2022年10月17日

映画、君の根は。大地再生にいどむ人びと〜試写会のトークショー

辻信一 [映画の]最後に流れる歌。1960年代、70年代にプロテストがあって、それに使われた歌で、これは「マイランド」と言っているけれども、私有地の立て看板の裏側には何も書いてなかったと。今回、改めて訳してみると、「誰のものでもないのだ」という最後のオチがあるんだと。そういう意味では、今日、見ていただいたテーマは、まさに土地所有の問題ですよね。

 人間が土地を所有するということは、どうなのかということまで行くのだと。さて、映画について推薦文を書いてもらったり、コメントをいただいているし、その中には重要な批判的な見方もあるわけで、それもすごく重要だなと。

2022101702.jpg 是非、皆さん、これを僕たちが日本に持ってくると決意した時に、これは入り口であって、とてもその向こう側には大きな世界が開けているということを、ただただ見ていただきたい、と。

 さて、この映画の背景、リジェネラティブ、英語でも日本語でも発音しにくい言葉がやってきて、いま世界中で物凄い人気なんですね。いまと言いましたが、より正確にはこの十年。海外で食に少しでも関心がある人は、皆これを合言葉にしているのだけれども、日本に到達するのにはなぜか時間がかかったと。それが、どうしてかという問題は、置いておいて、今、それに大企業が群がっているわけです。

 グリーン・ウォッシュイング、英語だとコープテーション(cooptation)。ふと気がつくと大企業がみんな持っていってしまっていて、誰も、その手のひらに乗っている自分に気づくと。SDGsだろうがスローライフだろうが、皆、同じ道をたどってきた。だから、「こんなことをやめた方がいいよ」とのアドバイスを海外の友達たちからは受けるわけです。もう(リジェネラティブも)企業に持っていかれてしまっているよと。それを意識の片隅において映画を見てほしい。

 それでも、僕らは苦労して字幕も全部、自分たちで入れて、向こうの人たちとも話し合って、「商業的なものではないので手頃な値段で商業権を譲って欲しい」と言ったのはそういうことで、僕はやはり価値があると思っています。

 どうやって日本という場に着地させて、根付かせて、そこから、僕たちが何か始めるための糧にできたらいいなと。僕も考えたいし、皆さんにも是非、考えてもらいたいと思うんです。なので、今日も、支援してくれとか応援してくれというよりも、是非、一緒に何かをやろう、という思いで上映させていただいた。

 リジェネラティブという言葉が違う方向に動いていくということについて言いますけれども、皆さんよくご存知の印鑰智哉さん。「気候危機による被害が急速に拡大する中、土壌だけでなく、海までも生命絶滅の危機から救う大地再生農業の全体像がつかめる貴重な映像。土が生き返り、地域を守る水が生命を包み込む、そのイメージを見事に表現。資本主義的な先進国目線が気に掛かるが、この実践はそれに留まらないあらたな世界を作るだろう。日本でもぜひ!」といつものように非常に鋭いコメントをされています。西側、欧米中心の視点、上から目線だよねと。また、アフリカで素晴らしいと言っても、白人が現地に教えているのと。彼にはパッとそれが目につくわけですよね。それは僕も気付きやすい方なんですけれども。それとか、伝統的に行われてきたことに対して、新しい発見で科学の最先端が見出した新しい解決策だというナラーティブだという人もいる。僕もそうです。でも、よくみるといい点もたくさんあるわけです。

 さて、これと並んでみて見ていただきたい映画に、「キッス・ザ・グラウンド」がある。ネットフリックスですが、こちらはハリウッド的でエンタメ的にできていて、見応えがあるのですが、あえて[この映画を]日本に持ってきたいのは、まさに登場する人たちが「これって先祖がやっていることだ」と言ったりするから。それと、米国中心部の人たちがすごい勢いで不耕起に変わっている。今、米国の農地の半分と言われます。それに対して、大企業は全然動じていない。食品産業、モンサントまでそこに入り込んでいる。そして、不耕起と農薬とか化学肥料とを組み合わせようとしている。あとは、ハイテクですよね。ドローンのハイテクに対する投資も起こっているわけです。

 その一方で、アフリカのナイロビは大変な水不足で大変だったわけですが、それは、5万人弱の人たちが上流でひどい水利用をしていたからですよ。旧来型の農業経営をしていたからですよ。そして、NGOと連携した現地の人たちが貯水の、誰でもできる小さな仕組みを作ることで[水が足りるようになる]というすごいことが起こってくるわけですね。

