信頼していなかった。それが「こんなに信頼される自分がいる」ということで自分が認められて楽しくなった。実は、夢中で仕事をしていて常に不安な状態でやっていた。結果を出さないと次がないと7年もやってきた。最初の頃は成長できている実感があったが、かなり消耗しながらやっていた。それが、楽しく働けるようになった。

大木晶氏(明治学院大学名誉教授) 口コミで4軒から始めたが、いま50軒になっている。昨日も学生を相手にカウンセリングをやっている。農業はとても大事で在来種が減っていることに危機感を抱いている。近々、長野県に在来種を求めに行く。確かにF1で作った方が生産性があがる。また、各地域地域で育てられてきたのが在来種だから、長野のものを千葉に持っていってもそのままではうまくゆかない。実験で数年かけてやっていく。

 野菜を買っていく方は小さなお子さんたちだが、どうやったら健康な野菜を彼らに届けられるかが大事だ。ということで、ボランティアで手伝いをしている。

司会 明治学院大学でマクロ的な研究をされてきたが、いま千葉で家族農業も支援されている。両方もなされているということで僕は感動した。では、会場からの質問に答えていただく。

会場からの質問用紙での質問に答えて

中村小太郎 いただいた質問は大きく5つのカテゴリーにわけられる。順番に答えていきたい。

第一は、「『給食に有機を使って欲しい』という声が増えているのに、現実に盛りあがらないのはなぜか」というご質問。これは、全国給食会の既得権益があるからである。教育委員会から一元管理を任されているためドル箱である。彼らの既得権益を骨抜きにしないと駄目である。私は塩尻の地元の吉田小学校に1日寄付をした。「うちを通せ」と反発があったが、こうした実践をしたことで既得権益に穴を空けられた。

第二は「農薬を日本で一番使っているのはなぜか」である。これは、私は消費者側に問題があると思っている。オーガニックなライフスタイルを提案する日本最大級のマクロビオティックをベースとしたWEBマガジン「IN YOU」でも記事を書いたのだが、「○○がおいてありますか」という「聞くだけ革命」をやっていただきたい。消費者からの問合せがあれば、仕入れる方はそうしたニーズがあると考えざるをえなくなっていく。

第三は農業へのやり方への質問である。これは「プロに聞け」である。それしかない。私は稲葉光國さんの弟子である矢口一成氏と出会った。その駆け込み弟子である。土作りの質問だが、私は自然農であるため、緑肥、レンゲをすき込むがそれ以外には入れていない。

第四は「次の代に引き継ぐ準備は」である。これは大事なご質問で、NPOをたちあげるのも私個人ではなく、組織でやりたいと思っているからである。

第五は「物語の作り方は?」だが、お配りしたレジュメにあるように「弱みを売りなさい」を是非買ってお読みいただきたい。そこにはワークも載っている。これをやれば、自分のミッションが明確になってくる。

自分が好きなことをやらずに義務感でやっているとストレスが高まる

伊藤文弥 第一のご質問は、それぞれの事業の規模。野菜が7ha、コメが3.5ha。これはもっと広げたいと思っている。そして、鶏は700羽が飼育できる施設があるが、現在、飼育しているのは500羽である。そして、レストランは40席。

第二のご質問は、「ガングロであった妹さんはどうしているか」だが、彼女は、高校1年で定時制を卒業した後、福祉事業をしている。私の母親が老人のデイケアサービスをしていたため、僕が大学に行っていたことから妹の方が先に社会人となった。そして、市立病院がやっている、300人のホームのひとつのだが、40歳とかしかいない中で、23歳ですでにトップとなっている。医療法人であることから、僕を講師として呼んでくれたりして頑張っている。

第三のご質問は「事業を止めたい時に奮い立たせてくれたのは何か」だが、最初は立ち上げの準備をしていて楽しかった。しかし、社員が止めていくと孤独となり、鬱病となり、通院して漢方薬を飲みながらやっていた。では、それをどうやって乗り越えたのかというと、色々なことを試してみた。運動をしたり、食事を良くしたらいいのではないかとか。サウナにいってみたり、フルマラソンをしたり鍼灸をやったりしてみた。

 ちょっとしたことでも胸を締め付けられる苦しかったからだ。で、よく、骨折するとそこの部分が逆に強くなると言われるが、ちょっとしたことに敏感になったりして、治らない中で騙し騙しやってきたのだが、振り返ってみれば、結局は楽しくないことがわかった。

 実は、ずっと自分は事業を止めたかったことがわかった。いまはその問題は、治っているのだが、それが、治らなかったのは自分の悩みの本質に蓋をしていたからだ。だから、少し良くなっても治らなかったし、トラウマがあったし、それにやっと気づいた。

 では、状況が良くなったことはなにかというと、自分が自分であることを好きになることが大事だということだ。社員と関わる中で自分自身を好きになれたことだ。そこで、2年前から楽しく仕事ができるようになった。

中村小太郎 「プロに聞け」ということが大事だと思う。私はJAからは邪魔されることはなかったが嘲笑された。除草剤をまいていないため真夏に除草の車を押している。ただよかったのは義理の父が水利組合で活動していたので地域に信用があり邪険にされなかったことだ。また、矢口一成さんもこだわっているが有機農業をしている人はいい人が多い。

 伊藤さんがなされていることは凄いなと思った。私も根底では障害者をなんとかしたいと思っているが、鬱病は心の中の問題で「自愛」と「自己愛」とは違う。もし「自己愛」で終わっていたら元に戻れなかったと思っている。私自身もクモ膜下出血で食の大事さに気づいた。宗教めいているが、どうにか生かされていると思っている。

伊藤文弥 中村さんは本当にプレゼンがお上手だ。

中村小太郎 NHKでは以前に2時間プレゼンをやったことがある。

伊藤文弥 これまでの経歴もあるのだろうが、話がうまいし、資料もわかりやすい。その経験があることが農業でもでているなと思った。僕はベースがなく大学を卒業してから働いているのだが、久松達中さんに教えてもらっている。そして、農業というのは個人の個性が出しやすい職業だと思っている。中村小太郎さんも自分の人生の色を出されているので素敵だなと思った。

農産物の値段を巡って

大木晶氏 農産物はサラリーマン家庭でも買えるものでないといけない。960円で売られているのは立派だとは思うがごく普通の人が買える値段でないと。経済的に余裕がある人だけが買えるというのはおかしい。価格の折り合いをどうされているのか。

中村小太郎 プロに聞けだが、矢口一成さんは550円だ。サラリーマンが買える値段というのはご指摘のとおりで、アマゾンではプライムを取る時には送料無料である。アマゾンの方針である。960円は送料を織り込んだ値段である。沖縄から注文がくると5kgで2,800円になってしまう。そこで値段設定をした。スノッブ(snob)の人に食べてもらいたいと思っているし、私のサイトは860円になっている。アマゾンで勝負をするためにあえて高くしたと。それと、米を作る最大の理由は夏に子供食堂を常設するためのものである。モデルを作ってみたい。全体の売り上げで締めるのは2tかける960円では生活ができない。大したことはではない。

伊藤文弥 いま、いくらで売っているかだが、野菜が8種類、卵が6ケで送料込みで2,300円である。以前は1,500円だったが、直売所でも残るし、マルシェでも残るため、それでもよかった。久松氏は8品で4,000円で売っている。もちろん、普段の生活で使える値段にしないといけないし、地域をどう作っていくかが大事で、富裕層をターゲットにしているだけだと駄目だとは思う。それでも2,300円にしているのは卵が入ったからである。

 また、野菜だけだとトウガンが続いたりしてしまう。それは、自分たちの栽培スキルにもよるのだが、生産する側からすれば、ニンジンを1000ケ作るのも1万ケ作るのもそれほどは違わない。たくさん売れれば、そういう栽培にもつながっていく。ある程度、売れてこそ形ができる。そのために、安く値段を設定して売り先を作って、投資をしてやっと値あげをすることができた。

司会 国連でも市民が投資することで契約栽培ができることが理想とされているようだが、現実に難しい。僕は3カ所と契約栽培をしているが、そちらは地元が中心だろうが、一回ずつなのか。それとも定期なのか。端境期もあるし、トウガンばかりになる時もあるが、それをどうされているのか。

伊藤文弥 いまはそれ以外の野菜も出せるようになってきている。今のこの冬の時期でも13種類は取れている。ただし、3月は厳しい。そして、今よりもクオリティが下がると。その場合は、久松さんのベリーリーフとかは有機なので、他所から仕入れて対応している。

中村小太郎 日本ではスーパーで簡単に買えるが、そういう流通ではなくなってきている。CSAである。トランプが有機農業を支援しようとしている。私はJAから金を借りられないので。

マーケティングを考えて高く売る農業が必要

会場 いまの農産物の値段のことだが、私の意見と感想を申し上げる。40年、50年前は農業人口が1500万人いた。今は220万人で平均年齢が65歳である。ここまで第一次産業が衰退してきたのは、それが儲からないからだ。その意味で、マーケティングを導入するという小太郎さんのお話は素晴らしい。私は、ユニクロやシャネルもありだと思う。個人的には高いのはおかしいとは思うが、買う人がいる以上、それもありだと思う。ビジネスのことを考えればリッチな人向けのマーケティングもあるだろうと思う。そうではないと農業は上手くいかないと思っている。

中村小太郎 実は農業は資本主義とは食いあわせが悪い。農事法人に経営手法を持ち込むことは難しい。「れいわ新撰組」が提唱する所得保証が必要である。フランスでもスイスでも農業は国防として位置づけられている。日本だけが一次産業が打ち捨てられている。実は私も嫁のアパート収入の方が農業所得よりも大きい。

伊藤文弥 私がマーケティングで意識しているのは、ランチェスター戦略、弱者の戦略である。農産物の品質がプロ以上であることは大切だが、少量多品目で直接消費者に売ることは、有機農業のプロ中のプロがやる手法であることから、こちらには勝てない。私たちもかなりしっかり作れてはいるのだが、細部へのこだわりが弱い。したがって、東京をターゲットにメインで有機をやるのは難しい。そこで、局地戦でつくばで売ることをやっている。

農産物の品質が悪い時の解決策は?

会場 私はソニーでブランディングをしてきた。中村小太郎氏のいう戦略はいいと思うが、高校でのまま不登校になっているとか、いま引きこもりの人たちと接触している。また、かわいそうなのが母子家庭である。日本の母子家庭での貧困率は世界最大で40%である。お母さんが働いているのだが生活に余裕がない。ちなみに、札幌の特殊医療の団体顧問をやったことがあるが、隠された弱者がある。今日の伊藤さんのお話は、31歳でこうしたことをされているというので脱帽した。本当に嬉しい。で、質問だが、品質が悪い時には誰がどう解決するのか。

中村小太郎 ポケットマルシェはクレームがあったら何かしないといけない。クレームは生産者がやらないといけない。

伊藤文弥 対等の作っていくことが大事だし、そうした関係を作っていける広がりがあるといい。

農協は必要なのか?

会場 「農業は国防だ」という話が出たが、いま日本の農業者は168万人になっているが、2000年には390万人いた。日本のように山があり谷ありのところでは農業によって景観や防災が保たれている。農業がなされなければ山河が大変なことになる。新規就農が少しは増えているが、それが現状の数字である。

会場 農協は必要なのか。いらないのか。あるいは、いいのか、悪いのか。小泉進次郎が言っているように解体しないといけないのではないか。もともと農家が作った組合だが、現在は、賛助会員で銀行と同じようなことをやっている。どうなのだろうか。農水省の予算も以前は大きかったが、いまは各省庁の中で100兆円のうち4兆あるかどうか。なぜそうなったのだろうか。

中村小太郎 大変鋭いに鋭い意見だ。私も勉強してみたが、前後にGHQは農業者だけにしようともしたが、地主を入れたことでGHQが考えたローンセンターになるようになった。農協には農業のことを知っている人がいるのだから、ビジョンとミッションを組み換えてやればいい。つまり、除草剤へのローンを止めるようにすればいい。グリホサートを使わないでもいいのではないか。

伊藤文弥 自分は直売をしているが、JAから肥料を買ったり、JAの直売にも売っている。本当にJAはいろんなことをやっているし、地域を支えていることも確かだ。JAには良くない部分があることも確かだが、「ありか」「なしか」ではない。また、地域性もある。僕の事業もそうだが一概に語ることは難しい。

司会 お二人から本音で話してもらって面白い内容だった。なお、この会の食の問題ではグルテンフリーもやっている。環境問題はあまりにも広すぎるがプラスチックゴミもやりたい(終)。

【画像】
矢口一成氏(左側)の画像はこのサイトより。右側は矢口氏から有機農業についての話を聞く池田町の甕聖章町長
久松達中氏の画像はこのサイトより
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2019年09月19日

有機学校給食を実現する③~愛媛県今治市

学校給食の先駆的事例~愛媛県今治市

今治市マップS.jpg 愛媛県今治市は人口約17万5000人、松山市に次ぐ県下第二の都市で、タオル生産で有名である。温暖な気候に恵まれ、柑橘類、木材等の農林業、鯛、ヒラメ、車えびなどの漁業も盛んである(1)

 今治市では、市長の選挙公約実現という政治的な背景を元に、1983年に学校給食の「自校調理方式」と「地元食材の優先使用」に着手する(1)

