三祐コンサルタント 手島祐子
著者のジェシカ・ファンゾは、ジョンズ・ホプキンス大学の教授で、それ以前はFAOやWFPで勤務し、アジアやアフリカでのフィールド経験を積んできた。日本評論社にメッセージの動画がある。いかに人々が不健康になっているか、行動を変えなければ持続可能な食糧生産が維持できないことを熱く語られているので是非、見ていただきたい。
健康と環境とを同時に捉えるフードシステム
まず、フードシステムというと、一般的には流通だけを思い浮かべられるが、実際には、それは、農場での生産から加工、貯蔵、マーケティング、小売店での販売、廃棄に至るまであらゆる面を一連のシステムである。そして、このフードチェーンの周りには、健康や環境だけでなく、社会、政治、経済とすべてがつながっている。
では、このフードシステムを取り入れたことは何が新しいのであろうか。これまでは人間の健康と環境問題は別々のこととして別個の対策が取られてきたのだが、温室効果ガスの3分の1はフードシステムから出ている。そこで、同時に対策をするためにフードシステムとして捉えることが科学的なエビデンスからすでに明らかになってきた。つまり、私たちの日々の食事を見直すことが大事なのである。
このフードシステムで簡単に現在の状況を見てみると、2019年以降、世界の栄養不足人口は増加の一途をたどっている。気候変動、コロナ禍、ウクライナ紛争によってさらに悪化している。また、食糧危機のリスクもウクライナ紛争で上昇し、食糧価格も1.3倍に上昇している。日本は関係ないと思われるかもしれないが、開発途上国は家計に占める食の割合が大きいので、食糧価格の上昇は死活問題である。
一方で、栄養過剰も起きている。不適切な食事によって病気になって死亡する人がいる。世界の死亡率の増加の原因は、塩分が多く、全粒穀物が少ない、フルーツが少ないことが原因である。したがって、フードシステムを通じての改善が望まれる。
不適切な食といっても直ちに病気になるわけではないが、日本人も白米が中心で、塩分が多く、果物も値段が高いので摂取量が少ない。
次に環境問題を見てみると、温室効果ガスの排出量の3分の1が食と関係していて、食事から発生している。
内訳をみてみると、34%が土地利用、32%が過度な農地の耕起、39%が農業生産、化学肥料や動物の糞尿等、18%がサプライチェーンや加工輸送パッケージ販売、最後の11%が食品廃棄物である。ちなみに、フード・ロスとフード・ウェイストの違いを説明しておくと、家庭に届くまでに無駄になるのがロスで、家庭に届いてから廃棄されたりするのがウェイストである。フード・ロス問題も大事なのだが、解決されない問題はこれに限られない。
食料生産は土地の約40%、淡水の70%を使用し、生物多様性喪失の主な原因でもある。40万種類もある食べ物のうち、たった12種類が75%を占めている。そして、窒素やリンの過剰使用が汚染を引き起こし、人獣共通感染症の原因にもなっている。いまのフードシステムは気候変動や天然資源枯渇の原因なのである。
プラネタリー・ヘルス・ダイエット
人新世とは地球の生態系に重要な影響を与えるようになった新しい地質時代のことだが、人新世の食事という概念を出した。これまでも肉が悪いことはわかっていたが、2019年のこの論文から常に健康だけではなく、地球の健康も考えるようになった。例えば、この理想的なダイエットと比較して現在の食事がどれだけ肉に偏っているかがわかる。
つまり、私たちの日々の食事の選択から好循環も悪循環も生み出せる。日本では米を食べるのだが、北米は肉を多く食べ、インドやアフリカでは栄養が足りない。
そこで、このフードシステムを通じて日本や地球を健康にしたいというのが私の希望である。管理栄養士として以前は慢性疾患の患者に対して栄養指導をしていたのだが、先進国の生活だけではなく、いまは飢餓や食糧問題も考えている。これらは、開発途上国でのあり方が根本から変わらないと続いてしまう。
