2024年02月03日

『つくる』ことで『とどけたい』地域の思いを自校給食で

松川中央小学校栄養士 木下めぐ美

鮫田晋 今度はセンター方式ではなく自校給食の事例。農家の方が有機野菜を届けると。そして、全く、残食がないというので、私も勉強しに行った。

遊休農地を減らしたい町、産業観光課からの要望を受け5品目を提案

2024020106s.jpg 現場でやっている実践をお話をさせてもらいたい。地道にやっているのだが、この地道を続けていければ、どこの給食センターでも調理場でもできるのではないか。

 松川町の地産地消と給食室が変わっていくと。実践から得たものを話したい。松川町は南信の飯田下伊那の北方にある。天竜川を挟んで段丘にある町で、果物で有名な町である。そこから有機食材を入れた給食がされている。松川町に中学校1校と小学校2校があり、その一つが私のいる中央小である。職員が52名で学校としてはかなり大きい。自校方式での給食をやっている。松川町は野菜の栽培がほとんどない。米は100%地元のものであったが、地場は20%であった。果樹の町なので地産地消は不可能に近い。保育園でもやっていただいたが、地元のものが手に入らない。なんとか使えないかとずっと考えていた。長野県の県産農産物の利用目標値は2022年で69.5%、2027年が75%だが、2019年6月の県産利用率は23.3%、町内産は21.9%、11月が33.8%と8.8%であった。納品してくれるところがないため、私たちだけでは無理である。

 そこで、街に相談をしたのだが、この取り組みのきっかけが環境にやさしい農業である。2019年9月に町の産業観光課から「有機で野菜やコメ作りをしてその食材を学校や保育園の給食に導入したい」との話があった。農家は栽培時期や保管の関係もあって全量は無理だと言われたが、私たちは地産地消率をあげたかったことから、全量でなくても1日の使用量が確保できれば給食で使用できるとして、栄養士として、使用頻度が多い、にんじん、玉ねぎ、じゃがいも、長ネギ、米を使いたいと提案をした。ここから、主要5品目を給食に入れたら利用率が上がってきたと。今すぐに上がらなくても、そうすることで作る生産者も増えていくんではないかということで、地道に現在も取り組んでいる。

 意見交換会をして、4品目、3校分が出たので、町と農家と栄養士とで話をして圃場栽培を始めた。こういう芋は使えるかと、どれだけ土が付いていたらダメなのかとかの話をさせてもらった。

コロナでの一斉休校の中でメニューづくりが始まる

 こうして野菜作りが始まったが、2020年3月6日のコロナによって始まった一斉休校で、突然、職を失うことになる。調理員たちは給料をもらっているが、仕事はない。そこで、意見を出し合ったところ、「ゆうき給食とどけ隊」のことを知らなかったので、それを調べよう。そして、レシピも考案しようというという話がでる。つまり、休校によって大人たちが主体的に学ぶことが始まったのだった。こうして、「とどけ隊」のメンバーにインタビューをしたり、農家が町のどこにいるのか、店があるのかのマップを作ったり、農家の野菜を生かすメニューを考えるようになった。農家の圃場や農家の気持ちをマップに入れる作業を通じて、これまでは「自分たちだけで給食を作っている」という思いがあったのだが、[現場を知ることによって]実は多くの人たちから支えられて、給食が作られていることがわかってきた。

 給食室は学校の中でも隅っこの方にあって、昼に子どもたちが取りに来て、それが去っていくと静かになるのだが、「そうではないぞ。私たちが頑張らなければならない」という想いも盛りあがってきた。そこで、オリジナル・レシピを作ろうと多くのアイデアがでてきた。こうして出来上がったのが、「勇気100%忍者がポタージュ[ゆうき100%でのにんじん、じゃがいもポタージュの意味]」で、そう命名して「ゆうき給食とどけ隊」の想いを届けるメニューを開発した。

 農家の想いがこもった私たちの大切なメニューである。そして、コロナ禍も終わり、通常の学校生活も始まったのだが、作ることへ思いは止まらない。作ることへのこだわりと作ることの意味を知ったことで、私たちには「食を伝える重要な役割がある」という気持ちが給食職員の中で生まれてきた。 それぞれの野菜の生い立ちを知ることが大切。野菜にも個性がある。ニンジンの香りがいいね。こうした意見がでてきた。