 1998年には市議会が「食糧の安全性と安定供給体制を確立する都市宣言」を採択し、それ以来、安全な食べ物の生産技術を確立し、有機農業の振興、地産地消と食育の推進を行ってきた(1,5)。学校給食等の充実を図ることにより、食べ物と農業に対する理解を深め、地域農業の振興と健康なまちづくりを推進してきた(5)。さらに、2006年には「食と農のまちづくり条例」を制定し、都市宣言の内容を着実に実行するための施策展開を担保している(1,2)

 すなわち、現在、市では、有機農業振興計画、地域農林水産業振興計画、食育推進計画の3つが策定されている。しかし、後述する安井孝氏はさらに地域自給率向上計画も作らなければと考えている(3)

部局横断的な条例づくり

食と農のまちづくり条例」では、農林水産業者、食品関連事業者の役割、市の責務を明確に示し、地産地消推進基本計画、食育推進基本計画、地域農林水産業振興基本計画、有機農業推進基本計画を全庁的な取り組みとして行うことをうたっている。役所の仕事はセクショナリズムに陥る傾向が強いが、条例からはそれを排除しようとする思いが伝わってくる(1)

 なお、同条例で、市は、学校給食での今治産の有機農産物等の安全な食材の使用割合を高めること、遺伝子組み換え作物及びその加工食品を使用しないこと、さらに、他の市の関連施設においても安全な今治産の食材の使用に努めることなどを定めている(2)

地産地消給食と有機給食の実現

今治市給食.jpg 現在、市では週に三回ある米飯は、約20年前から、全量が、市内産の特別栽培農産物(農薬・化学肥料当地比50%以上削減)に切り替えられている(2,5)。地元産米を使用する自治体は多いが、今治市では農薬や化学肥料の量にまで配慮した(5)

 学校給食で使用される野菜と果物も重量比で、市内産40%、県内産20%、県外産40%となっている(1,4)

 学校給食のパン用小麦粉もカナダ ・アメリカ産等、外国産が使用されることがほとんどだが、今治市では、市内で生産されるパン用小麦「ニシノカオリ」を導入。徐々にその作付け面積を増やし、現在では15ha作付けされ、約7カ月分と(5)、80%が市内産小麦のパンで確保できるようになった(2,3)。そして、将来的には完全自給を目指している(3)

 その他、地元産大豆による豆腐、地元産うどん用小麦によるうどんなど次々と地産地消の加工食品も給食に導入されている(4)。豆腐もほぼ市内産特別栽培大豆で作られている(2)。結果として、全体の約1割が市内産の有機農産物となっている(1,4)

食育への取り組み〜自治体独自に食育基本法を読み解くことが大切

 国が制定した食育基本法は、栄養士、保健師、栄養教諭等、栄養学に向いており、自治体が事業を行える予算もない。安井氏は、基本法が策定される折には、食農教育に近いものを期待していたが、「バランスよく食べましょう」という栄養学中心の食育に重点が置かれている(3)

 通常の食育の授業では、以下のように栄養素や食べ方に関する内容が多い

 ① 朝食の働きとバランスよく食べよう
 ② 赤(タンパク質・無機質)、黄(糖質・脂質)、緑(野菜・果物)をバランスよく食べる
 ③ よく噛んで食べる
 ④ 感謝して食べる
 ⑤ 好き嫌いしないで食べる(6)

 食育基本法では各自治体で「食育基本計画」を策定することが求められているが、これを栄養学中心のものにするのか、農に根ざした食育にするのか、各自治体は、地域の将来を見据えながら作っていく必要がある。今治市は食農教育に重点をおいたものとした。また、食育推進計画は、愛媛県の動きが鈍かったため、今治市が先に策定して県に示した。県の反応はしぶしぶだったが、ひな形として役立ったと安井氏は指摘する(3)

ばらつきがない食育がなされるよう副読本を作成

 食育は、国語・算数・理科・社会等の「教科」ではないため、どの領域で行うかについては学校に任されている。文部科学省的では「学校教育活動全体を通して」行うこととしているが、どこで行うかが、明確に示されていない。そこで、一般的には、特別活動の学級活動、家庭科・体育(保健領域)等、総合的な学習の時間等で行われている。また、食育の内容については、児童生徒の実態に応じて実施されることになっている。このため、授業を行う栄養教諭や学級担任の力量によって、内容に差が生じる(6)

 そこで、今治市では、学校の垣根を超えて、市内の小学校の教諭、教育委員会、学校栄養士、農林振興課等が「食育研究会」を開催し、モデル授業の成果を検証した上で、市内全校で食育授業に取り組めるためのプログラムを作成した。また、独自の「食育副読本」を作成し、その副読本を市内の子どもたちに配布し、それを用いて授業を行っている(6)

 今治市では、総合的な学習の時間のカリキュラムに、食育を位置付けている。この食育は以下の5つの技を習得することを目的に実施されている。

① 食を見分ける技
② 自分の食生活を知る技
③ 生活習慣病にかからない技
④ 買い物の技(表示を読む技)
⑤ 調理の技

 そして、市内どこの小中学校であっても、同じ内容の食育が受けられる。こうした素晴らしいシステムを構築できているのも、市内どこの小中学校でも、地産地消の給食が実施されているからである(6)。子どもたち自身が地元食材を使って食べてみたい献立を考える「アイデア献立コンクール」があり、大賞の献立は学校給食に採用されるという大胆な企画も行われている(1)

就学前からはじまる食育

 市の地元産品の直売所「さいさいきて屋」のお弁当を取っている幼稚園が3カ所、有機のバイキング料理店からお弁当を取っている園が1カ所、自校式の調理場を持ち、有機食材を使って給食を作っている幼稚園が1カ所ある。園児が作った野菜を中心に給食を出しているお寺がやっている幼稚園も一カ所ある。ここでは、園児が野菜も売っている。子どもが減ってきている中、幼稚園も食に対して魅力のある工夫を凝らすようになっている。安全な食べ物や、有機農業を売りにしている(3)

食育の成果はアンケートで検証される

 学校給食の食育効果は、1985年当時に小学校3年生であった子どもが26歳に達した2003年に今治市が実施したアンケート調査によって検証されている。市内の地場農産物給食を食べた子どもたちは、大人になっても食材購入に際して「産地や生産者が確かであること」「なるべく地元産であること」に注意を払う一方で、一般の給食を食べた人は「安価であること」「見た目がきれいであること」などを重視していることがわかった(1)

地産地消の推進と地域経済の再生〜地元循環型経済を創出する

 今治市では、地産地消、有機農産物の給食を通して、子どもたちの食育や地元でお金が回る仕組みづくりを進めている(2)。地元のJAが大規模な直売所を開設したり、大手スーパーでも地元農産物の販売コーナーを設置するなど、積極的な取り組みを推進し、地域全体に地産地消の機運が醸成されている(1)

 保護者が支払った給食費が、市内の農家に入るようになれば、経済の地域循環が生まれる。地元産特別栽培米を給食で食べさせ「価値づけ」していれば、家庭でも、給食をお手本に「お米を見直してみよう」という意識が増える。地元産特別栽培米の購入量が増える。生産量が増えれば、地域の農薬や化学肥料の散布量が減少する。環境への負荷が減少する。こうした好循環が生まれる。米ではなく、こうした取り組みから、新たなパン用小麦のマーケットが生まれた。

 規模が小さなマーケットだが、価値のある意義深いマーケットである。これを「地産地消によるローカルマーケットの創出」と呼ぶ(5)

地元資源を見える化し、なんでもプロデュースする玉川サイコー計画始動

 地域のマイナスをひっくり返したらプラスになる。安井孝氏はそれを仕掛けている。旧玉川町の鈍川(にぶかわ)地区は、ダムよりも上流で水がきれいである。水源の森を持つため、棚田も多く日中の気温差が大きいからおいしいお米ができる。皆「米ぐらいしかない」という。けれども、これを「米があるやん」と思うところからアイデアは発展していくと考える。

とはいえ、自分たちだけでは売れない。直売所に米30kg入りの紙袋をどかっと置いても誰も買ってゆかない。そこで、今治市玉川支所が手伝い、今、2、3kg入りの米袋を作っている。

 また、地域の女性たちが今、「食」で動き始めている。地元の女性たちが誰も知らないような隠れた名所を140もまとめ、ガイドマップを策定した。NPO「玉川サイコー」がこれを出版し、全世帯に配った。それがテレビに取り上げられて「全住民がガイドブックを持っている町」と報道された。

 田舎だけに看板や案内標識等もなかったが、ゲリラ的に手作りの看板を立てている。看板についている番号はガイドブックと連動しているため、看板を探して歩いていけばガイドブックに載っている目的の場所にいける。写真をクリックするとオンラインガイドマップへ飛べる(4)

どのようにして地産地消学校給食は実現したのか

お母さんの声を受けた始まった

 市で学校給食に地元食材を使用できるような仕組みが構築されたのは、企画振興部企画課政策研究室長を務める安井孝氏の働きである(5)。氏が、地元の有機農産物を給食に取り入れるきっかけとなったのは、「子どもに安全な給食を」と願った小学生の子どもがいるお母さんたちの運動であった(2,4)。それを市役所側で受けとめ、市内のさまざまな人や資源を結びつけてきた(2)。給食のすべてを有機・無農薬にするには時間がかかるが、住民と行政との緩やかな協働による息の長い挑戦が続けられてきた。「地元産」を大切にしていくことで、地元の消費者のファンを増やし、地域の流通を変え、生産者を巻き込み、有機を増やしていく方向へと前進を続けてきた(4)

行政が表に出ずPTAと栄養士が動くことが重要

安井孝.jpg 安井氏は、一番大きいのはPTA等、給食費を払っていただいている人たちからの意見だという。行政側も食べる側、お金を払う側のニーズに答えなければならない。保護者が「給食費が10~20円あがっても有機ものを食べさせたい」と言えば、市側も動きやすい。市議会も食べる側が求めているものが、安全でおいしくて子ども達にも良ければ反対する理由がない。

 市では、学校給食を地元の農産物中心の有機にしたいと思った保護者がPTAに働きかけ、PTAが中心となっていろんな団体も一緒になって議会へ声を届けた(2)

 行政のトップが、理解してくれれば話は早く進むし、熱心な栄養士がいれば調理現場での取り組みには心強い。しかし、安井氏は、行政が表立って音頭を取るよりも、地域で鍵になる人たちが動きやすいように裏方に回るくらいがいいと主張する。PTAが「有機を食べさせたい」との声を上げ、学校や調理場が動きだし、役所が一切登場しないのが理想である(2)

農家と対話しながら一つひとつ前進していく

 最初から一度にすべてを有機に変えるのは無理だが、「だからできない」と考えないことが重要である。安井によれば、まず、一品から、例えば、じゃがいもだけから始めるのがコツである。例えば、今治市では校区内で調理場を持っている所が多い。そこには校区の農家がいる。住民が500人規模の地域には、変わった農家の一人や二人はいる。そこで、そういう農家に一歩踏み出してもらう。じゃがいも、たまねぎ、にんじん、キャベツは年間通して給食に使われている。そこで、農家に決めてもらって実験する。もちろん、長年の農家でも有機で作るのは初めてという場合もある。そこで、最初はじゃがいもだけ、たまねぎだけ、ということから始め、成功したらまた次へとクリアしていく(2)

 PTAと校区の農家と栄養士と教員による「学校給食懇談会」を学校毎に立ち上げている。懇談会で話し合い「有機にしよう」と皆が決めれば動き出せる。地域全体で動きやすくなっていけば、1校だけでも対応が可能となる(2)

ストイックに安全性を求めるよりも楽しいことが大切

 また、安井氏は「安全だから」というだけで、ストイックに有機農法を進めようとするだけでは広がりに限界があると指摘する。「有機、有機」と言っていても、最初から皆に興味あるわけではない。どこかで切り口を探して、まず、おもしろい、楽しい、というところから動いていく。そして、最終的には有機の方向に持っていけたらよいと指摘する(4)

 すなわち、「有機農産物を学校給食に」から始まったものが、様々な地域づくりに発展していった。地域を見つめ、地元の農業の価値を再発見し、マイナスをプラスにする発想力を発揮することで、多様な立場の人がかかわれる「引き出し」のようなものが有機農業にはある(4)

有機農家と八百屋も巻き込む

 立花地区は今治市の中でも有機農業の先進地域だが、こうした生産地があってこそ地産地消も可能になる。立花地区で有機農業を営むN氏は、「かつては農薬や化学肥料を多用し、“もうかる”農業を営んでいたが、農薬の影響や食生活の乱れから家族みんなが体調を崩した。それを契機に働き方と農業のやり方を考え直し、有機農業に取り組むようになった」という。現在では、「販路が安定的に確保されていること、地元の人、特に給食を食べる小学生に喜んでもらえることが“やりがい”につながっている。Nさんは松山市に拠点を置く「愛媛有機農産生協」の設立にも尽力している(1)

 また、学校給食が有機になると、当初は八百屋の売りあげが減る。とはいえ、八百屋も有機農産物を扱えば優先して買う。最終的には、生産者だけではなく八百屋も儲かることになる。そこに至るまでは、2年位かかったが、この問題も解決した(2)