地球環境というと気候危機もあるが移民問題もある。気候変動による洪水等で自分たちの畑が駄目になれば必然的に人々は移動する。あるいは、食糧の生産過程で人権侵害も起きている。私たちは、人権侵害をしたいと思っていなくても、無意識に安い食を選択していると、その裏には社会の歪がある。そして、アニマル・ウェルフェアも大事である。勿論、米国人ほどは肉は食べてはいないが、プラネタリー・ヘルス・ダイエットの基準値から見ると動物性食品が1.3倍とか多い。
世界各国の食生活指針と環境への配慮
栄養教育のため、フードピラミッド等ができている。食糧資源を大切にして無駄や廃棄の少ない食生活をとなっていて、食品ロスは書いてあるが、食事の選択についての記載はない。けれども、世界のそれ以外の国では食生活指針に持続性を盛り込んでいる。
例えば、ドイツの食生活指針は植物性食品を中心に選ぼうと政府が提唱している。健康、環境、社会的側面、アニマル・ウェルフェアが書かれている。普通は健康と環境の二つだけなのだが、安い賃金で働かされないとか社会についてもふれている。
このドイツの指針は、プラネタリー・ヘルス・ダイエットの指針とかなり重なっている。そして、ドイツは世界で唯一、肉食の消費量が減っている。ベジタリアンやフレキシタリアンになっている。そして、これは、環境問題に関心を持って変えている人が多い。
オランダの指針も肉類を減らし、植物性食品を多く摂り、ナッツ等の、ベジタリアン食品を食べなさいと書いている。そして、日々、口にする食べ物が環境に大きな影響を与えていると明記している。
カナダの指針もプラネタリー・ヘルス・ダイエットにかなり似ている。タンパク質が植物性食品からも摂れることが明記され、白いパンではなく、全粒穀物を揚げ、タンパク質源も卵や豆腐とかになっている。
スウェーデンもサスティナブル・ビックピクチャーを全面に打ち出している。
ブラジルも環境・社会性を大事にし、超加工食品を制限し、マーケティングに注意しろとの指針がある。
したがって、まだ、持続性に考慮できていないのは、日本とアメリカなのである。ということで、ここでお聴きの食関係者の皆さんに、お薦めしたいのは、いま、これから商品開発をすれば先行者利益があるということである。
日本のみどりの食料システム戦略とEUのF2Fの違い
さて、日本のみどりの食料システム戦略は、EUのF2F戦略を元に作られたのだが、私が着目しているのが、全部内容を読んでみたうえでの違いを言うと、持続可能な消費が具体的に書かれていないことである。
ここでみどりの食料システム戦略とF2Fの違いは何かというと、EUでは消費者の行動にまで視野をあてているのだが、日本では消費で具体的に何をするかがよくわからない。
世界の食と関連した表示システム
チリやブラジルの表示で人々を健康に
不健康な食べ物や飲み物の購入を減らすことに成功し、表示付きの食品・飲料によってカロリーが一人一日当たり24%、砂糖が27%、飽和脂肪が16%、ナトリウムが37%も減った。そこで、「これはいい」ということで、ブラジル、イスラエル、メキシコ、ペルーが同様の政策を取って不健全な食に警告を入れている。
フランスで始まった栄養価評価は欧州で
食品の加工度合い評価で超加工食品の危険性をPR
オーガニック認証
乱獲を防ぐために水産認証
そして、水産のエコラベル。漁業のラベルもある。というのは、海では乱獲が起きていて、この分野も大事だからである。海洋管理協議会(MSC)という国際NGOが運営しているのだが、フランスのスーパーではやはりこうした物が売られていた。
アニマル・ウェルフェア
エコを評価する
フードシステムに関する国際的な動き
さて、こうした動きが大きく始まったのは、ジェシカ先生の2019年にプラネタリー・ヘルス・ダイエットを提唱されてからである。2021年7月3日には、フードシステムサミットが開かれたし、FAOもこうしたことをやっている。
社会的な部分もフォーカスしている。そして、水産にもフォーカスすると言っている。よく、海藻等の水産物は「ブルーフード」と言われているのだが、作るために環境負荷が小さくていいのだが、よくわからないためである。今後のホットトピックである。
