セッション② アジアの有機農業とその潜在的可能性
IFOAM Asia Dr. Shaikh tanveer Hossain
有機農業にはメリットがある
世界とアジアの有機農業の現状
有機農業を実施している国々は191カ国で、その面積は7,640万haである。全農地面積のうち有機農業が締める面積が10%以上の国は16カ国であり、5~10%の国は15カ国である。とはいえ、世界全体では全農地に占める割合はわずか1.6%である。その増加率は微増だが、前年比で1.7%増であり、2020年から130万ha増えている。
アジアの農地面積でトップ10を見てみると、中国やインドが多く、フィリピン、タイランド、カザフスタン、インドネシア、ベトナム、パキスタン、スリランカ、韓国と続く。残念ながら、日本はこのトップ10には入ってこない。
一方、面積ではなく、生産者の数で見てみると、アジアが48.6%、アフリカが30.6%、欧州が12%、ラテンアメリカが7.6%で、アジアとアフリカが多い。それは、小規模家族農業が多いからである。
次に、アジアの中での農地のシェア率でみてみると、東チモールが8.5%と高く、これに韓国2.5%、スリランカ2.4%、シンガポール2.2%と続く。後は2%以下だが、フィリピン、台湾、インド、アラブ首長連合、パレスチナ、ブータンとなる。
コロナの中で有機農産物への関心の高まり
有機農業が全農地に占める面積は1.6%でニッチ市場だが、コロナの中で免疫や内臓に関心が高まり、消費者や政策立案者たちの注目も高まり、アメリカでは69%が「以前よりも安全性に関心があるようになった」と答えている。
別の市場トレンド調査でもパンデミックによって安全性や健康への関心が高まっていることがわかる。多くの消費者が食品の安全性やより健康を志向していることがわかる。
世界のオーガニック食品市場の調査によれば、2022年のオーガニック市場は約2,000億ドルであったが、年間の平均成長率12%で推移していくと2030年には約5,000億ドルになると予想できる。アジアのオーガニックビジネスは大きくのびる可能性があると言える。
米国でもオーガニック市場は12%の伸び率で600億ドル。食品が13%の伸び率で560億ドル、衣服等が9%の伸び率で54億ドルと60億ドルに迫っている。米国市場もコロナで大きく伸びたことがわかる。
現在、国際的な有機認証基準が整備されているのは、110カ国のうち74カ国である。21カ国が水準に達しておらず、15カ国が草案段階となっている。アジアでは、ブータン、中国、インド、インドネシア、イスラエル、日本、クェート、マレーシア、韓国、台湾、トルコが整備されている。
今後のアジアの可能性
現在、新たな農業技術や機器は数多くあるが、既存の技術をオーガニックの4原則、ヘルス、エコロジー、公平性、ケアに照らし合わせて適応する必要がある。慣行農法で活用されている技術も、こうした4原則に照らし合わせて、合致して受け入れられるのであれば、活かす必要がある。それで、有機農業を発展させることができる。例えば、スマートイノベーションの事例だが、以前多くの農家が手で水源管理をしていたが、いまはデジタルツールで灌漑システムを管理できている。同じように消費者も以前のQRコードで生産者の基本的な情報と写真だけしか入手できなかったが、今は、さらに農家がどのような農産物を栽培し、どのような投入資材を使用して、どのようにサプライチェーン全体を維持しているのかの詳細な情報も確認できる。さらにどのようなサプライチェーンを使っているかも見ることができる。スマホでは遠隔から灌漑用水を使うことができる。
また、トレーサビリティと消費者との信頼関係の構築が有機農業においてはとても重要である。というのは消費者は商品の品質について確認したがるからである。そして、成功した制度を広げる必要がある。それには、提携システム、CSA、そして、参加型認証制度PGSがある。アジアでのPGSのモデルとしてはインドやフィリピンがあり、また韓国の生協、ハンサリムも参加型認証の手法を活用している。
