2023年03月18日

サステナファーム上映会とトークショー

はじめに

「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」上映作品として、川上敬二郎監督の「サステナファーム」が上映され、その後では、監督に加えて、映画に登場する木村- 黒田純子博士といすみ市の鮫田晋さんのトークショーもある、というので渋谷の映画館で見てきた。

 ネオニコチノイド農薬によるミツバチ群の消滅と宍道湖の水圏生態系の崩壊から始まり、脱ネオニコによる佐渡でのトキと豊岡市のコウノトリの復活、そして、有機農業に地球再生のヒントがあるというので、岐阜県の白川町とファーマーズマーケットのよしのたかこさんが登場。さらに、有機農家を公的に支援している事例として、いすみ市の有機学校給食が登場し、さらに、それを一歩進めた再生農業(協生農法)というストーリー展開だった。

 ベストセラー、『腸と森の「土」を育てる』(2021)光文社新書は愛読していたのだが、桐村里紗医師が自ら「プラネタリーヘルス」実現のため、鳥取県米子市で、ソニーコンピューターサイエンス研究所指導の下、協生農法の実験を行っているシーンはなかなか見ごたえがあった。ヒューマントラストシネマ渋谷のシアター1は200席なのだが満席だった。

 上映後のトークショーもTBSの伊藤隆佑アナウンサーのプロ級の進行もあって短い時間ながら、ことの重要性がよく伝わる素晴らしいものだった。70分というコンパクトな中にも貴重な情報が込められている。以下は、その映画上映後のトークショーの内容である。

川上敬二郎監督 皆様に来てもらい、ありがとうございます。

木村- 黒田純子 映画に出させてもらいました。監督、素晴らしい映画をありがとうございました。TBSではちゃんと取り上げてくれて、報道特集で農薬の事実を皆に知ってもらってありがたい。また、映画の画像が綺麗で、また、監督が美味しそうに食べておられたのが可愛いなと思いました。さて、前半がネオニコチノイドの問題、後半が有機農業、共生農法、いわゆる無農薬・無肥料の自然栽培という流れがとてもよくつながっていました。

2023031801s.jpg 農薬は何らかの生物を殺す殺生剤で、害虫、雑草、病害菌だけに効くものはなく、後から生態系全体にもダメージが出てくることがある。農薬は毒性試験をやって安全基準を決めているが、神戸大学の星先生がされているような新しい毒性試験はしていない。いま、新しい試験方法が出てきているので、それで検査をしていかないと人に対する毒性は調べられない。人への影響を明らかにするには時間がかかるので、危険性がわかった時点で予防原則に則り規制する必要がある。そして、EUは予防原則によって、農薬を規制している。もちろん、完全に農薬を使わないことはよいことなのだが、そうでなくても、OECDやFAOの統計で調べると、単位農地面積当たりの農薬使用量は、日本は一番ではないにしても農薬の使いすぎで非常に多い。EUと違って高温多湿の日本では必要と言われるのだが、亜熱帯のアジアでもそれほど農薬を使っていない国もでてきている。また、ネオニコ以外にも、有機リン系農薬クロルピリホスは、子どもの脳発達に悪影響を及ぼすことが明らかで、欧米では禁止されているのに、日本では使用を継続している。大量に私用されている除草剤グリホサートも発がん性が報告されている。この映画をきっかけに農薬全体のことを考えてもらうといい。

伊藤隆佑 今日、映画を見て農薬の問題を初めて知る人にとっても大事なお話でした。では、次に中央で、有機米を実現された鮫田さん、お願いします。

鮫田晋 今日は、仲間の生産者と一緒に来ているので。映画に出演されている矢澤さんも来られているので、一緒に挨拶を。

伊藤隆佑 では、改めて映画を見られて、どう感じましたか。

鮫田晋 一番前の特等席で見させてもらいましたが、農薬の問題から始まり、次世代のことまでを、はじめから何か考えられて企画があったというよりも、農薬問題への気づきから、それがそれだけに終わらないで自分で探求をさせていくという、まさに川上さんの探求のドラマが映画で経験できて、とても幸せな思いになりました。

伊藤隆佑 最初の方でも「考えてみよう」というメッセージがありましたが、監督、最初のこの映画を作るきっかけは。

川上敬⼆郎 報道局に20年もいて農業の問題をやっていなかったわけだが、たまたま6年前に田舎に引っ越して妻が始めたのが有機農業。自分は「オーガニックて何?」というレベルだったのですが、子どもたちも一緒に農園を手伝って「美味しいなあ」と。では、有機農業とは何か。化学肥料を使わない、農薬を使わない、遺伝子組み換えしないと。では、有機農業はどうなっているのというと「えっ」たった1%もないのと。海外は20%台なのになぜかと。いま、鮫田さんがふっていただいたようにその疑問のままに進んでいったと。なので、妻にも感謝したいと思っている。