さて、COP27でもフードシステムが取り上げられて私はびっくりした。このパビリオンでは会場を貸し切って何日も話がされるようになっていて、食品だけでも4つもコーナーができていた。温暖化というと石炭や石油だけが問題になってきたが、これに食が入ってくるようになると思っている。
そして、いままで切り離されていたものがつなげるということで、新しいプラットフォームやイニシアティブもできている。それぞれの国においてフードシステムの変革が必要だと言うことで、WWFもフードシステムに言及している。というのは、化石燃料は段階的に削減することができても、食糧を段階的に削減することはできないからだ。したがって、フードのシステムを変革しなければならない。ということで、最後に私の考えを2つ紹介したい。
第一は、サスティナブルは誰にとってかを注目する必要がある。グリーンウォッシングがあるからである。確かに、生産過程で二酸化炭素を減らせても、その生産過程で人権侵害があったり、化学肥料を大量に使っていると問題がある。こうしたことで炭酸飲料の大企業が批判されている。
最終的に地球環境にまでいいと言えない中で、サスティナブルという言葉だけがうまく使われている。国連の事務総長もグリーン・ウォッシングがいけないと言っている。私が応援している一人に、友人の佐藤有希子がチョコレートの製造での児童労働を止めようとか言っている。こうしたいいニュースは応援したい。
健全な食のためには生活に余裕を〜一汁一菜のススメ
次に、仕事が忙しいと私もついコンビニで食材を買ったりしてゴミが増えたりする。自分も不健康になる。日本人は働きすぎである。そこで、生活に余裕が必要である。
編集後記
本稿は、2023年4月14日(金)15:50~16:45に、ファベックス(The World Food And Beverage Great EXpo)主催者特別セミナーとして行われた(株)三祐コンサルタント、東京大学研究員の手島祐子氏の講演内容をまとめたものである。
会場での動画撮影は禁じられていたので、あくまでも、会場での聞き取りメモを再整理させていただいたものとして正確さに欠けることをご理解いただきたい。
で、ざっとメモ書きをまとめたのだが、1時間弱のコンパクトなレクチャーとはいえ、食の持つ重要性、そして、それを変えるために、チリをはじめ、食品表示が圧倒的な威力を持っていることを改めてお教えいただいた。フランスの栄養スコアについては、拙著「コロナ後の食と農」でも紹介したのだが、それ以外にもこれだけの認証ラベルがあることは知らなかった。また、ヴィーガンやベジタリアンが広まっていることも耳にしてはいたが、ジャンク・ビーガンを警告するWHOのリポートがでていることも初耳だった。
みどりの食料システム戦略に欠けている部分をF2F戦略との比較で適切に指摘し、あわせて、批判だけで終わらず、最後にお勧めの書籍として、斎藤幸平さんの「人新世の資本論」と土井善晴さんの一汁一菜が登場したのは、まことに共鳴できた。
なお、会場でも続けて昆虫食についての私の疑問やブログアップを快く承諾いただいた手島祐子さんに、この場を借りてお礼をもうしあげたい。
追記 肉の消費量が少ないほど持続性が高まる。直接消費をしなければしないほど熱効率があがるからだ。この当然の真理はコロンビア大学のルース・ドフリース教授の『食料と人類』(2016)日本経済新聞出版社にも「中国は肉の少ない食生活で何百万もの都市住民と農民自身の食料をまかなった[p104]。定住生活で生じた難題を中国のように何世紀にもわたって乗り越えた社会はどこにもない」[p105]と、記載されている。
とはいえ、拙ブログをお読みいただいたH博士から早速以下のようなコメントが編集子に寄せられた。