都市農業の可能性
そして、都市農業も大きな可能性を秘めたエリアである。都市農業は世界の食料の20%を生産しており、2028年には約5,560億ドルに達する見込みがある。コロナ禍の中で、都市農業が非常に重要であることが判明した。自分たちで自分たちの食料を手にする必要があり、すぐに有機農業が始められるのである。
都市農業は食の安全保障をもたらすだけでなく、一般家庭に新鮮な食料を提供し、都市人口が増す中、健康、都市の持続性、ローカルフードの需要が増す中、鍵となっていく。
若者の参加とアグリテックの活用
また、注目したいのは若者の関りも重要である。若者たちはデジタルアプリケーションに関心が高い。そこで、有機農業とデジタルアプリケーションを融合すべきなのである。アグリツーリズムやローカルツーリズムも多くの消費者が関心を持つエリアである。
栄養と学校給食の重要性
そして、有機農業が社会貢献できる分野として、有機学校給食がある。そのモデルとなる事例は台湾と韓国である。それは社会に対して非常に大きなインパクトをもたらす。というのは、子どもは未来そのものだからである。子どもたちは学校給食を介して、有機野菜がどのように育つのかを学ぶことが出来る。そこで、給食の時間には有機食材を提供する必要がある。
真のコストからみると有機農業は社会的に重要
今後、前進するための提言
そこで、最後によりよい社会のために有機農業をさらに次のステージへと発展させるための提言をみなさんと分かち合いたい。
・若者の参加と有機農業と関連した起業家の育成
・高等教育機関の授業科目への有機農業の組み込み
・基礎及び応用的なプログラムへの資金提供を増やす
・スマートテクノを含めたテクノロジーのイノベーションの重視
・知の分かち合いとネットワーキング化
・政策立案者への科学に立脚したエビデンスの提供
こうしたことを実施して、今後の世の中をよくしていく必要がある。
編集後記
京都大学修士という超弩級の学歴を持つ科学ジャーナリスト松永和紀さんは、2021年4月8日に「農水省の『有機農業推進』が〝脅かす〟食の安全「みどりの食料システム戦略」案に批判噴出」 で「EUを見習ってのグリーン政策ですが、根拠に欠ける目標値、文言が並び、関係者からは『目標達成は絶対に無理』『EUの猿まねをしてどうする?』などと、悪評ふんぷんです」 「荒唐無稽の計画だとしか言いようがありません。『2040年までに次世代有機農業技術の確立』などと勇ましい言葉が並んでいます。私は長い間、農業技術の取材に携わっていますが、そんな研究の萌芽ですらまったく感じられません」。
こうした批判もある中、2023年3月に農林水産省大臣官房の岩間浩審議官は「みどりの食料システム戦略の推進について 持続的な食料システムの構築に向けた政策の展開」という論考の中で「2022年10月に開催されたASEAN+3農林大臣会合においては、ASEAN地域への日本の協力イニシアティブとしてASEAN各国からの賛同を得た[略]。アジアモンスーン地域をはじめとする地球温暖化や生物多様性への対応、食料安全保障などにも積極的に貢献していく考えである」と書かれている。松永さんのような反論がある中でも、みどりの食料システム戦略の目標を打ち出された岩間審議官を始め、農水省の官僚の方々の尽力には本当に頭が下がる思いがする。
実は1年半近くも前になるのだが、2022年5月10日に、今は林野庁長官になられたのだが、岩間審議官の前任であった青山豊久審議官に「みどりの食料システム戦略とスマート農業」と題する講演をお聞きしたことがある。 このメモも拙ブログに公開するにあたって、多忙の中を当時の青山審議官には推敲・赤ペンを頂いている。
本当にありがたい気持ちで一杯である。とはいえ、大地を守る会の勉強会に参加される方は押しなべてレベルが高い人が多いのだが「日本がとうとうこんなことを打ち出したんだ。がんばってください」と称賛の声が多かった。そこで、さらにこのブログでは先をいきたい。