何が課題として残されているのか

食育基本法や有機農業推進法の意味

 食育基本法や有機農業推進法等の法律は、自治体が有機農業を推進するうえで役立つと安井氏は指摘する。理由は二点である。

 第一に、自治体レベルで法の目標を実現するための事業予算が得られるようになった。

 第二に、今まで相手にしてくれなかった県や国が、有機農業推進法があることから意見を聞いてくれるようになったことである。それまでは、依頼をしてもやってもらえなかった県の試験場でも有機農業での栽培試験がされるようになった(3)

環境保全型農業と有機農業とは別

 一方で、国の制度の問題点についても安井氏は指摘する。

 第一は、環境保全型農業の中に有機農業が位置づけられていることである。農林省の有機農業制度班も環境保全型農業推進室の中に置かれている。表彰でも、環境保全型農業コンクール有機の部はあるが、有機農業のコンクールはない。

 そして、環境保全型農業も有機農業が到達点になっていればよいのだが、現実にはそうなっていない。国の担当者は「最初に10回農薬をまいていたのが5回になり、3回に減って0になればいい」と言うが、自動的にそうなるものではない。農薬の回数を3回まで減らした農産物がよく売れたら、そこから0回にする動機は無くなってしまう。また、有機農業を志す人は最初から化学農薬に頼らないことを目標で挑んでいる。目標もなく、だんだん減らしていっていつのまにか0になったという人はいない。

 安井氏にいわせれば、有機農業は特別栽培の一部ではない。有機と特別栽培はまったく別物である。国や自治体はその違いを見極めて、政策を切り替えないと、有機農業は進まない(3)

なぜ有機農業が重要なのか

 よく、農協は農薬と化学肥料を農家に売るのを経営の中心にしているため、有機や無農薬には反発すると言われるが、安井氏は「もうそんな時代ではない。時代錯誤も甚だしい。そんなこと言っていたら農協はなくなる」と主張する(2)

 理由は安全性である。日本では7割以上の人が「国産は安全だ」と感じている。けれども、安井氏は国産ならば安全だという科学的根拠は残念ながらどこにもないと主張する。例えば、ネオニコチノイド系農薬の残留基準はEUと比べると日本がずっと高い(3)

 外国産の有機農産物が比較的安く輸入されれば(3)、「外国の有機の方が安くて安全じゃないか」ってことになったら国産といえども勝ち目はない。TPPで規制緩和がされ、農林中金や全農をつぶす動きがある中、農薬を売るといっている農協が一目おかれるはずがない。やがては、すべて有機にしましたよ、くらいやらないとTPP後の輸入農産物相手に勝ち残れるわけがない(2)

 外国産は作るまでは有機であっても、輸送の間に燻煙剤をかけられている。しかも、地産地消なら「朝どり野菜」も可能である。有機同士ならば鮮度が勝負となる。そこで、国産ならば絶対に勝てる。つまり、対抗できる国産は有機農産物しかない(3)

 安井氏によれば、ここは、山間地域であるため「有機にして生き残ろう」とまで思っている農家は少ない。「今のままの農業を続けながら、先細りでも、5年先10年先のことはいい、跡継ぎもいない」と考えている。それだけに、有機にしたら売れるチャンスがあることに農協が気づいて農家や農業を支えないといけない(3)

 TPPの波が来ても地域の農業が有機で持続していく道を見いだせる可能性がある。有機にはそうした可能性の芽がある。この芽を伸ばしていくために、国は農薬ありきの政策を捨て、農薬に頼らない生産者を支援し、都市の消費者と地方がつながる手助けをすべきであると安井氏は主張する(3)

ネオニコチノイドの廃止も目指す

 今治市では、米でも野菜でも使われているアドマイヤー(有効成分にネオニコチノイド系のイミダクロプリドを使用した殺虫剤の商品名)の使用を止める根回しも始めている。特別栽培米では田植え後にはアドマイヤーは使用されないが、育苗段階では苗箱に使われている。せっかく有機を謳っている以上、脱ネオニコチノイドも進めていきたいからである。とはいえ、安井氏によれば、かなり抵抗が大きい。行政は、残留農薬を調査して、農薬が出たとしても基準値以下ならばそれで終わりで、農薬が散布された後に分解して他の毒性物質に変わっていることまでは調査しない。

 営農指導員にも協力してもらいながら、地域のキーパーソンに仲間になってもらって進めていくのがカギである。そして、危険に対する声を保護者からあげることが重要である(2)

編集後記

 安井氏は、10年はかかると思うが、移住者を呼び『自然農の里』を作り、小学校中学校の給食を作ってもらおうと考えている(4)。食の安全確保は規制の強化やモラルで解決できる問題ではない。生産・流通・消費の関係性そのものを問わなければならない。多くの市民は、これまで値段と賞味期限の表示ばかりを意識し、「どこで、誰が、どのように」食べ物を作っているのかということに、あまりに無関心すぎた(1)。そして、効率化とかいって最近はなんでも手間を省こうとされるが、地域づくりは手間を省こうとしてはできない(4)。無関心を改め、効率化や便利さを見直すところから始まる。

 なお、私事ながらこの9月末には今治市を訪れ、有機学校給食の現場とそこに有機食材を提供している生産者の方のお話を聞かせていただける予定である。それを受けて第二弾を加筆したい[2019年9月19日投稿]。

【補記】
 この今治市の取材結果は、拙著「コロナ後の食と農・腸活・菜園・有機給食」(2020)築地書館のコラム3-2「有機給食と食の自治のルーツを求めて」に記載した。ご関心のある方はご拝読いただければ幸いである[2022年5月3日]。
【画像】
今治市の位置図の画像はこのサイトより
安井孝氏の画像はこのサイトより
今治市の有機野菜学校給食の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) 2008年3月31日:北上哲仁「視察報告:食育と地産地消―愛媛県今治市」地域・アソシエーション研究所第50
(2) 2014年8月21日:関根『愛媛県今治市を訪ねて~その(1)有機の給食はこうして始まった』
(3) 2014年8月25日:関根「愛媛・今治市を訪ねて~その(2)TPPでも国産有機なら勝てます」
(4) 2014年8月28日:関根「愛媛・今治市を訪ねて~その(3)地域をまるごとプロデュース」
(5) 2018年10月20日:亀田明美「学校給食を通した食育のまちづくりシンポジウム① 今治市の地産地消学校給食」ふくしま子どもの学校給食を考える会
(6) 2018年10月20日:亀田明美「学校給食を通した食育のまちづくりシンポジウム② 今治市の地産地消学校給食」ふくしま子どもの学校給食を考える会
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2019年08月23日

有機農業でまちおこし③~世界初の100%自然農法州の誕生か~インド・アーンドラ・プラデーシュ州

インドで広まる自然農法

Andhra-Pradesh.jpg いまから3年前、パワン・クマールは、ITの専門家として、ハイデラバードで働いていたが、退職して村に戻り農民になろうと決断した。西ゴダバリ地区の小規模農家でしかない父親はあきらめさせようとしたが、新たな「自然農法」について関心を抱いたクマールは聞く耳を持たなかった。

「母親も泣きました...。農民とは女の子は結婚しないと言ったのです。ですが、自分は戻って来て幸せです。父は0.4haさえ耕させることに躊躇していましたが、今は、自分が2haすべてを自然農法に転換することを認めたのです」と、クマール(26歳)氏は言う(2)

 自然農法に魅了され、西ゴダバリ地区のドメル村の農民、サティヤ・ナラヤーナも2.5haのバナナ農場すべてを2017年に自然農法に転換した。

「先月、あられを伴った嵐で他の農場は全滅しましたが、植物が強かったので自分は影響を受けませんでした」と、化学投入資材で育てたよりも太い一房のバナナを指さす(2)

 Chandrasekhar-ReddyS.jpgアーンドラ・プラデーシュのカダパ地区の農民、チャンドラーセカール・レディも4年前に慣行農業を転換してから豊かになっている。

 農場は4.5haだが、化学肥料や農薬を伝統的なタネ、牛糞他の地元で利用できる材料から製造できる資材に変えた。これが経費削減につながった。加えて生産物の品質を大幅に向上する。

「たとえばこの花です。収量は慣行農業での10~11t/haが15~17tまであがり、鮮度が長く保持され以前の1日に比べ3日は持ちます。そして、価格はより高いのです」(4)

 彼らは、アーンドラ・プラデーシュ州にいま16万人もいる「借金なし自然農法」を実践する農民たちの1人だ(2,4)

世界最初の自然農法州がインドで誕生か

 2018年6月2日。インドのアーンドラ・プラデーシュ州政府は、インド初の100%の自然農法の州となることを目指し、2024年まで州内の800万ha、600万農場を100%無農薬の自然農法へと転換する計画を立ち上げた(1,2,3,4,5)。現在の16万戸を600万へと拡大する(3)。かくも大規模な持続可能な農業への転換は先例がない(1)

 このプログラムの重要性は、国連環境計画やFAO等の国連機関も重視し(3)、多くの関心や協力を呼びこんでいる。例えば、立ち上げイベントには、8000人以上の農民が参加する他、多くの国際的なキーマンが出席した(1)

 国連環境計画のエリック・ソルハイム事務局長はこう言う(1,3)

「これは大規模な持続可能な農業に向けた方の先例のない変化です。気候、生物多様性と食料保障を保護するために必要なことへの大胆な変化です。借金なし自然農法プログラムは、農民、消費者、そして、地球のためになるものです。その広範にわたる採用が大いにインスパイアすることを望みます」(1,3)

「再生農業を推進するため、気候にレジリアンスのある借金なし自然農法の規模拡大のためのプログラムの公式な立ち上げは、ローカルなフードシステムや農民の長期的な幸せを保護し転換するため幅広い努力で、先例がない州のコミットメントを示す。アーンドラ・プラデーシュの借金なし自然農法の成功は、SDGsを達成することでインドを助けるだけではない。開発途上国全域の何百万もの農民たちをインスパイアし、その暮らしを変えることもできる」

 Chandrababu-NaiduS.jpgアーンドラ・プラデーシュ(元)首相チャンドラバブ・ナイドゥはこう語る(1)。事実、アーンドラ・プラデーシュ州の取り組みは、同様の実践をしているカルナタカ州やヒマチャルプラデシュ州政府も換気している(3)。2018年7月、カルナタカ州は自然農法を採択のため5億ルピーの配分を発表した。2018年8月には、ヒマチャルプラデシュ州のアチャリヤ・デヴ・ヴラット知事も「現在の化学農業のシステムを変えるのに有効だ」と述べ、借金なし自然農法を採択するよう主張。同州政府は、2018年に自然農法を立ち上げのため2億5000万ルピーの予算を割り当てた(3)

 WWFインターナショナルのパヴァン・スクデフ代表もこう評価する。

「アーンドラ・プラデーシュ州政府は、インド初の「緑の革命」の州から「自然農法」の州へのトランジションで本物のリーダーシップを示しています。借金なし自然農法の拡大は、再生農業を推進し、生物多様性や生産性を改善し、小規模農民たちの適切な生計を確実にします。彼らは、人々が消費する食料の多くを育てていても、その労働でなけなしの報酬しか受領していないのです」(1)

SDGsからも評価される自然農法への転換

Tony-Simons.jpg このプログラムは、国連のSDGsに向けて貢献する。『貧困でない』、『きれいな水と公衆衛生』、『責任ある消費と生産』と『土地のうえでの生活』だ。SDGsの17のうち14は、天然資源の状態、コミュニティの健全性、安全な栄養へのアクセス、女性のエンパワーメントに依存する。そして、借金なし自然農法はSDGsの目標を達成するため、クロス分野の効果的な戦略をなしている。そこで、世界アグロフォレストリーセンターのトニー・サイモンズ会長はこう言う。

「借金なし自然農法は、アグロエコロジー的な原則のうえに構築されている。アグロエコロジーは、健全な統合、システム科学の中心にある。レジリアンスがあり生産的な景観を約束し、社会やエコロジーに多面的なメリットを提供する。それは、我々の地球社会がその景観のすべてで今日非常に必要とするものだ」(1)

 世界アグロフォレストリーセンターは、森林のメリットや持続可能な土地管理についてアジア、アフリカ、ラテンアメリカと30カ国以上で支援活動を行っている。SDGsの達成をサポートし、未来の食料保障のための世界的な研究パートナーシップ、CGIARコンソーシアムのメンバーでもある(1)

 2018年9月25日にニューヨークの国連本部で開催された会議『持続可能な農業の資金を調達するグローバルな挑戦と機会』では、アーンドラ・プラデーシュ州のチャンドラバブ・ナイドゥ元首相は、州での自然農法の成果を強調した(3)

背景にあるのは土壌劣化や農業問題

 インドでは化学農薬、とりわけ、他国で禁止されるものを含めた違法な農薬の使用は、懸念される問題で、激しい議論に直面している。それが自然農法導入に大きく関係している(3)