「Eat-lancetの古いバージョンは読みました。その時点ですが、食と、我々の健康や地球の持続可能性がつながっているのはその通りですが、問題山積だと感じました。(1)欧米人主導で世界の食文化の多様性を軽視していた、(2)結果、工場型畜産しか想定しておらず、世界中で行われてきた牧畜や狩猟、最近の再生型農業の流れをほぼ無視していた、点が酷かったです。彼らの基準によるとインドやアフリカでは芋の食べすぎだそうです。大きなお世話というか、上から目線と言われても仕方ないと思いました。
Lancetは2019年にversion 1が出て、次は来年2024年にversion2が出る予定です。メンバーをみると、インドネシア、アフリカ、中国、中南米などの人も入って多様な人種構成になっていますが、依然として白人中心です。日本人もインド人も、先住民も見当たりませんでした。
なお、Lancetと食事基準を比較した日本語論文をみつけました。とてもわかりやすいので、読んでください」以上。
H博士のような知的レベルが高く、わずか数時間でたちどころに膨大な英文の原文も読みこなし、かつ、大所高所に立って批判的に食の文脈を読み解けることは素晴らしい。とはいえ、一方で、99%の日本人は「安い、美味しい」といって唐揚げや輸入牛肉を食べているのが現状である。ということで、まずは食が地球温暖化の防止のうえでも大事だということを知っていただくうえでも、手島さんのこの翻訳書や講演はとても素晴らしいと思ったので追記しておく。つまり、手島さんの発信されている情報をまず大前提として咀嚼したうえで、かつ、H博士のようにさらに奥深い真実へと肉薄していかなければならないのである。
日本では先日の消費者庁との意見交換会でも、某国会議員の御主人ですら「国内製造」と「国内産」の小麦の区別すらついていなかった。チリでこうした食品表示がなされ、スーパーではこうなっていることすら知らなかった情報屋としては、実に遠き道のりなのだが、おいおい情報を提供していきたい(2023年4月21日)。
とはいえ、拙ブログをお読みいただいたH博士から早速以下のようなコメントが編集子に寄せられた。
「Eat-lancetの古いバージョンは読みました。その時点ですが、食と、我々の健康や地球の持続可能性がつながっているのはその通りですが、問題山積だと感じました。(1)欧米人主導で世界の食文化の多様性を軽視していた、(2)結果、工場型畜産しか想定しておらず、世界中で行われてきた牧畜や狩猟、最近の再生型農業の流れをほぼ無視していた、点が酷かったです。彼らの基準によるとインドやアフリカでは芋の食べすぎだそうです。大きなお世話というか、上から目線と言われても仕方ないと思いました。
Lancetは2019年にversion 1が出て、次は来年2024年にversion2が出る予定です。メンバーをみると、インドネシア、アフリカ、中国、中南米などの人も入って多様な人種構成になっていますが、依然として白人中心です。日本人もインド人も、先住民も見当たりませんでした。
なお、Lancetと食事基準を比較した日本語論文をみつけました。とてもわかりやすいので、読んでください」以上。
H博士のような知的レベルが高く、わずか数時間でたちどころに膨大な英文の原文も読みこなし、かつ、大所高所に立って批判的に食の文脈を読み解けることは素晴らしい。とはいえ、一方で、99%の日本人は「安い、美味しい」といって唐揚げや輸入牛肉を食べているのが現状である。ということで、まずは食が地球温暖化の防止のうえでも大事だということを知っていただくうえでも、手島さんのこの翻訳書や講演はとても素晴らしいと思ったので追記しておく。つまり、手島さんの発信されている情報をまず大前提として咀嚼したうえで、かつ、H博士のようにさらに奥深い真実へと肉薄していかなければならないのである。
日本では先日の消費者庁との意見交換会でも、某国会議員の御主人ですら「国内製造」と「国内産」の小麦の区別すらついていなかった。チリでこうした食品表示がなされ、スーパーではこうなっていることすら知らなかった情報屋としては、実に遠き道のりなのだが、おいおい情報を提供していきたい(2023年4月21日)。