ということで、本稿は、2023年9月15日(金)の10時30分から12時30分にかけて、東京都立産業貿易センター 浜松町館において、(一社)オーガニックフォーラムジャパン(OFJ)の主催、Catch up Organicsの協力においてなされた第8回 Organic Forum JAPAN~オーガニックライフスタイルEXPOでの講演会の内容をまとめたものである。まさにテーマはモンスーンを抱えた大東亜、アジアだ。 タンベール博士の英語は訛りが強いのだが、下に字幕で日本語も出て、ほぼパワポに書かれた英文に沿って発言をされているので、文字を読めば正確な数値や内容をトレースすることができる。
個人的には若者がテクノロジーを好んでいるとか、有機農業とテクノロジーを融合させる必要があるといった博士の見解には賛同しかねる部分もあるのだが、タイトル見出しだけからでも全体のトーンを眺めれば、世界の文脈が読み取れる。有機農業の四原則が、健康、エコ、公平性、ケアであること。提携と同時にPGSが重要であること。都市農業、そして、若者参加、学校給食、真のコストである。これをベースに日本語での農業を巡って話題になるテーマとの「ズレ」を見ていけば、何が欠落しているのかが見えてくる。
そして、それにしても悔しいのが面積であれ、制度であれ、日本がアジアの中で完全に取り残されていることが改めて見えてくることだ。有機農業面積として評価されるのは8.5%をいく東チモールと2.5%をいく韓国であり、参加型認証のモデルとして評価されるのがインドとフィリピン、そして、韓国のハンサリム生協であり、有機学校給食で評価されるのも台湾と韓国であることだ。 もちろん、韓国といえでも決して理想郷ではなく、2010年をピークに出荷量が減少し、なんとか有機学校給食という公共調達によって帳尻をあわせていることを2021年7月20日に新潟食料農業大学青山浩子講師が「韓国における有機農産物と学校給食の実態」 として詳細な統計数値とともに論じておられる。
とはいえ、IFOAMアジアという議論の場では、日本が登場するのは、過去の遺産としてでてくるのが「提携」でしかないことだ。したがって、上の岩間審議官の活字を読まれた方が「雨が多く気温も高いモンスーン地域では欧州並みの有機農業は難しい。なればこそ、大東亜の盟主たる日本が欧州のF2Fに匹敵する25%を2030年に達成することが難しいことから、これを2050年に先伸ばししたんだ。さすがは我が日本。大東亜の盟主として欧米にガツンと言ってやれ」と思われたとしたら、その時点で完全にあなたはアジアの中でのガラパゴスになっていることに気づくであろう。 古代中国には、いい言葉がある。漢代には現在の貴州省の西境にいた異民族「夜郎」が、広い世間を知らず、仲間の中で大きな顔をしていい気になっていることから「夜郞自大」という言葉が生まれたが、「このやろう」と言われることを避けたければ、悔しくても、後進国として謙虚に韓国やフィリピンに学ばなければならない、と思うのだがどうであろう。
なお、講演メモの公開を承諾いただいたIFOAM Organics ASIA理事 福井佑実子さんにはこの場を借りてお礼を申し上げたい。
こうした批判もある中、2023年3月に農林水産省大臣官房の岩間浩審議官は「みどりの食料システム戦略の推進について 持続的な食料システムの構築に向けた政策の展開」という論考の中で「2022年10月に開催されたASEAN+3農林大臣会合においては、ASEAN地域への日本の協力イニシアティブとしてASEAN各国からの賛同を得た[略]。アジアモンスーン地域をはじめとする地球温暖化や生物多様性への対応、食料安全保障などにも積極的に貢献していく考えである」と書かれている。松永さんのような反論がある中でも、みどりの食料システム戦略の目標を打ち出された岩間審議官を始め、農水省の官僚の方々の尽力には本当に頭が下がる思いがする。