トップダウンからボトムアップへ技と知の共有

 私自身が、松川町[産業観光課農業振興係]の熱意を感じた。そして、それを子どもたちに伝えたい。そのうえで、調理員との関係でもコミュニケーションが大事だということが出てきた。どうしても、これまでは栄養士から「これをやって」とトップダウンで言うと、調理員が従う雰囲気があったのだが、そうではなく、調理現場が一緒に料理を作りあげていくことで、それが食育につながることがわかってきた。木下めぐ美さんは、前から、そうしたことをやりたいと思っていたのだが、松川町で、それがでてきていることをこんなに感じたことはない。子どもたちと触れ合う機会がいっぱいある。

 食育を効果的に実践するには、ちゃんとしたものを作って届けなければいけない。そして、美味しいものを作れば残食はなくなる。そこで、毎日、研究している。調理のコツを全員で学びながら互いに反省している。煮物とか汁とか、あえとか、一人一人得意分野があるので、それをわかちあう。すると美味しかったねという感想が出てくる。次に生かせるデーターを残して調理員同士での共有を図っていく。

ゆうき給食つくり隊の立ち上げと四つの「つくる」

2024020108s.jpg 私は、食べものを作っている人がいることを、子どもに伝えることが大事だと思っている。調理のプロ意識としての自覚を持ち、子どもたちにその自覚を味として伝えたい。どうしても、栄養士が前面に出てしまうのだが、うちは調理員がそれを子どもたちに伝えるようにしている。

 そして、今、いい方向に向かって動いている。もともと遊休農地を解消したいとしてスタートしたのだが、給食室が変わり、動きだし、町長も変わり、町政として子育ての充実で自校給食と有機食材が言葉に入ったことから、2023年4月には中央小学校に勤務する調理員と栄養士で「つくる隊」が結成された。大切に食材を調理する心、地域の美味しさを伝える場所。「とどけ隊」がすでにあるので「隊」という言葉は使いたかったのだが、「作るんだから『つくり隊』でいいんじゃない」との調理員の言葉でこう命名された。

 いま、町の職員としてできることで、「つくる」が三つあるという。ひとつは素材を生かしたメニューを作り、調理のコツを伝えあう「作る」だ。ほんとうの美味しさを追求して、本当の美味しさを知り、たくさんの人の思いで、町内の皆がつながる食、「造る」だ。二つ目は、体も心も育つ味で、人と町を元気づけていく「創る」だ。この三つをひとつにまとめあげるのが「つくる」なのである。

 「つくり隊」はいま学びの真っただ中である。2023年7月にはフランスのシェフと交流し、フランスの給食の作り方を学び、2024年1月には「出汁」の取り方を学んだ。

 有機を学ぶことで得たものは、人とのつながり、町の皆さんの温かい愛情だった。課題も多くあるが、日本一のおいしい給食を目指して頑張っていきたい。

パネルトーク+質疑応答

2024020120s.jpg菅野奈穂 「ゆうき給食とどけ隊」も「ゆうき給食つくり隊」も素晴らしい取り組みだが、有機で作られる農産物は曲がっていたりして、どうしても市場で流通する農産物とは違う。どうやって、それを乗り越えているのだろうか。

木下めぐ美 松川町は[松本市にある自然農法国際研究開発センターから] 不揃いにならないやり方で生産指導を受けながら野菜を作っているので、年々レベルがあがっている。とはいえ、どうしても望んでいるカタチではないものも入る。その時には、それを笑いに変える。楽しく言いあいながら野菜を切る。それをすることで嫌な雰囲気が給食室では出ない。また、生産者が土を作るところから収穫するところまで見て、話を聞いて[現場を]知っているから、ネギが曲がっていても面白いくらいだと。

菅野奈穂 木下さん、CPPの研修を受けて実際にどうだったのか。

木下めぐ美 ちょっとしたポイントとか。例えば、野菜の水分だけでカレーを作ると美味しいといわれたので、実際にやってみると本当に美味しい。このように取り入れられるところは取り入れたが、いろんなところから学べることがすごい。