 それと、カバークロップ、被覆作物と訳していますが、裸にするのと何かが植わっているのとが、全然ちがう。だから、空き地で雑草が生えていたら喜ばなければ。最近は、ビニールをしいたりしてしまうわけですが。すると、水が地下に浸透しないで干上がってしまう。わずか5万人の営みが500万人の大都市を救ったわけです。

 いまだに僕たちは、大企業に何かがあったら、例えば、ウクライナの戦争で、いろんなところで人が飢えていくわけでしょう。すると、食のグローバリエーションをもっと進めなければとか、自由貿易とかをしなければと発想しちゃうわけです。

 でも、僕たちの口に入っている食の7割以上、いや、もっと高いとの計算もあるのですが、それは、小農が作っているわけです。このことを僕たちが基本に据えるとすごい希望があるわけです。大企業の仕組みが変わらないと駄目だと思っていたのが、そうではないと。

 そして、僕たちは、あまりに農業に関心を持ってこなかったの。僕もだんだんわかってきたのだけれど、気候変動の主要な原因は、僕たちのイメージでは、気候変動というと、だいたい煙突から煙がでていたり、自動車の車列がイメージされる。化石燃料を燃やすということです。もちろん、これも大問題ですけれども、いま、ある大気中の二酸化炭素の半分は実は農業由来なんだと。

 歴史的に見れば、近代農業が始まったので、それが実は気候変動を引き起こした元凶だと言ってもいいのですよ。これも大きな発想の転換ですね。そして、その同じ農業が希望でもあるということですよ。例えば、化石燃料を燃やすことに対する解決方法はひとつしかないですね。それをやめることですよ。ゼロにするしかないのですよ。ところが、農業に関しては、やり方とかを変えるだけで既に出てしまったCO2を含めて、もう一回、それを土の中に戻すことができる。もともとは土の中にあったものなのですから、それを[近代]農業が排出させてきたのだから、あるべき場所に戻ってもらうと。では、それをどうやるのか。また、ハイテクでお金がかかると思いがちなのだけれども、解決は実に単純。つまり、僕たちの足元ですよ。まず、植物の光合成。中学ならば習いますね。二酸化炭素という形で大気中にある炭素を吸収して酸素を出してと。やっぱ、植物が鍵を握っているわけです。そして、その植物を生かしているのが土なんです。

 そして、土壌微生物学が、この十年、二十年でものすごく進歩した。本当にすごいことで、それまでは、福岡正信とか川口由一さんといった突出した人たちがやってきたことを、彼らは彼らの言葉で語ってきたので、偏屈な変わり者としてぞんざいに扱ってきたわけだ。ようやく、それが科学でその意味がわかってきたと。

 植物は微生物と共生関係にある。そして、小動物、土壌中の物凄い数のいるものたちが、近代農業の果てに微生物が飢えて瀕死の状態なわけですよ。それがリジェネラティブという言葉で息が吹き返しつつあると。

 さて、これから質問とかも聞きたいけれども、僕はたぶん答えられない。答えられる質問ありますか。

 ちなみに、「リジェネラティブ」も新しい言葉なんですかというと、「リ」は再び、「ジェネ」は生まれるということですね。生まれ変わると。これは生命の本質なのです。リン・マーギュリスが言っていたオートポイテーシス、自ら自らを更新する。僕という個体を考えないでください。その30兆の細胞が変わっているわけです。皆さんもですよ。みなさんも明日もいるでしょう。それが持続可能ということです。変わらないために変わっているのが生命なんです。

 リジェネラティブという生命更新の本質を僕たちはやってきたわけです。反生命なんですよ。僕たちの多くが反生命のことをやってきてしまった。政治、経済、教育。このマインドセットをもう一回大転換して、リジェネラティブ、自己更新としての生命に大きく転換しようよ。そうすると、これ単に農民の範疇ではないのです。

 これまで、農民として活躍してきた人たちとやってきたわけれども、「こんな新しい農法があるよ」ではないんです。あと海の話も出てくる。それが、この映画の素敵なところなんです。そういう人たちがいま世界中に現れているんです。では僕の答えられるご質問は。