 Soil-erosionS.jpg農業の現状は、ほとんどの農民たちにとって望ましいものではなく、かつ、小規模農家や辺境の農民たちにとってはさらに厳しいものがある(3,4)。化学集約的な慣行農業によって多くの土地では地力が低下し、地下水資源も枯渇しているが(4)。タネや農薬等の投入資材に多くの経費がかかるうえ、融資の利率は高く、作物の価格は低迷し、化石燃料代はあがる一方なのである(3,4)。インドでは、1960年代から農薬、化学肥料、ハイブリッド種子がセットとなった緑の革命が進められた。1990年代に入ると、モンサントが推進する遺伝子組換えのコットンの普及で類似した戦略が使用された。その結果、地元の農業生物多様性やそれと関連した伝統的な知識の損失、種子の主権の喪失、特許種子や農薬購入への借金の依存、農産物価格の低迷による借金漬け、前例がない自殺という悪循環が広まった。1995~2015年にかけては、公式にも35万人がこれで自殺したことが認められている(5)。さらに、気候変動による異常気象にも苦しめられ(4)、なおかつ、農薬が含まれる食物や水の健康への影響も懸念されている(3,5)。農薬問題はインドの最高裁判所でも訴えられ、「健康に有害」との理由からインド全域で使われるほぼ85の農薬の禁止を求めた嘆願も出されている(3)

 実は、アーンドラ・プラデーシュ州は、プログラムが始まるまではインド内でも最も農薬消費量が多く(4)、ハイブリッド種子と遺伝子組換えコットンの主要な消費地だった(5)。今も、ほとんどの農業が化学集約型であることから(4)、自然農法への州全体の転換は喜ばしい(5)。アーンドラ・プラデーシュ政府は、環境や生物多様性、土壌の健康を改善することを目的とし、食料保障だけでなく、土地なし農業労働者を含めて農業収入をあげることも重視する(4)。多様な作付けによって生態系を回復させつつ、農場生物多様性や生態系サービスを強化し、現場の資源を活用して土壌を若返らえさせ、外部投入資材を削減すれば、辺境の小規模家族農家の収入も増え、経済的に営農が実現可能となる(1)。借金なし自然農法が採用されたのはそのためで、2018年8月に議会で質問に答えて、インドのラダ・モハン・シン元農業・農業福祉連合大臣はこう述べている。

Radha-Mohan-SinghS.jpg「借金なし自然農法の主な狙いは、化学農薬の排除と良い農業の実践の推進である。自然と調和した環境にやさしいプロセスによって、無農薬での農産物を生産し、農業生産を支えられる。地力や土壌有機物も自然農法を追求することで回復する。より少ない水しか必要とされない。それは農業の気候に優しいシステムだ」(3)

 持続可能なホリスティック農業連盟のカヴィータ・クルガンティ氏は、自然農法への関心と農薬への反対運動は相補的だと強調する(3)

「これらの努力は、一緒になると最も効果的です。それには、農民から農民へと構築される実践的な知でサポートされる必要があります。アーンドラ・プラデーシュ州政府が自然農法を採択したことはまさにそのモデルです(3)

 このプログラムを具体的に実施するのは、そのために2014年に政府が設立した「農民環境組織(Rythu Sadhikara Samstha=RySS)である(1,2,4)。州の農業委員がこの団体の最高責任者となり、地区レベルでは、このプログラムは農業部局長が実施することとなっているのだが(4)、アルドラ・プラデシュ州の農業プログラムの主要な立案者で、農民環境組織の副議長でもあり、州政府のアドバイザーでもあるビジャイ・クマール氏はこう言う(3,4)

Vijay-Kumar.jpg「農民の福祉、消費者の健康と環境の保護とそれは非常に社会益が高いプログラムです(4)。借金なし自然農法では、養分が土壌の生物に取り入れられるようになります。ですから、消費者も自然農法からの食べ物がよりおいしいとわかるのです。研究でもヒョウタンでビタミンB12が存在することがわかっています」(3)

 2019年5月からインド政府の農業・農業福祉連合大臣を務める、Parshottam Rupalaも、最近議会でこう話した「有機農業ネットワークプロジェクト下のインド農業研究委員会、統合化農業システム下の全インド研究プロジェクトは、『バスマティ米と小麦システムでの借金なし自然農法の評価』の実験を始めた。土壌有機カーボンと土壌肥沃度を含め、生産性、経済性と土壌の健康で借金なし自然農業の実践を研究するためである」(3)

 自然農法が全農地で実行されれば、5000万人以上の消費者にとっても医療面でかなりのメリットがある。作物に存在する無機化学資材への被曝を避けられるからだ、州政府のリポートは指摘する(3)

借金なし自然農法とはアグロエコロジーである

 Subhash-Palekar.jpg借金なし自然農法は、アーンドラ・プラデーシュ州を含め、いくつかの他州で実践されているが、農学者、パドマ・シュリー勲章を受賞したマハラシュトラ州出身の農学者、サハシュ・パレカル(1949年~)が開発した(2,3,5)

 政府によれば、2018年9月では3015カ村の35万人もの農民が自然農法を実践しているが、自然農法プロジェクトが始まる以前から「借金なし自然農法」はアーンドラ・プラデーシュ州のある地域ではよく知られていた。2005~2014年にかけて州が実施した「コミュニティ管理持続可能農業プログラム」の下、パレカルがトレーニング・キャンプを実施していたからである(4)。アーンドラ・プラデーシュ州は、この20年、アグロエコロジー農業を進めることに力を注いで来た。結果としては成功せず、非化学農業を営むのはまだ州の農業者の1%にすぎないが、コミュニティ・プログラムも化学集約型農業からの脱却を目指すひとつだったのである(5)

 パレカルは、借金なし自然農法の以下の4つの重要な「車輪」を強調する。
  • jeevamrutam(作物用に、牛糞、尿、ジャッガリー(jaggery)、小麦粉と泥から製造される発酵微生物)(2,4)。これが、土壌中の微生物活動を刺激し、作物の成長を促進し、害虫から作物を守る(2)
  • beejamrutam(牛糞、尿、石灰を用いた種子の微生物コーティング)
  • マルチ(表層土を収穫残渣でカバー)。マルチや収穫物の残渣で表土をカバーすることで湿度が保たれ土壌に重要な養分を供給される(2,4)
  • whaphasa(土通気)。
 とはいえ、この四原則を厳守するための資源ができない村もある。そこで、例えば、牛がいない村ではヤギの糞や尿を使われている。このプログラムのパートナーNGO、持続可能な農業センターでは、次善策を推奨している。

 R Ramanjaneyulu氏はこう語る。

「我々は、これで2つの原則でガイドされています。発酵資材は地元資源で調合すること。そして、はっきりした理解に基づくアグロエコロジーを採択しなければならないことです」(4)

 ココナッツ、ヤムイモ、ココア、バナナの間作やマメの活用も欠かせない(2)。すなわち、借金なし自然農法は、地元で活用できる資源を用い、外部投入資材の入力を極力抑えるアグロエコロジー的なアプローチの農法である(4)。購入される化学投入資材がなくなることから「借金なし自然農法」と呼ばれるが(3)、マルチや間作等のやり方はアグロエコロジーと同じである。アーンドラ・プラデーシュ州の気候条件に適した有機農業やそれ以外のアグロエコロジーではなく、自然農法だけが推進されるのではないかと懸念する市民団体に対して、ビジャイ・クマール氏はこう答えている。

「その原則が健全で、長い時間をへてその有効性が証明されていることから政府は借金なし自然農法を推進している。農民、とりわけ、小規模な辺境の農民からも受け入れられ、誰でもやれることから偏見をもたないでいただきたい」

 なぜこのプログラムが一般的なアグロエコロジー農業ではなく「借金なし自然農法」と称されているのかに対してはクマール氏はこう答えた。

「最も大切なことはプログラムの名称ではなく、それを通して私たちが達成しようとしていることだ。つまるところ、地元で利用できる資源を活用したアグロエコロジー的な実践をどの農民も発展させることが狙いなのだ」(4)

実証された自然農法の効果

 実際に収量調査もなされている(2)。2017年に借金なし自然農法プロジェクト・チームが実施した調査は、自然農法に転換した農民の88%で収入や収量が増大していた。それ以外の10%は若干の収量低下を報告したが、投入経費が削減されたため、全体的な収入は増大していた(4)。デリーにあるエネルギー、環境、水委員会の2017年の調査では、ピーナッツは23%、水稲では6%収量が多かった(2)

 グンツール地区やカダパ地区の農民は、借金なし自然農法のメリットが見えるまでには時間がかかると言う。

「化学ベースの投入資材を使うのを止めたあと、土がその豊かさを回復するまで2、3年はかかります」

 カダパ地区の農民は言う。

「この期間は生産は低下します。そこで我々は段階的なトランジションをアドバイスされました。まず狭い面積から始め、4~5年で全面転換できるように少しずつ広げるのです」

 カダパ地区ブロックのコーディネーターは言う。

「伝統的なタネの入手可能性は大きな問題です。ですが、一緒に地元で利用できる品種をプールするため、シード農民とシードバンクを開発するために、我々は農民と働いています」(4)

 水稲のような農作物では、水稲等では最初に大きく収量が低下する。けれども、なんとか農産物をより高く売れたことで克服できたと指摘する農民もいる。「借金なしでは劇的にコスト軽減できるが、ベースとして使う微生物発酵資材他の準備のため、人件費が増える」と別の農民も言う。けれども、『借金なし』とされるのは、基幹作物の栽培コストが間作収入で相殺されることもあるからだ(3)

篤農家を特定・育成することでプログラムを推進

 アーンドラ・プラデーシュ州のパイロット・プロジェクトは700カ村にも及ぶ。同州には12494もの村パンチャーヤット(gram panchayats)がある。そこの60万もの辺境で働く小規模農民一人一人に自然農法への転換を確信させ、支援しなければならない。プログラムは具体的にどのように普及されているのであろうか(4)。実は、この普及に当たって興味深いイノベーションが見られる。普及に従事する「農民環境組織」は100人以上の自然農法のフェロー(fellows)―卒業生たちを雇用していることだ(2)。実際に借金なし自然農法で恩恵を得て、その旗持ちになっていて、近隣の農民たちに普及している人がその候補者となる(3)

 彼らは、借りた土地で自然農法を営み、村にとどまって農民たちの質問に答える。自然農法のメリットを示すため1ヵ月で3万ルピーが支払われる(2)。つまり、NGOと協働して、自然農法を広めるうえで最適とされる篤農家を選び出し、最高の実践がやれる「マスター農民」を創り出す。こうした農民は、現場で携帯プロジェクターも活用しながら村々で教育ビデオを放映し、最高の実践事例を示すトレーニング・キャンプを開いていく。普及のために選出される農民たちのほとんどは以前の「コミュニティ管理持続可能農業プログラム」の参加者である。「持続可能な農業のためのセンター」は、この農業プログラムの運営にも関与していたが、カダパ地区のフィールド・コーディネーター、S Janardan氏はこう言う。

「彼らは、よりたやすく借金なし自然農法へ転換できるアグロエコロジー的な実践によくなじんでいます。一旦こうした篤農家が2〜3年で借金なし自然農法を内在化すれば、彼らはすべての村で、ベストな実践をする農民の二番目の梯子となります。徐々に、1人、2人と5年で、次の梯子のマスター農民が、村の全農民に自然農法をもたらすことに向けて働くのです」(4)

Kavitha-KurugantS.jpg 前出のカヴィータ・クルガンティ氏もこういう。

「農民たちが仲間の農民たちに知を広めています。農民たちが自然農法に転換するのは仲間の農民たちが成功しているのを目にするときだけなのですから」(3)

 ヴィジャイ・クマール氏は詳細な達成計画も語っている。

「2019~20年で16%、2020~21年で37%、2021~2022年で58%、2022~23年で80%、2023~24年でほぼ100%の農民が自然農法に到達する計画だ。耕作地も着実に増え、2026~2027年には809万3712haで自然農法がなされていなければならない」(5)

デジタル技術を活用してモニタリング

 Mini-weather-stationsS.jpg口コミはローカルだが、ハイテク技術も活用されている。自然農法への転換が、土壌や大気へ及ぼす効果を研究するために 2018年中頃に持続可能な農業センターは2、3の村でマイクロ天候監視ステーションを試行し始めた。各ステーションでは、7万ルピーの経費がかかるが、温度、雨量、空気、湿気と気流を6~9分おきに記録する。

 各村にいるリーダーの農民は「アオガエル(Blue Frog)」と呼ばれる特注のモバイル・アプリにアクセスする。このアプリでは圃場からの転換の効果やデータが記録される。これを農業部局やNGOが共有することで進捗がモニタリングできるのだ。

「パイロット・プロジェクトの成果を評価し、プログラムをモニタリングするため、デジタル監視システムが気象状況や農業の実践に関するリアルタイム・データ収集に活用できるのかを確認しているのです」と、ヴィジャイ・クマール氏は言う(4)

農民たちの自立に向けた自助努力が大切

 農業生産には人的資源やソーシャル・キャピタルが欠かせないが、借金なし自然農法はこれも創出しようとしている。農民たちの組合や自助グループを設立し、農民たちを知識の創造と普及の最前線に据えることで、力強くインクルーシブな農業生産のために必要なソーシャルキャピタルを創造することも目的としている。