実は1年半近くも前になるのだが、2022年5月10日に、今は林野庁長官になられたのだが、岩間審議官の前任であった青山豊久審議官に「みどりの食料システム戦略とスマート農業」と題する講演をお聞きしたことがある。 このメモも拙ブログに公開するにあたって、多忙の中を当時の青山審議官には推敲・赤ペンを頂いている。
本当にありがたい気持ちで一杯である。とはいえ、大地を守る会の勉強会に参加される方は押しなべてレベルが高い人が多いのだが「日本がとうとうこんなことを打ち出したんだ。がんばってください」と称賛の声が多かった。そこで、さらにこのブログでは先をいきたい。
ということで、本稿は、2023年9月15日(金)の10時30分から12時30分にかけて、東京都立産業貿易センター 浜松町館において、(一社)オーガニックフォーラムジャパン(OFJ)の主催、Catch up Organicsの協力においてなされた第8回 Organic Forum JAPAN~オーガニックライフスタイルEXPOでの講演会の内容をまとめたものである。まさにテーマはモンスーンを抱えた大東亜、アジアだ。 タンベール博士の英語は訛りが強いのだが、下に字幕で日本語も出て、ほぼパワポに書かれた英文に沿って発言をされているので、文字を読めば正確な数値や内容をトレースすることができる。
個人的には若者がテクノロジーを好んでいるとか、有機農業とテクノロジーを融合させる必要があるといった博士の見解には賛同しかねる部分もあるのだが、タイトル見出しだけからでも全体のトーンを眺めれば、世界の文脈が読み取れる。有機農業の四原則が、健康、エコ、公平性、ケアであること。提携と同時にPGSが重要であること。都市農業、そして、若者参加、学校給食、真のコストである。これをベースに日本語での農業を巡って話題になるテーマとの「ズレ」を見ていけば、何が欠落しているのかが見えてくる。
そして、それにしても悔しいのが面積であれ、制度であれ、日本がアジアの中で完全に取り残されていることが改めて見えてくることだ。有機農業面積として評価されるのは8.5%をいく東チモールと2.5%をいく韓国であり、参加型認証のモデルとして評価されるのがインドとフィリピン、そして、韓国のハンサリム生協であり、有機学校給食で評価されるのも台湾と韓国であることだ。 もちろん、韓国といえでも決して理想郷ではなく、2010年をピークに出荷量が減少し、なんとか有機学校給食という公共調達によって帳尻をあわせていることを2021年7月20日に新潟食料農業大学青山浩子講師が「韓国における有機農産物と学校給食の実態」 として詳細な統計数値とともに論じておられる。
とはいえ、IFOAMアジアという議論の場では、日本が登場するのは、過去の遺産としてでてくるのが「提携」でしかないことだ。したがって、上の岩間審議官の活字を読まれた方が「雨が多く気温も高いモンスーン地域では欧州並みの有機農業は難しい。なればこそ、大東亜の盟主たる日本が欧州のF2Fに匹敵する25%を2030年に達成することが難しいことから、これを2050年に先伸ばししたんだ。さすがは我が日本。大東亜の盟主として欧米にガツンと言ってやれ」と思われたとしたら、その時点で完全にあなたはアジアの中でのガラパゴスになっていることに気づくであろう。 古代中国には、いい言葉がある。漢代には現在の貴州省の西境にいた異民族「夜郎」が、広い世間を知らず、仲間の中で大きな顔をしていい気になっていることから「夜郞自大」という言葉が生まれたが、「このやろう」と言われることを避けたければ、悔しくても、後進国として謙虚に韓国やフィリピンに学ばなければならない、と思うのだがどうであろう。
なお、講演メモの公開を承諾いただいたIFOAM Organics ASIA理事 福井佑実子さんにはこの場を借りてお礼を申し上げたい。