伊藤隆佑 生活に根ざしたエピソードをお聞きできました。では、木村- 黒田純子さん、農薬の規制に関して、いま検討がされているとのことでしたが。

木村- 黒田純子 これまでは登録された農薬の再登録をしてきて評価をしてこなかったわけだが、それだと世界の動向に太刀打ちができない。そこで、最新の科学的な根拠によって安全性を再評価するとなって、公表された文献がやっと評価の対象になったことは進展だ。しかし、誰がその論文を収集・選別するのかというと農薬メーカーがやることになっている。農薬メーカーでは利益相反があるのに、農水省は「やり方が決まっていれば誰がやっても同じ」だと。そこで、農薬企業が作成したネオニコの公表文献が公開されているので、私が調べてみたら、いろいろ不当なことがされていることがわかった。例えば、神戸大学の星先生が書かれている11編の論文のうち7編が削除されている。4編だけが掲載されていたが、これは海外の期間で評価に使用されたもの。海外で評価に使用された論文は載せなければならないので、それは入れてあるのだが、その評価内容も不当で「コントロールがない」などと低評価にしてある。

 本当はコントロールがされているのに、低評価になると、再評価に用いられなくなる。つまり、重要な文献が入っていないことがある。どの文献が入っていて、何が入っていないかは、わかっているひとが見ないとわからない。もちろん、私がやったらやったでバイアスがかかるのだが、専門知識を持った第三者が文献のチェックをやるべきだと。私が所属している学会にもこれを言ったのだが、研究者として、あまりにひどいので、学会として農水省、環境省、厚労省などに対して要請書を出すことになっている。もっと大きな学会でもこれを広げて扱ってもらおうと思っている。是非、メディアでも広げてもらいたいと思っている。それを知ってもらいたいと。どういう状況になっているのか、必要があればお知らせします。

川上敬⼆郎 実は今日の会場には霞ガ関の幹部の方もおられます。

伊藤隆佑 マスメディアでは研究に対してもスポットをあてることが大事なんでしょうね。

川上敬⼆郎 農業問題は本当に大手のメディアがやっていない。SDGsと言われても、農業が大きいことがわかってもらえたのではないか。温室効果でも23%を占めているし、生物多様性の喪失の大きな理由も農業であると。このことを考えずにSDGsは語れない。

伊藤隆佑 農業がトキを追い詰めたので、という農家の声も映画でありました。さて、鮫田さんはもともとはサーフィンをやっていたと。

鮫田晋 はい、趣味のサーフィンが縁で。

伊藤隆佑 中途採用の職員で異色だと。

川上敬⼆郎 だから、農政を変えることができたという声もあります。

伊藤隆佑 鮫田さん、成功した否決は。

鮫田晋 いすみ市が成功したかどうかはわからないのですが、もし、成功したとすれば、農家とか市民とか協調してやる人がいるからだと思う。まだチャレンジングな世界に対して一緒に取り組んでいる人がいるおかげかと。給食のお米全部がオーガニックという実績の部分だけに注目していただくのではなくお米だけではなく、皆が協調して頑張っているという姿を見てもらいたいなと思う。

川上敬⼆郎 有機と慣行農業、化学肥料と使う人との対立を産まない。全体をサポートするという鮫田さんの姿勢からすべてが始まっている。それを鮫田さんは意識されているのですよ。

鮫田晋 いま、本当に大変なんです農業をやっていくのは。どのような農業であっても、それを続けているだけでもありがたいので。まだまだ有機農業はチャレンジングな世界なので。それをできる人が、できるところから取り組んでいくということで皆で前進していくしかないし、それしかないと。ということで、明日も頑張っていきたいと思います。

伊藤隆佑 とはいえ、まだ0.6%しかないわけですよね。木村- 黒田純子さん。

2023031802s.jpg木村- 黒田純子 有機農業は世界の動向なんですね。化学肥料を使っているとそれは地球温暖化の元にもなっている。持続可能な農業にしていかないと、人間は他の生物に地球生態系に依存して生きているので生きられない。日本の食糧自給率が38%ということも、これも大変。とにかく、政府が農業、なかでも有機農業を支援しなければいけないと思っている。消費者も将来のことを考えて多少高くても有機農産物を買えればいいのだが、いまは経済的にも厳しいので、学校給食で公共調達をしていくと効果が上がるのでは。小学校だけでなく、保育園、幼稚園から中学校まで、無料の有機給食をやることがいいと。いま、有機学校給食を進める運動が広がっている。子どもには安全な食事を進めたいので、有機学校給食によって、有機農業もう少し進むのではないか。