 持続可能な開発のための世界ビジネス委員会の理事で、オラム・インターナショナル・グループのCEO、サニー・ヴェルガーゼ氏はこう言う。

「借金なし自然農法プログラムは、インクルーシヴで責任ある成長を担保するため、社会的・環境的・経済的な配慮を埋め込んでいる。生産的であるためには、生態学的・社会的な資源が必要だが、それらをいずれも劣化させ続けるならば、農場は経済的に生きられるはずがない」(1)

female-group.jpg 食料保障の改善や土地なし農業労働者の暮らしの改善もプログラムの鍵となる目的のひとつである。アナントプル地区では、NGO農村環境開発協会が、2つの女性の自助グループの立ち上げを援助している。

「メンバーの何人かは自殺した小作人の未亡人です。誰も自分の名義で農地を手にできていません」

 借金なし自然農法プログラム下でトレーニングされた2グループは、都市の市民団体から12万ルピーと25万ルピーの支援金を得て、それぞれ3haと7haの土地を借りられた。女性たちは、グループで集、雑穀、マメ、落花生、野菜を栽培し始めた。ほとんどが自家用だが、余剰も生産でき、地元市場でそれを売ることができている(4)

規模拡大には資金が必要、BNPパリバが出資

 B.Rajasekharは、アーンドラ・プラデーシュ州の農務長官(special chief secretary)なのだが、無農薬農業を達成し、小規模な辺境の農民のため報酬がなくなっている農業のような問題に対処するために、このアイデアは、2014年に政府によって開始されると説明した。

「すでに約16万人の農業者が実践している。年末までに約50万の農民を入れ込み、2024年までには全国に拡大したい。借金なし自然農法は、肥料や農薬が出現する前から我々の祖先がやっていたことだ。我々は、それを前州に規模拡大するには今後1500億ルピーが必要だと見積もった」(3)

 つまり、2024年への自然農業への完全転換には約1500億ルピー、23億ドルが必要である(3,4)。州政府は、2021~22年のプログラムで州の全農民の8%にあたる50万人を転換する予定だが、この転換経費のほとんどは、モデル農家の育成、自助グループや農民生産者グループへの資金援助である。そして、国連機関や金融機関、グローバル市場を含めた幅広い範囲からこの資金を調達しようとしている(4)

 FAOは、アーンドラ・プラデーシュ州での借金なし自然農法のキャパシティ構築のため1000万ルピー(15万ドル)を提供するとしているが(3)、この資金確保で鍵となる役割を演じている組織のひとつが、持続可能なインド財団ある。これを、国連環境計画、世界アグロフォレストリーセンター、BNPパリバが応援する(1,2,3)。こうした金融機関は、再生可能エネルギー、農林水産業、生物多様性の劣化を逆にするために長期投資を行おうとしている(3)

 国連環境計画以外でも、Azim Premji Philanthropic Initiative(APPI)が計画の支援で10億ルピーの寄付を発表した。また、インド政府のシンクタンク、NITI Aayogと関心も示している(3)

 BNPパリバ社は、欧州の14万6000人を含め、74カ国で19万2000人以上の従業員を抱えているヨーロッパの国際銀行だが。グローバルマネジメント委員会のメンバーでもある同社のアンソニー・サイア頭取はこう言う。

「持続可能で生産的な経済には不可欠で、農民の福祉や持続可能な実行のためのこうした印象的なプログラムを支えることでBNPパリバは嬉しく思います。国連のSDGsをそのグローバルな企業計画に含んだ銀行として、私どもは、財務業績でなく、環境と社会へのポジティブなインパクトを考慮するパートナーシップと機会に係わるよう努めたいのです」(1)

 持続可能なインド財団のサティヤ・トリパティ頭取はこう言う。

「世界は気候変動の軌道を逆にするために時間がなくなっている。アーンドラ・プラデーシュでの借金なし自然農法プログラムのように、かなりのポジティブな外部性がある再生農業支援する新たなパラダイムにかかわり、投資することが重要な理由だ」(1)

 そして、こう続ける。

「我々のコアの目的は、持続可能で気候にレジリアンスのある農業への投資を拡大することだ。アーンドラ・プラデーシュ州で設定された目標は達成できると我々は思っている。けれども、これには、農産物を市場出荷し、より良い価格で農民が稼げるために『自然農法』ブランドの創設が必要だ」(2)

 確かに、有機食品を市場で利用できるようにすることが、農民や貧しい者にとってもプログラムの鍵となる目的であると、ヴィジャイ・クマール氏も言う。けれども、こうしたことが農業セクターをさらに商業化し、プログラムの目的に事実上反して農業のコントロールを農民から奪うのではないかと批判家は懸念する(4)

 というのは、BNPパリバは、世界各地で石炭開発プロジェクトに融資することで知られ、インドのタタ・ムンドラの超メガ石炭発電所は論争の的となり、最も有害な企業を表彰するピノキオ賞を2017年に受賞。草の根の組織、地球の友ヨーロッパがその矛盾を批判している。気候にレジリアンスがある自然農法を推進するため、わざわざ国連環境計画がパートナーとして選えらんだのは、なぜこうした銀行なのだろうか。

 こうした融資の発端はチャンドラバブ・ナーイドゥ元首相にある。ナーイドゥ元首相は、借金なし農業への投資を促すため2018年1月にG20サミットの間にダヴォスに足を運ぶ。これに先立ち、2017年11月にはビル&メリンダ・ゲイツ財団やグローバルな社会的起業家のコンサルティング会社、ダールベルクにも声をかけている。ビル・ゲイツは自ら遺伝子組換え農業を認める投資家である。アフリカで遺伝子組み換えを推進しようとして失敗し、国際的に非難されたこともある。第三世界ネットワークによれば、第14回、生物多様性に関する条約会議の決定にも影響するため、Emerging Agと称する民間農業やバイテク企業が少なくとも65人は加入していた。そして、Emerging Agが動くため、ビル&メリンダ・ゲイツ財団は16億ドルを支払っている。なぜ、ゲイツ財団に声をかけなければならないのか。そこにも矛盾がある。

 2018年9月の国連総会でもナーイドゥ元首相は、借金なし自然農法をPRし、かつ、ニューヨークの投資家たちの集会でも演説したが、彼を招待したのはエリック・ソルハイムである。

 結果として、これほどグローバルな資金の外国からの流入は、インドましてやグローバル的にも前例がない。もともと自然農法は主に自給を目指したもので、マネーを含めいかなる投資もない。この問題は、自然農法を進めるために、それほど巨大な資金を必要とするのかなのだ(5)

参加型認証制度と誰しもの有機農産物を

 また、NGOは参加型認証システム(Participatory Guarantee System)も支援している。このシステムでは第三者認証機関と同じほど有機的であることが農民たちが宣言できる。また、NGOは農業部局が農民生産グループを市場とつなぐことも支援している。そうすることで、農民たちはより良い価格で消費者に生産物を直売できる。

「私たちは有機食品がエリート主義のままでないことを確実としたいです。我々が考えているのは、市場で入手できる有機農産物を増やすことですが、こうした女性の自立グループと都市の貧困層とつなぐことを考えているのです」

 ヴィジャイ・クマール氏はそう述べた(4)

編集後記

 塩尻市で自然農法を営む中村小太郎氏は「TPP」が必要だと語る。もっとも彼のいう「TPP」とはモデル事例を「とにかく、パックってパクりまくれ」の頭文字をとったご自分の造語だという。ということで、このブログでも「パクる」に値しそうな世界のモデル事例を紹介したいと思い、模索しては発信している。

 サハッシュ・パレカルのゼロ予算自然農法—ここでは秩父在来のダイズ「借金なし」にちなんで、「借金なし自然農法」と意訳したのだが―がインドで大きく普及しているということは知っていた。パレカルが世界に冠たる自然農法の大家、福岡正信翁を師と仰ぎ、翁が訪印した折に師事したことも自然農法の「箔」を付ける一助となったのではないだろうか。とにかく、インドでは福岡翁は「聖者」として圧倒的な支持がある。とはいえ、そのパレカルの自然農法が州全域にまで推進されることになっているとは予想だにしなかった。800万haとは日本の農地を面積のほぼ倍である。それをことごとく自然農法にチェンジするとはただ事ではない。

 しかも、その手段も極めて現実的である。実際に成功している農家に指導料としての支援金を出し、現場で実証させながら口コミで広めて行くというのはあまりにも具体的である。まさに、ラテンアメリカで誕生した「カンペシーナ運動(El movimiento Agro-ecológico de “campesino a campesino”)」を想起させるものがある。現場での種子保存や微生物発酵資材を生かした種子消毒。こうした伝統的な技が復活し、なおかつ、これが、ハンディビデオや気象測定器といったハイテク装置とセットとなっているのがいい。

 とはいえ、懸念されるのは、このための膨大な投資だ。カヴィータ・クルガンティさんのように明確に反GMOを打ち出している女性運動家が活動しているのは納得ができるが、なぜゲイツ財団がここで絡んでくるのかがわからない。気候変動対策を先陣を切って対応しなければならない国連環境計画が「気候変動にレジリアンスのある農業」をうたい文句にゲイツと手を組むというのはあまりにも怪しい。アーンドラ・プラデーシュ州の転換計画が本物であったのか、そして、これを推進したチャンドラバブ・ナイドゥ元首相の資金繰り工作が本当に正しかったのかどうかは、まさに後世の歴史家が判断することであろう。そして、いまの私たちに求められているのはメディアリテラシー、「やった、アーンドラ・プラデーシュ州、すごい、すごい」と情報を100%鵜呑みにして絶賛するのではなく、ある程度、距離をおいて相手の良い所だけをパクるという作法だと思うのだがどうであろう。

【人名】
パワン・クマール(Pawan Kumar)
サティヤ・ナラヤーナ(Satya Narayana)
チャンドラーセカール・レディ(V Chandrasekhar Reddy)氏の画像は(4)より
エリック・ソルヘイム(Erik Solheim)事務局長の画像はこのサイトより
チャンドラバブ・ナイドゥ(Chandrababu Naidu)元首相の画像はこのサイトより
アチャリヤ・デヴ・ヴラット(Acharya Dev Vrat)知事
パヴァン・スクデフ(Pavan Sukhdev)博士の画像はこのサイトより
トニー・サイモンズ(Tony Simons)会長の画像はこのサイトより
ラダ・モハン・シン(Radha Mohan Singh)元大臣
ヴィジャイ・クマール(T. Vijay Kumar)副会長の画像はこのサイトより
カヴィータ・クルガンティ(Kavitha Kuruganti)さんの画像はこのサイトより
Parshottam Rupala
サハッシュ・パレカル(Subhash Palekar)氏の画像はこのサイトより
サニー・ヴェルガーゼ(Sunny Verghese)氏の画像はこのサイトより
サティヤ・トリパティ(Satya Tripathi)頭取
アンソニー・サイア(Antoine Sire)

【地区名】
アーンドラ・プラデーシュ(Andhra Pradesh)
西ゴダバリ地区(West Godavari district)
ドメル(Dommeru)村
カダパ(Kadapa)地区
カルナタカ(Karnataka)州
ヒマラヤプラデシュ(Himachal Pradesh)州
グンツール(Guntur)
アナントプル(Anantpur)地区

【用語】
借金なし自然農法(Zero Budget Natural Farming)
世界アグロフォレストリーセンター(World Agroforestry Centre=ICRAF)
持続可能なホリスティック農業連盟(Alliance for Sustainable and Holistic Agriculture =ASHA)
インド農業研究委員会(Indian Council of Agricultural Research=ICAR)
有機農業ネットワークプロジェクト(Network Project on Organic Farming =NPOF)
全インド研究プロジェクト(All India Coordinated Research Projects=AICRP)
コミュニティ管理持続可能農業プログラム(Community Managed Sustainable Agricultural Programme)
パドマ・シュリー勲章(Padma Shri awardee):インドの勲章のひとつ。民間人を顕彰する勲章として4番目の格式を持つ
持続可能な開発のための世界ビジネス委員会(World Business Council for Sustainable Development)
OlamインターナショナルのグループCEO(Group CEO of Olam International)
持続可能なインド財団(Sustainable India Finance Facility= SIFF)
『持続可能な農業の資金を調達するグローバルな挑戦と機会(Financing sustainable agriculture: Global challenges and opportunities)』
グローバルマネジメント委員会(Global Management Committee)
BNPパリバ(BNP Paribas)
農村環境開発協会(RuralとEnvironment Development Society)
タタ・ムンドラ(Tata Mundra)
第三世界ネットワーク(TWN= Third World Network)
ビル・ゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation=BMGF)
ダールベルグ(Dalberg)
生物の多様性に関する条約(CBD= Convention on Biological Diversity)

【引用文献】
(1) Andhra Pradesh to become India's first Zero Budget Natural Farming state, The United Nations Environment Programme, 02 Jun 2018.
(2) Sayantan Bera,How Andhra Pradesh is taking to ‘natural farming’, livemint,12 Jun 2018.
(3) Mayank Aggarwal, Mongabay Series: Conserving Agro-biodiversity, Environment And Health,Andhra Pradesh’s push for zero budget natural farming inspires others,mongabay, 27 Sep 2018.
(4) Aritra Bhattacharya, Andhra Pradesh Climate Resilient Zero Budget Natural Farming programme seeks to wean away 60 lakh farmers from chemical-based agriculture, Feb 13, 2019.
(5) Leo Saldanha, Budget push for zero budget farming but contradictions mar Andhra’s natural agri foray, 09 July 2019.
posted by 情報屋 at 23:41| Comment(2) | まちおこし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月17日