菅野奈穂 農家さんのことまでわかっていると。どうやってそうした仕組みを作られてきたのか。

木下めぐ美 毎日の有機畑のチャンネルがあって収穫とかの様子も伝えているが、総合学習の中で農家に来てもらったり、体験の授業で収穫に行ったり、また、取材したときの子どもの言葉をICがあるので、録音して親に伝えることをやっている。

菅野奈穂 最後の質問だが、今日は演題を「理想の給食を目指して」としているのだが、理想の給食とは何か。それを各パネラーからいただきたい。

木下めぐ美 食べることでつながって、地域が好きになって地域に戻ってきて同じことを繰り返せる。

会場からの質疑応答

古山成江 元学校栄養職員で食べ物通信をしている。杉木さんと木下さんのお話を聞くと、ただ有機食材を使うだけではなくて、栄養士が調理員といい関係を作り出すことが大切だと。ところが、現実の栄養職員は3校に1名しかいない。私は全校に必要だと思うので、栄養士の果たす役割について教えていただきたい。

木下めぐ美 私は他の栄養士と違っていて、子どもがお腹にいる時に栄養士の資格を取ったのだが、自分の子育ての時に一度止めている。そして、鈴木先生は県の栄養士だが、県の職員だと転勤がある。やりたいと思っていても継続してできない。そこで、私は県ではなくて地域に根ざしてやりたいということで、松川町に採用してもらった。今、松川町にきて5年が過ぎていてやりたいことを出来ている。もちろん、その反面、都道府県にも必要であるが。

編集後記

 本稿は、2024年2月1日(土)に東京都武蔵野市スイングホールのレインボーサロンで行われた全国オーガニック給食協議会研修会での木下めぐ美さんの貴重講演である。

長野県で地産地消食育コーディネーターを務める杉木悦子さんの貴重講演から始まり、東京都武蔵野市の給食・食育振興財団の北原浩平理事長の実践、静岡県袋井市のおいしい給食課おいしい給食推進係の石塚浩司・鈴木萌夏さんの実践、そして、NPO法人こどもと農がつながる給食だんだんの本田恵久代表理事のイギリスやフランスの事例とどれひとつとっても、半日ではもったいなさすぎるほどの報告があり、さらに後半ではNPO法人めだかのがっこうの菅野奈穂さんのコーディネーターによるパネルトークも行われた。

 これは、このうち、木下めぐ美さんの報告である。講演会を聴きながらメモしたもので、録音はしていないので、正確さは欠くが、多くの他の方々が指摘された有機学校給食を実現するためのキーワードとして、指摘された「誇りと矜持」、すなわち、自らの労働に対する尊厳が、木下めぐ美さんの報告に濃縮されていた。そして、まったく農業現場と重なって聞こえた。

 批判をうけることを承知のうえで、あえて、編集子なりに図式化するとこうなる。

 農林水産省→県庁お役人→農業指導員→「我々の指導どおり百姓は作ればよい」→作業員

 文部科学省→県庁教育委員会→栄養士→「我々の指導どおり調理員は作ればよい」→作業員

 これをまさに、木下めぐ美さんたち松川町はブレークスルーさせた。ヒエラルキー的な関係を水平的な連帯へと変えたのである。

「一人一人の調理員が得意な技を囲い込みせずわかちあう」→技がグループとしてストックされる→グループとして楽しい。

「一人一人の有機農家が見出した技を囲い込まずわかいちあう」→が農家グループとして知財としてストックされる→グループとして楽しい

 といったことで農業とも重なる。もちろん、これは編集子の手前勝手な整理だが、そう感じた。

 なお、これは会場で講演会を聴きながらメモしたもので、録音はしていないので、正確さは欠く。協議会会員と事前に申し込まれた方限定の講演会ではあったが「記事にしたり発信することはかまわない」との事務局の好意から、話を聴講させていただいた参加者の特権として公開させていただく。貴重な話題が盛り込まれているので参考にさせていただければ幸いである。
posted by 情報屋 at 20:44| Comment(0) | 有機学校給食 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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