伊藤隆佑 とても、具体的なご提言をいただきました。では、最後に一言ずつ。まず、鮫田さんから。

鮫田晋 有機農業はよく難しいと言われているのだが、意欲をもってチャレンジしていくことの連続。国が目標を掲げたことでやり易くなったが、次世代のためにベストを尽くしていきたい。一世代ではできないかもしれないが、チャンレンジする人、そして、それを食べて支える人が必要。これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします。

木村- 黒田純子 言いたいことはだいたい言ってしまったが、日本には美しい自然がある。一方で、ネオニコが生態系に対してダメージを与え、海産物にも悪影響を及ぼしている。私の家は東京の郊外だが、本当に虫がいなくなった。それでも、改善すれば自然は回復する。将来に美しい自然を残したい。私はもう年だが、いまできることやっていければと思う。

川上敬二郎 自分は20年、報道局にいて、いま、ディレクターをしているが、わりと子どもを取り巻く問題をやってきた。ブラックな先生とかいじめ予防とか。この話とは有機農業と給食の話もあったように、教育とサステナファームは相性がいい。食べることでの残食率も減っていく。お日様を浴びて、生き物を観察して、身体も動かして。それが非常に大事かなと思った。

 いまの日本は色んな目詰まりを起こしているが、このサステナファームが突破口になってくれると。解決策になるとひとつのきっかけになると思って取材をしている。このサステナファームの発想を一緒に考えていただければと思います。映画と主に是非、ご支援をお願いします。

編集後記

 本稿は、上述した映画の後でのトークショーを聴きながらメモしたものである。ということで、録音はしていないし、正確さは欠く。あくまでも、会場での聞き取りメモを再整理させていただいたものとしてご理解いただきたい。とはいえ、木村- 黒田純子博士と鮫田晋主査には草稿を送ったところ、詳細な訂正を頂いている。この場を借りてお礼を申し上げたい。

 なお、フェイスブック上では、長谷川浩は博士から「協生農業をどう評価するか教えて下さい」と言われているのだが、編集子は現場を取材したことがないし、映画をみる限り素晴らしいフィールドだったので、また新たな再生農業の可能性が垣間見えたと思ったりもした。とにかく、映画ででてきたこの農法の原案を発案されたという三重県で桜自然塾を経営される自称「野人」大塚隆さんは素人でも、この農法の原理を探求・指導されているSONYの舩橋真俊氏は東京大学で生物学・数理科学を修め、仏エコールポリテクニク大学院で物理学博士を取得したという大変なアカデミックのプロだからだ。私のような素人のフリーライターにはとても深遠な学理は評価できない、と思っていたところ、私の知り合い―こちらは農学博士-からだが、以下のようなコメントがあった。

「協生農法の現場をネットで検索しましたが、とても非科学的な言動だったので見学はやめました。ソニーも見学を受け入れておらず、そもそも圃場を維持しているかどうかもわかりません。ゲイブ・ブラウンの本に『カオスの園』がありますが、これと協生農法は同様なのかもしれません。

 多様性を増やすことは賛成ですが、むやみやたらと増やせば競争力の強いものが勝つのが自然界の原理です。そこで大切になるのが、攪乱で、例えば放牧で攪乱すれば競争力以外の、再生力や踏圧に対する耐性が重要になります。ソニーの人の本もざっとみましたが、攪乱の重要性は書いてなかった気がします。桐村さんはたいへん勉強家でいろいろなことが詰め込まれていましたが、農業の現場の知識や実践はまだこれからだと言う印象です」

 また、別の医学博士からも「慣行農法よりはましでしょうが、協生農法には疑問がある。話題の小祝農法も知り合いが『小祝農法の農作物は美味しくない』と言っていた」とのコメントを頂いた。

 ということで、こうしたコメントを見る限り、ただ素人のマスメディアや農業の専門外の医師が評価したから、ということではなく、やはりプロの農業試験場がきちんと現時点の科学的な方法で比較対象試験をした方がいいような気がした。
posted by 情報屋 at 15:25| Comment(0) | 講演会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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