有機農業でまちおこし②〜フランスの農政転換は本物か

学校給食を有機に

France-to-introduce-organicS.jpg「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」

 このヒポクラテスの著名な格言が、フランスでは現実化している(5)。2018年の初頭、フランスのステファン・トラバーツ農業大臣は、2022年までには、公共食として提供される食材の50%が有機農産物か、地元で生産された持続可能なものか、あるいは、特定の品質を備えたものでなければならないと発表した(1,2,4,5)。この新たな規則は、フランスの農業部門を発展させると同時に食を改善するための処置の一部である(1)。長らくフランス政府が目指して来たことだが、なかなか進展はなされなかった(2)

 全国レベル上で50%を達成するとは実に野心的ではないか。イタリア等とともに、フランスは、持続可能な食に向けたそのコミットメントでヨーロッパの最前線に立つことになる(5)

 これは公共調達にとって何を意味するのであろうか。この国家目標は、食材の栄養的な質に重点をおいて、食堂での食材の購入のあり方を転換することを意味する。そして、子どもたちに健康的な食習慣になじませる機会を提供することを可能にするであろう(5)

Didier-Guillaume.jpg 2018年10月からはフランス農業大臣は、ディディエ・ギヨームに変わったが、2019年3月に同大臣は、「全国仕出し協議会」の設立を発表した。同協議会は、食料農業漁業省のMireille Riou-Canalsが率いるのだが、仕出し業者から提供される食材の質を担保することを目的とする。すなわち、前述した2022年までの有機食材等の確保を担保する業務を担う。

 そこで協議会は、まず、現在の法規則を見直し、試験的に実施戦略も行なう。

「持続可能な食にむけた我々の野望が成功するかどうかは、集団的な行動にかかっている」

 そう、ギヨーム農相は言う(4)

 また、それ以外の計画としては、食事の栄養的な質に重点をおくものがある。そして、食品成分の表示を義務化するかどうかも議論されている(4)。また、民間の仕出し業者の食品廃棄物処理への義務も拡充される(2)

消費者にはまっとうな値段で国産を購入すべく義務づけを

 フランスでは、消費者の日々の食習慣を変えることを目指して新たに「食品業界法(loi alimentaton)」も制定された。同法が求める制度改革は、健康志向の消費者にとっては望ましいことだが、値段の安さを意識した購買客には悪い知らせでもある。

 生産者の生活改善を望むステファン・トラバーツ農業大臣は言う。

「これは、農業と食セクターと健康的で持続可能な食品業界において商業的な関係でバランスを保つこととなろう」

 改革のひとつが表示である。例えば、大豆ステーキや豆腐ステーキ等、完全に肉から生産されていないものに対してまぎらわしい「ステーキ」という用語を使用することが禁じられる。「ヒレ」、「ベーコン」、「ソーセージ」他の表示もきちんとなされる。

 もうひとつが原産地表示である。例えば、フランスで消費されるハチミツの自給率は4分の1にすぎない。そこで、蜂蜜の原産国をラベル表示することで『フランス製』の蜂蜜ファンを増やし、消費を伸ばすことで、地元の生産者に益することを狙っている(2)

価格破壊を停止を目指し栄養表示を義務づけ

 さらに、議論を巻き起こし法制定には至っていないものの「価値を破壊して、製作者を貧乏にしている」価格競争を止める努力で、政府は、食品のディスカウントのあり方も見直していると発表した。「それは、生産者にも、マージンで利益を得る卸売業者にも適用される」と、トラバーツ大臣は言い、もし、法が制定されればディスカウントが罰せられることを示唆した。

 これに加えて、再販閾値(resale threshold)も導入する。これは、スーパーが購入価格に最低でも10%をプラスして販売しなければならないことを意味する。このため、消費者にとっての価格上昇につながるのではないかとの反対意見がある。けれども、トラバーツ大臣はこう述べて反対意見を退けた。

「購入品がよりよく生産者に支払われることを知れば、消費者は2、3セント高くてもそれを支払うはずです」(2)

 一方、健康的な食べ物については、フランス政府は前進した。2019年2月にフランス国会は『食材の栄養的品質改善並びに食べ方の実践推進法案』を満場一致で可決した。同法は、食品に対して「栄養ランク(Nutri-Score)」の表示を義務づける。表示は文字と色でダークグリーン(A)からこげ茶色(F)まで表示されるが、これによって、消費者がより健康的な食材を選択することを支援する。また、同法は、選択科目だが学校における栄養教育の導入も求めた(4)

有機農業推進予算を拡充

 トラバーツ農業大臣によって、フランスは新たに政府プログラム、オーガニック躍進2022(Ambition Bio 2022)も発動させた。同プログラムは、2018〜2022年にかけての有機農業への転換を強力に支援する。

 オーガニック躍進2022プログラムが掲げる目標は2つある。

 ひとつは前述したように、役所の食堂、学校、病院、診療所等、公共調達によって提供される食材の20%を有機農産物にすること

 2022年に国内農地面積の15%を有機農業へと転換すること

 この目標を達成するため3項目の資金援助もなされる。

 第一に、農業者や牧場主の有機農業への転換資金を前期の7億ユーロから11億ユーロ(2018〜2022年)に増額した。うち8億3000万ユーロはEUとフランス政府の予算である。

 第二に、有機農業促進のための農業省の付属機関「フランス有機農法発展振興局」がリードする(8)「オーガニック・フューチャー」の資金を毎年増やし400万~800万ユーロへと倍増する。

 第三は、有機農業の税控除(2500~3500ユーロ)である。

 さらに、有機農産物の生産振興、消費の促進、流通、研究、普及、農業と食産業における主体育成、認証規制の整備でも支援することとした。

 こうした全国的な戦略を推進することで、環境保護や動物福祉に対する消費者の需要や社会的期待に対応し、フードチェーンにおける有機農産物の転換を目指している(3)

高まる消費者の有機農産物志向で生産が急増

「有機農法発展振興局」によれば、この有機農業生産の急増は、消費者需の高まりと足並みを揃え、輸入の必要性を減らす助けとなっているという(7,8)

 消費面において、フランスではますます有機農産物への人気が高まっている(8)。有機食品の販売は、2018年には97億ユーロ(109億ドル) へと15.7%も増えた。フランス世帯では食費の5%を有機農産物に費やしている。この売上高によって、フランスはドイツに次ぎ、EU内で2番目に大きな有機食品市場を達成した。ちなみに、フランスで消費される農産物のうち69%が国産である(7,8)

 消費者が有機食材を手にしやすくすることで需要拡大を伸ばしたのはスーパーで、2018年に販売の49%を占めたのはスーパで(7,8)。自然食専門店34%、直売12%を大きく上回った(8)

 この有機農業の急成長によって有機農業者にとっての価格プレミアムが損なわれ、さほど持続可能ではない実践につながるリスクもある。とはいえ、有機農法発展振興局は、これは十分に調整され、その心配はないと胸を張る(8)

 2019年6月4日。フランスでは記録的な数の農場が2018年に有機農業へと転換したと発表がなされた。年間転換数4200という以前の最高記録を凌ぎ、5000もの農場が転換したという。この結果、有機農場数は4万1600戸となり、フランスの農場のうちのシェア率も9.5%から13%へと高まった。有機農業区域も17%も拡大し200万haとなり、全農地の7.5%を占めるに至った(7,8)

 オクシタニー、オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ、ヌーヴェル=アキテーヌが2018年では有機農業生産者が最も多いトップ3の地方で、EGalim法が採択されたことで、仕出しにおけるの有機農産物の割合も2017との比較で27%も増えた(6)

20190817wineS.jpg マメ類の畑はすでに40%が有機となっており、ブドウ栽培でも有機認証されたフランスのブドウ園は12%だが、2018年には一気に20%増えた。ワインメーカーの転換を奨励するために、3年間の転換期間をカバーするため「有機農法転換(CAB)ラベル」」も作成された。このロゴによって、有機農業への転換中なために、慣行品よりも高いプレミアム価格でメーカーが売る説明を消費者にできる(8)

 畜産でも強い消費者需要を繁栄し、転換が進んでいる。2018年には有機産卵鶏の数は全体の13.3%を占めた(6)

Philippe-Henry.jpg 最も、一番有機農業の転換が進んでいるのは穀物部門である(7,8)。穀物部門では31%も拡大し51万4000haとなり、作物区域の4.3%まで占める。農業者でもあるフェリペ・アンリ、有機農法発展振興局代表は「作物部門では前進がなされ、以前にはなされなかった有機への転換が、今は、あたりまえのものになっています」と語る(7)

 慣行作物の価格が低迷する一方、有機農業に対する補助金とサプライチェーンへの投資が多くの作物農家の転換を奨励していると言う(7,8)

 フランスで有機農業生産に施設暖房を見込むべきかどうか、いま、農業組織は現在討論している。また、一部のグループは産業型の方法を批判している(8)

Florent-GuhlS.jpg 有機農法発展振興局の責任者、フルフォン・グール氏は、農業部門での雇用へのインパクトも指摘する。

「全体では、農業雇用の14%がいまや有機農業となっています」(8)

 たしかに、有機農法は、この6年で最も大きな成長が経験されているセクターで、雇用も創出されている(6)。とはいえ、フランスでの有機農地のシェアは、政府が2022年に設定した15%という目標のまだわずか半分である(7,8)

編集後記

 フランスが有機学校給食を柱に一大公共支出を行い有機農業への転換と有機での雇用創出を図ろうとしている。ネット上では常識なのだが、編集子の知人でも意外に知らない人がいた。また、知ってはいても有機を半分にするのだと過大評価して勘違いしている人もいる。それはTwitterのように断片化した情報を拡散するネット技術の弊害かもしれない。例えば、In You Journalというオーガニックについて国内最大の情報メディアがある。この2018年4月24日の記事「海外ではすでにオーガニック給食が常識になり始めている。日本の小学校や幼稚園はなぜ、オーガニックにならないの?これからの時代の給食、どうあるべきか」という投稿がある。素晴らしい内容なのだが、ここに「フランスのトラヴェール農相は、フランス国内の週刊誌へのインタビューで『オーガニックな地元産食材を給食素材の半数にするのが目標』と明言しました」との記載がある。このフレーズだけがコピペされて拡散すると、「有機&地元産のシェア率が半分」との二次情報が広まってしまう。けれども、実はこれは正確ではない。有機か、地元産のように環境に優しいか、一定程度の品質を備えたものか。これをひっくるめて半分にするというのが大臣の発言であって有機のシェア率は調べてみれば20%にすぎないことがわかる。

 とはいえ、それはそれでなかなかたいしたものではないか。

 一方、ネットを検索すると、フランスが有機農業で大躍進。慣行農産物価格が低迷する反面、公共事業での有機支援が始まったため、未曾有の農家が有機農業へと転換しはじめた、という情報も簡単に見つかる。これも、常識と思えるのだが、まだ日本語ではさほど発信されていないためか編集子の知人でも知らない人が多い。しかも、興味深いことにこの変化は若者の意識変化が突き動かしているというのだ。

 例えば、農場情報研究所の北林寿信氏は、若者以外の世代では49%が有機食品に高い金を支払うのは「異常だ」と考え、50〜64歳では62%にも及ぶのに対して、18〜24歳では「異常だ」と考えるのは45%にすぎず、47%が「あたりまえ」だと考えているという。

 また、有機食品を選ぶ理由として、動物福祉をあげる人が年長者では25%にすぎないのに対して、若者世代では32%が倫理的・社会的理由をあげている。これをもとに、氏は「フランスの有機農業の転換の動きを支えているのは、どうやら若者世代ということらしい」と書く(9)

 同時に、北林氏は、「2018年1年間で有機農業に転換した経営数が記録的に多かったことを理由に有機農業生産が躍進しているとする話は割り引いて考える必要がある」とも主張する。というのも、こうした有機農業経営には「有機農業の理念を逸脱した大規模な温室果実・野菜栽培経営のような工業的経営」が含まれているからだ。そして、全国有機農業者連盟(FNAB= Fédération Nationale d'Agriculture Biologiquee)は「有機農業の工業化にノー!冬季のトマトなんてありえない。有機農業の工業化と闘う」と反対の声をあげているという(10)

 日本でも千葉県の木更津市や長野県のように有機農業推進を口にしはじめた自治体がでてきた。もちろん「どこまで本気なんですかね」と肩を竦めながら、冷ややかに嘲笑することはできる。けれども、こうしたインテリ然とした傍観者的な冷笑はさけたい。かつて80年代に一世を風靡した浅田彰氏の明言「シラケつつノリ、ノリつつシラケる」を懐刀に、たとえ人気取り政策だとしても行政がぶちあげた「祭」には大いに参加しもりあげる。そのうえで、フランスの農民運動のように少しでも曲がったことがあればピシャリと叩く。そうすることで、行政政策を育てあげていかなければならない。アラスカの氷河すら融解し、フランスでも気温が40℃を越す中、海外においては人々は本気だ。そして、同じ地球上にすむ人間である以上、それは他人事ではない。

 けれども、残念ながら日本においては政治への関心が低く投票率も低い。そして、「マツコ・デラックスのぶっ壊し方」に関して、N国が打つ戦略がいかに政治的にみても秀逸なものであるのかを日本を代表するインテリであるGAIGO氏が絶賛しているのが現状である。けれども、どうも知性の働かせ方の方向性が違うような気がしてならない。宝の持ち腐れではないか。同じ知性ならば「ファストフードをぶっ壊せ」という議論が展開されるベクトルへと振り向けたい。

 そして、このサイトをご訪問いただいた方のように、少なくとも「意識高い系」を自負されるのであれば、フランスではオーガニック給食が常識として展開されている事実を前提としたうえで、何が問題なのか、そして、日本では何をすべきかが、あたりまえに日常会話の中でも口にされるようにしていかなければならないと思うのだがどうであろう。

【地名】
オクシタニー(Occitanie)
オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ(Auvergne-Rhône-Alpes)
ヌーヴェル=アキテーヌ(Nouvelle-Aquitaine)

【用語】
公共調達(public procurement)
全国仕出し協議会(CNRC= La présidence du Conseil national de la restauration collective)
フランス有機農法発展振興局(Agence Bio)

【人名】
ステファン・トラバーツ(Stéphane Travert) 農相
ディディエ・ギヨーム(Didier Guillaume)農相の画像はこのサイトより
フェリペ・アンリ(Philippe Henry)代表の画像はこのサイトより
フルフォン・グール(Florent Guhl)事務局長の画像はこのサイトより
食材の画像は文献4、ワインの画像は文献8より

【引用文献】
(1) Half of all food bought by the public sector in France to be organic or locally-produced, or come with a quality label by 2022, Food for Life, 01 Feb, 2018.
(2) How France's new food industry laws will affect you, The local france, 22 May 2018.
(3) France unveils new strategy for organic agriculture, French Food in the US, April 12, 2018.
(4) France to introduce organic and sustainable food in canteens by 2022, Foodnavigator.com, 19 Mar 2019.
(5) French cuisine in 2022: 50% of food in canteens must be sustainable, Sustainable-procurement.org news, 3 May 2019.
(6) French organic farming in better shape than ever, gouvernementfr, 4 June 2019
(7) Record number of French farms convert to organic production, Reuters, June 4, 2019
(8) Jim Manson, Nearly 10% of all French farms are Organic as record numbers of Farmers convert, Natural Products, June 7, 2019.
(9) 2019年2月22日:北林寿信「フランス有機農業躍進、若者の多くは倫理(動物福祉)を理由に有機食品を選ぶ 値段は気にしない」農場情報研究所
(10) 2019年5月29日:北林寿信「フランス有機農業躍進の報に落とし穴「工業化」される有機農業」農場情報研究所
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2019年08月12日

有機農業でまちおこし①〜インド・シッキム州

はじめに

 有機農業運動は、これまでに人類によってなされた最高のことのひとつである。有機農業が必要だと信じ込んでいる人もいれば、流行とみなす人もいる。とはいえ、いま世界は毒漬けになっている。有毒な化学物質がいたる所にあり、それを避けることは文字通り不可能である。それが環境や健康にとって良いはずがない。

 にもかかわらず、こうした有毒な製品を市場出荷しているようなモンサントのような大企業がある。モンサントの製品は、ホルモンのアンバランスやガン他の多くの健康問題を引き起こす。けれども、米国では、いまだにGMOや有毒な農薬が認められており、FDAは暮らしを楽にするためのイノベーションだとのたまう。政府の政策が変わる前に何人の人々が死ななければならないのであろうか。

 確かに、ほとんどの国では有機農業を実施することが難しい。けれども、米国とは異なり、いくつかの国では有機農業に再び戻りつつある(8)

インドのシッキム州がアグロエコロジーで世界最高の政策賞を受賞

2019081201S.jpg 「未来政策賞」という賞がある。現在と将来世代のためにより良き生活状況を創設するための法律や政策を表彰するものだ(6)。2018年にブラジル、デンマーク、エクアドルのキト(Quito)をシルバー賞に押さえ込み、25カ国から51の候補を出し抜いて、最高の政策」のためのオスカー賞として知られる国連の未来政策ゴールド賞をFAOから受賞したのは、インドのシッキム州だった(4,5,6,8)。この賞は世界未来会議とIFOAMとFAOが共同組織したものだが(4,5)、今年の賞のテーマは、アグロエコロジーだった(6)。まさに、アグロエコロジーによる持続可能なフードシステムを促進するための世界最高の政策としてシッキム州が認められたのだった(4)

 FAO本部で受賞した同州のパワン・チャムリン(1950年~)首相はこう述べた。

「ともに有機の世界を作りあげようではありませんか。有機農業の世界は、明らかに達成できるのです。環境を犠牲にしながら、こうした事業を実施しない国際社会に対してそのことをアピールしたい」(5)

 Maria-Helena-Semedo.jpg賞を提供したFAOのマリア・ヘレナ・セメド部次長は、フードシステムの転換に成功し、人々や地球に対する敬意を確実にした傑出した事例としてシッキム州を評価し、こう述べた。

「私からのメッセージは無農薬の世界です。もし、この地球を保護したいならば、私たちは無農薬農業を選ばなければなりません」(5)

全農地を有機認証し有機農業を多面的に評価

 シッキム州が受賞したのは、州内での化学肥料と農薬の販売・使用の完全な禁止を成し遂げ、文字通り、その全農地の有機認証という世界初の偉業を達成したからであった(4,6)。2015年12月末に同州では全農地約7万5000haを有機農業に転換する(1)。シッキム州は、世界で最初に完全な有機の国になったのである(8)

 州政府がこうした野心的なビジョンを設定し、かつ、それを達成したことは史上初めてのことだが(6)、それだけではない。同州の取組みは、ただ有機農業の生産を増やすという農業振興政策の枠組みを越え(5)、消費やマーケットの拡大、農村の発展、医療、教育、そして、持続可能なツーリズムにも重点をおく(4,5,6)。社会経済面にまで及ぶこの広範なアプローチもマリア部次長は評価する(5)。シッキム州がアグロエコロジーの規模拡大を目指すそれ以外のインドの各州や他の世界の国にとって優れたモデルとなっているのはそのためでもある(4,6)

Choitresh-Kumar-Ganguly.jpg チャムリン州首相がケララ州や北東部もシッキムの事例に続こうとしていると語れば(5)、IFOAMの理事でもあるインドの有機農家、クマール・ガングリー氏は、ケララ州やメガラヤ州も全有機農業を目指しており、隣国のブータンも2020年までに有機への転換を切望しており、まさにシッキム州がモデルとなっていると語る(3)

有機農業への転換への道

2019081202S.jpg インド北東部に位置するシッキムは、ブータン、チベットとネパールに取り囲まれている(3,6)。州人口は61万人(3)のヒマラヤ山麓に位置し、インド内では2番目に小さい(1)。森、牧草地と急な山腹からなり、その生態系は脆弱である。州面積の10%、7万5000haが耕作されているにすぎない(6)。その多くが小規模農家で、主な作物は、米、カルダモン、オレンジ、豆等である(1)

 ガングリー氏は言う。

 「シッキム州は進んでいます。その政治的な意志はどの他州よりも非常に強く、とても良い仕事をしています。ですが、まずなによりも農薬をさほど使ってきませんでした。そこで、他州よりも早く抜け出すことが容易だったのです」(3)

 確かに、シッキムの伝統農業は、低投入型で天水に依存する。有機農法はこれに最も近い農業システムだった(6)。そして、1975年にインドに組み込まれるまでは別の王国だった(3)

 けれども、インドでは飢餓を防ぎ、海外からの食料援助への依存を減らすため、緑の革命による近代農業が進められて来た(3)。生産性の向上を目指した改良品種と過剰な灌漑(2)。そして、化学肥料と農薬によって食料は増産された。けれども、農薬の無差別使用によって、産業型農業が展開されている地域では、ガン患者が増え、河川は汚染され、土壌も無菌化した。他国では禁止される化学物質が残留農薬として検出され、魚、野菜、米が汚染させていく(3)

反対にも屈しない強い意志

「こうしたあらゆる懸念から有機農業が必要になったのです」

 チャムリン首相は言う(3)

「インド最初の有機農業の州になる」。こんなビジョンを発表し、チャムリン首相が有機農業への転換に着手したのは2003年のことだ(3,5,6,7)。チャムリンは当時から有機農業運動のリーダーで、1994年以降、インドで最も長く勤めている大臣でもある。彼が、州内の全農場で農薬を段階的に廃止しようと決意したのであった。

 けれども、シッキムの脆弱な生態系、世界で3番目の高峰、カンチェンジュンガにある氷河、何百もの鳥たちのための土地、野生のランを守るための努力を開始したとき、有機農業改革への青写真はなかった。

「ですから、有機農業を始めようと決めたとき、多くの難問に直面しました」と、チャムリン首相は言う(3)

 こんなラジカルな実験は、インドでは先例がない動きだし、おそらく世界でも例を見ない動きであろう(3)。直ちに、野党からの猛反発や化学業者の既得権に直面する。けれども、強力な政治的コミットメントを貫徹することで、チャムリンは難題を克服していく(5)。困難や課題はあっても、首相の強力なリーダーシップのもと有機農業を州の根幹政策として推進してきた(7)

化学肥料の段階的な規制

 では、有機農業への転換がそうして達成できたのかを確認しておこう。

 第一は、州政府には強力な政治的な意志があり、政策が一貫していた。フードシステム全体をホリスティックに転換するため、十分に練られた目標や実施計画があり、かつ、支援やインセンティブという飴ともに、化学肥料や農薬の段階的な規制という義務的な鞭も組み合わされていた(4,6)

 まず、農業者の有機農業へ転換を奨励するため、州では化学肥料や農薬の供給を徐々に減らしていく(3,7)。そして、ある段階で州内でのその販売を違法として禁止する。同時に堆肥製造や農薬を使用ない防除技術の研修を進めた(7)

 例えば、シッキム州では2003年に化学肥料の輸入を止める。以来、シッキムの農民たちは伝統的な有機肥料ユーザーとなった(4)。一方、地力を強化して、水質を保全し、圃場や景観レベルでの生物多様性を高めることに政策の重点がおかれ、土壌の健康状態を管理するため、政府は、年あたり4万もの土壌診断を実施し、結果は、栄養状態や投入資材の推薦という「土壌健康カード」の形で届けられた。

 また、地元の植物を用いて、堆肥、ミミズ堆肥、有機農薬といったバイオ投入資材生産するためのトレーニングを行った。州内の全4地区の1万人の農民たちは、100以上の村で2003〜2009年の最初のパイロット段階でこうしたトレーニングプログラムによって恩恵を得た。

 こうして化学肥料の段階的な廃止は、徐々に、しかし、着実に実施された。それは大胆な政府の決定だったが、農民たちや市民は「この政策を誇りに思い、政治的に支持する」と語る(6)

非有機農産物の輸入規制

 さらに2018年4月1日からは他州からの非有機野菜の輸入が禁止される。3月に出された近隣州からの非有機農産物の輸入禁止令によってシッキム州は混乱に追い込まれる。キャベツの市場価格が3倍となり、野党とともに貿易業者は抗議した。けれども、チャムリン首相は「生みの苦しみ」として反対を退け、混沌が落ちつくと確信。州政府は、入手可能な価格に抑えるため、消費者の有機野菜に対して季節的な価格の上限を導入した(3)

有機認証と教育に重点

 「何が有機農業であるのかを農家も全く知りませんでしたから、教育が最優先事項でした。ゆっくりと人々は理解し始めそれを支えたのです」

 そう、チヤムリン首相が語るように(3)、これが、2010年の全州を有機農業に転換するためのアクションプラン「シッキム・オーガニック・ミッション」へとつながる(5,6)。そして、有機認証をすることが転換のための決定的な要素とみなされていたことから、認証取得を支援し、農村において認証サービスを行うため、2010~2014年の予算の80%はそこに用いられた。また、これと並行して、地元で有機の種子の開発や生産を強化し、質が高い有機用の種子を農民たちに提供するための手段が講じられた(6)。結果として、2014年には農薬の使用が違法とされ(3)、約77000haの全農地が有機認証される(3,7)。こうして首尾よく2015年には完全有機への転換に成功し世界初の有機農業州と宣言できたのだ(5,6)

 さらに、シッキム州では、2016年に使い捨てのプラスチック容器の使用も禁止する。沿道の軽食露店は、葉から作られる食器皿を使っている(3)

100%有機がもたらした効果

 挑戦しなければならいことは多くある。けれども、すでに大きな運動のメリットは経験されている(8)。有機農業への100%への転換は6万6,000戸以上の家族農家にメリットがある(4,5,6)

生産性の向上と農家の所得アップ

 転換は必ずしも容易ではなかった。収量が落ち込んだ農民もいる。政府からの十分な支援が得られなかったと不平をもらす農民もいる。転換には10年以上がかかり、それは容易ではなかった。収入が減少したために農業を止めた農民もいる。ジャガイモとカルダモンを栽培しているある農家は、無農薬農業に転換してから収入ががた落ちしたという。「有機的になるメリットはなかった」と言い、市場、有機肥料、トレーニングへのアクセスが必要だと不平をもらす(3)

Sonam-TanejaS.jpg ニューデリーにある研究組織、科学と環境センターの食の安全と毒物のためのプログラム・マネージャーであるソナム・タネジャさんが、州内の16ある農場を訪問したときも、類似した声を耳にした。

「私が得ていた情報は、農民たちが苦闘し、害虫に悩まされ、収量が低く、彼らが動揺しているというものでした」と、タネジャは言う(3)

 確かにシッキム・マンダリン・オレンジは、2010~2011年、2015~2016年の間で22%低下した(8)。けれども、けれども、オレンジを除いて、ほとんどの作物の生産性はさしてかわらない(3)。それ以外の果物の生産高は5%増えている。ジンジャーとターメリックは2%、根菜類や塊茎類も6%増えた(8)

 有機農業は経費が少なくてもできる。農家の自立に役立つ。結果として収量は10~15%少なくなったが、それ以上に売値が高く収入は良いという(1)

有機農産物のブランドに成功

 その独特の気候や文化から、シッキム州は、カルダモン、ショウガ、オレンジ、お茶、キウィ、パッションフルーツ、山野菜等がある。そこで、政策では、国内や国際市場をターゲットに『シッキム有機ブランド』を創出しようとした(6)。2018年4月には、農民たちが農産物を消費者に直売できるように州当局は2カ所の市場を開設する。市場に農産物を輸送するため20台以上の輸送車両も加えた(3)

 教育を受けた若い農民たちは、このマーケティング戦略を活かして遠方のデリーやバンガローまで州の農産物を出荷している(5)

伸びる観光業

 第二は、観光である。有機農業への全面転換の動きは、観光産業にとっても、エコツアーと農村での休暇の市場の成長によってメリットがある。ロネリー・プラネットのトラベル・ガイドは2014年の世界トップの目的地と命名し、国の観光部局によれば、外国からの訪問客数は2011年以降、倍増していると言う(3)。シッキムの観光部門も新たな有機農業の転換イメージからも利益を得ている。2012~2016年にかけ、観光客数は40%増え(6)、2,014~2017年では50%も増えた(5)。外国の訪問客の倍増した(6)。観光の結果、GDPでの州のシェア率も高まり、5%から2016~2017年にはほぼ8%にまで高まっている(3)

 州政府もオーガニックツアーを推進しているが、有機農業を売りにした観光も活気付いている。集落全体が有機農業と認証された村でのホームステイも用意されている。要するに、州をあげての有機農業は農民たちの経済発展をもたらすためのツールとして使われているとしている(1)

生物多様性の回復

 シッキム州には、蝶は500種類、顕花植物は4,500種類があるほか、赤パンダ、ヒマラヤグマ、スノウ・レオパルド、ヤク(yack)といった珍しい動物もいる。シッキム州の環境は、慣行農業の下で大変なダメージを受けてきたが、いまは改善されてきている。この生物多様性が守られつつある。一部の農民は変化に苦労したが、収穫が以前よりもよりよくなっている(8)

 例えば、ミツバチの群集が増えた。カルダモンはミツバチの他家授粉に依存するためその生産性は2014年以降23%以上も増えている(3,8)。BBCの報告によれば、カルダモンの生産高は70%も増えている(8)

人々の健康の改善

Khorlo-Bhutia.jpg 園芸と換金作物の開発を担当するンッコルノ・ブーティア氏は「大気、水、食べ物に化学製品が入らなくなり、この変化には巨大な影響がある」と説明する(3,8)。有機農業への全面転換は、シッキムの消費者にもメリットがあると政府は言う。土壌が健康となり、その土壌からの栄養価が高い食べ物を口にできるからである(3)。事実、州全体で州民の健康が高まってきている(3,8)

若者に雇用創出

 若者を有機ミッションに関係させることが重要だった(5)。シッキム州の政策では、多くの若者たちが農業を魅力的なものだとは思わず、それで生計をたてる機会だとは考えてはいない事実を認める。そして、「暮らしの学校(livelihood schools)」、有機農業センター2カ所、オーガニック農業トレーニングセンター3カ所を含めて、知識をわかちあうためのプラットホームもいくつか確立された。

 そして、センターは失業中の若者たちに対して、有機農業で生計を立てるためのサポートを行っている。現在、シッキム州は、若者たちがその土地から出ていかないことを決めるインド内でも数少ない場所のひとつであることを専門家も指摘する(6)

シッキム州を世界のモデルに

 チャムリン首相は、有機農法が非暴力のアクションの方式であると語る(5)

Pawan-Chamling.jpg ある集会では300人ほどの聴衆を前に5時間にも及ぶスピーチで環境にやさしいライフスタイルを受け入れるように勧める。

「シッキムが始めたアプローチは、明日には全世界から採用されよう。これが我々のビジョンだ!」(3)

 そして、教育にも力を入れている(3)。現在、シッキムでは学校の授業カリキュラムの中に有機農業が含まれている(6)。4年生と5年生に有機農業の科目が設けられている(8)

 若干の病気があり、バイオ農薬の効果に関しても懸念がある(8)。もちろん、州民を養うためシッキム州は西部ベンガル州からの慣行農産物に依存し続けている(3,8)。とはいえ、授粉者、人間、そして、環境の健康が維持され、土壌の品質も改善され、エコで地球やさしい理想地からの農産物として市場に出荷されている。そして、シッキム州はこの変化を他の国に伝えようと志している(8)。2016年にはシッキム州のためだけでなく、インドの北東地域に技術支援を行い、有機農業の生産システムを確立するため、「全国有機農業研究所」が設立される(6)。まさに、シッキムはすべてを有機化するというインドや世界の他国とモデルとなっているのである(3)

変わるインド政府とインドから考えられる参加型認証

2019081203.jpg インドにはほぼ1.6億haもの農地がある。うち、有機農業は227万haとされる。米国でも有機農業は200万haでなされている。だから、まさにシッキム州の有機農業はインドのかけらでしかない(3)

 けれども、シッキム州の取り組みはナレンダ・モディ首相(1950年~)も後押しする(2,3,8)。有機農業は、インドが抱える水路汚染や農地の質の悪化、食生活由来の疾病といった環境面、健康面での諸問題の解決策として期待できるためだ。加えて、有機農業は食料生産、農家の仕事確保、農薬への支出減のための安全で持続可能な方法でもある。モディ首相は2016年5月に「シッキム州の取り組みは地域住民の収入に大きく貢献し続けるだろう」と評価した(2)

 インドの有機農業従事者は、世界最多の約65万人に上る。2015年8月に議会の委員会が発表した報告書では、時期は明記されなかったが、有機農業の拡張によって資源のリサイクル、有機農産物の認証やマーケティング、包装などの分野で雇用が30%増える可能性が示された(2)

 リサーチ会社の2015年8月の発表によれば、インドの中流階級に広がる健康への関心が有機農産物の需要を押し上げている。同国内の有機農産物市場は年間25%超のペースで拡大しており(2,3)、これは世界の16%を上回る。インドの有機農産物市場は、現在ほぼ800万ドルだが、2020年には1200万ドルを越すと研究は見る。

Radha-Mohan-SinghS.jpg「これは、インドにとって大きな瞬間です」

 ラーダー・モハン・シン農業・農業福祉連合大臣は言う(3,8)

 モディ首相は有機農業関連の会合で「インド農業全体の新たな方向性が定まった。有機農業の取り組みは今後国中に広まっていくだろう」と述べた。

 モディ政権では、2017年3月までの1年間で41億2000万ルピー(約65億円)を有機農業関連の予算に割り当てられている。また、政府は自然由来の肥料を推進し、年間7000億ルピーに上る肥料補助金の一部を削減することを狙っている(2)。そして、インド全域の有機農業者を支援するため、約1億1900万ドルを注ぎ込んでいる。インドはまさにその「緑の革命」の後、有機農法のために政策を作成し始めたのだ(3)

 有名な有機活動家と著者ヴァンダナ・シヴァも運動に加わった(8)

 農薬の濫用により、健康志向の中流階級の都会人によって、インドの有機市場がドライブされたと、専門家は言う。けれども、それは変わりつつある。インドでは自己管理の有機認証プロセスを農民たちに奨励している。それは外部のコンサルタントに以来するよりも経費がかかわらず、有機農産物が国内市場でよりアクセスできるようにするためである(3)

編集後記

 2019年8月4日付のブログ「世界のオーガニックマーケティングセミナー」では、IFOAM Organics ASIA 副理事長の三好智子さんから「参加型認証制度で、インド・シッキム州が有機100%を達成」という話を聞いた。 気になってネットで調べてみると日本語のサイトはほとんどないが、ネット上には読み切れないほどの英語の記事が出ていた。何よりも驚かされたのは、銀メダルにとどまったデンマークを差し置いて、FAOの「アグロエコロジ―賞」で堂々と金メダルを射止めていたことだ。有機学校給食94%を達成したコペンハーゲンすら評価されないとはなんたることか。シッキムが何をしたのかを改めて見てみると驚くべきことが見えてくる。

州内全農地をことごとく有機認証
当然ながら州内での農薬、化学肥料の販売禁止
バイオ農薬や堆肥づくりの全農家へのきめ細かい指導
そして、有機農業技術確立のための独自研究センターの設立

 このあたりまでならば、まだ理解できる。けれども、「非有機野菜の州外からの輸入規制」となるとどうであろうか。確かに、過去には中米のキューバがソ連崩壊後に米国の経済封鎖を受けやむなく有機にチェンジしたというケースはある。こうしたレアなケースを、それも県レベルでボランティアにやってみせるというのは、あまりにもラジカルだ。

イノベーター理論-図.jpg 超スーパー公務員として全国的に名を馳せる塩尻市の山田崇さんの講演を拝聴させていただいて、エベレット・ロジャース(Everett Rogers)のイノベーター理論をベースに「13.5%のアーリー・アクセプターではなく、2.5%のイノベーターを目指せ」と鼓舞されたのだけれども、ただ人とワークショップをしたり、机の上にポストイットを貼付けたところで、こんな途方もない発想はなかなかでてきそうにない。

 日本の有機農業運動の創設者、故一楽照雄氏は東京帝国大学を卒業したインテリだっただけに語学にも堪能で、「横文字を読み海外の動向を抑えておかなければ駄目だ」ということを言われていたが、改めそのことを痛感したりした。学んで思わざれば則ち罔し 思いて学ばざれば則ち殆しである。

 では、これほどのラジカルな転換を通じて何が成果としてゲットできたのか。

州民が健康になる
ミツバチを始め生物多様性が豊かになり生産性も向上する
有機農業が若者にとって魅力的な就職先となり都市への流出と過疎化が止まる

 といったあたりまではイメージできたのだが、ロンリー・プラネットで一番訪れたい旅行先となり、観光客が激増。地域経済が活性化しているということには驚かされた。ちなみにロンリー・プラネットとは、「地球の歩き方」のようなもので、「るるぶ」の世界版といってよい。そして、シッキムではプラスチックの食器使用も禁じられているから、観光客はリサイクル可能な「葉で作った食器」で食事をしなければならないのである。いやはやなんとも面白い。

 さらに、驚かされるのはその時間の短さだ。いかに州首相の強力なリーダーシップがあったとはいえ、2010年のアクションプランから2015年末とわずか5年で実質上に全面転換が達成されているのだ。そして、シッキム州にインスパイアされたのか、大インドそのものが有機に舵を切りつつあるという情報も衝撃的だった。こうした情報を見れば、人類もなかなか捨てたものではないと思えてくる。そう。いまトレンディなのはやはり有機なのだ。

【用語・地名】
国連未来政策ゴールド賞(UN Future Policy Gold Award)
世界未来会議(WFC= World Future Council)
州首相(Chief Minister)
カルダモン(cardamom)
メガラヤ(Meghalaya)
バンガロー(Bengaluru)

【人名】
パワン・チャムリン(Pawan Chamling)首相の画像はこのサイトより
マリア・ヘレナ・セメド(Maria Helena Semedo)部次長の画像はこのサイトより
ンッコルノ・ブーティア(Khorlo Bhutia)の画像はこのサイトより
Choitresh Kumar Ganguly氏の画像はこのサイトより
ナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相
ソナム・タネジャ(Sonam Taneja)さんの画像はこのサイトより
ラーダー・モハン・シン(Radha Mohan Singh)農業・農業福祉連合大臣の画像はこのサイトより
ヴァンダナ・シヴァ(Vandana Shiva)
イノベーター理論の図はこのサイトより

【引用文献】
(1) 2016年1月18日「インド・シッキム州 州全体で有機農業に転換」有機農業ニュースクリップNo.691
(2) 2016年7月16日「有機農業に回帰、印で大実験 シッキム州、環境・健康・雇用問題解決」産経ビジネス
(3) Annie Gowen, An Indian state banned pesticides. Tourism and wildlife flourished. Will others follow?, Washingtonpost, May 31, 2018.
(4) Sikkim, India's first 'fully organic' state wins FAO'S Future Policy Gold Award, Oct 15, 2018.
(5) Sikkim becomes world's first organic state, wins 'Oscar for best policies' by UN, New Delhi India Today, Oct 16, 2018.
(6) Sikkim – The First 100% Organic State in the World!, Organic Without Boundaries, Oct17, 2018.
(7) 2019年2月25日「有機農業の州」IFOAM JAPAN
(8) Nick Meyer, Indian State Banishes All Pesticides, Watches Both Wildlife and Tourism Flourish, March 4, 2019.
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