質問 「君の根は」、「君の名」にひっかけたんですか。

辻信一 僕らの仲間のアーサー・ビナードのせい。昔の映画、最近のアニメで話題になって。僕は違う案を考えてたし、それは言えないけれども、アーサーが「ダメだよこんなタイトルじゃ」と。で、北海道では皆よろこんでこうなったんです。

質問 辻さん、日本の中での事例はあるんですか。

辻信一 各地にある。アグロエコロジーとか自然農とかとか、みんな同じようなことを言っていても、なぜかお互いに中が悪いので、「大地再生」ということでゆるくつながれればと。これは、呼びかけですよ。今後、日本の中でもそういう人はいっぱいしますよ。若者はどの派とかにこだわらない。いいとこだけ取っている。是非、そういう農民たちだけのムーブメントではなくて、市民たちの新しいムーブメントができればいいなと。近くの空き地でもいいですよと。除草剤を撒くのであれば、文句を言わないといけないですよ。そして、ちょっとでもタネでも蒔いてください。ゲリラ的に。できるところであればコンクリートを剥がして。やれることはいっぱいあると思います。

馬場直子 辻さんどうもありがとうございました。ホームページもありまして、「君の根」の公式ホームページを見て感想を皆さんに発信いただければと思っています。今日は、メディアの方もいるので、是非。そして、劇場では公開せず、草の根で広めていこうと思っているので取り上げていただければと思います。

辻信一 どうしてもやりたいという映画館もあれば是非。チラシの下に一人500円で規模に関係なくできるので、ぜひ、ご検討をいただければと思います。ブルーカーボンは枝廣淳子さんが中心となってグループを築いています。沿岸の海洋農業。これは是非注目してほしい。日本の沿岸が変われたらすごいことが起こりうる。日本でも枝廣さんは熱海でやっている。

会場 デンマークも行政が投資して1000世帯以上が、ハーベストをしている。ムール貝と海藻。コンペンハーゲンがやり始めている。

辻信一 農協とか漁業組合とか法律ができているので必ずわかる人はわかるから。すごい危機感持っています。来年、化学肥料が倍になると。

馬場直子 どうしようというところでチャンスなので、皆さんのネットワークで世界観、農法でなく世界観を共に歩む仲間に広げていただければと思います。

編集後記

2022101701.jpg ドキュメンタリー映画『君の根は。大地再生にいどむ人びと』の有料試写会が10月17日14:00に銀座のTCC試写室で行なわれたのでさっそく行ってきた。本稿は、同シアターでの映画上映後に15:30~16:00になされた辻信一氏のトークをまとめたものである。録音はしていないし、あくまでも、会場での聞き取りメモを再整理させていただいたものとしてご理解いただきたい。

 なお、これがどういう映画化というと、アメリカ、メキシコ、アフリカで「リジェネラティブ(大地再生)」農業・牧畜・漁業に取り組む人々へのインタビュー、環境NPO「ネイチャー・コンサーバンシー」や生態学者アラン・セイボリー博士、土壌研究者ニコール・マスターズの解説で構成。気候危機と工業型農業の相関性を指摘し、炭素固定のメカニズムとリジェネラティブという世界観をわかりやすく紹介しているほか、都市生活者がファーマーズマーケットや農園に足を運び、生産者と直接つながることで大地再生ムーブメントに参画できることを示唆している。

 パメラ・タナー・ボル監督は「気候危機という恐ろしい問題に、もし解決策があるとしたらどうでしょう? 今すぐ身近にあり、誰にでも使える解決策、すでに実証済みで、悪い副作用や不測の事態を招かない解決策が・・・。その解決策は、私たちの足のすぐ下、土の中にあったのです」とコメント。オフィシャルサイトには全文が掲載されている。

 この映画を見つけてきたのは、日本における大地再生農業の先駆け、北海道長沼のメノビレッジのレイモンド・エップさんである。そこで、10月16日のオンライン上映会にはエップさんが登場した。

 辻氏はこの映画の紹介にあたって、「大地の生態系の健康と自分の健康は切り離し難くつながっている。自然を破壊し続けて、自分だけ健康であることなどできるわけがない。ワン・ヘルスなのである」「日本でも荒廃し脆弱になった日本各地の大地を蘇生するための営みである矢野智徳率いる「大地の再生」運動もまた急速に広がっている。今各地で上映運動が進められている映画『杜人(もりびと)』もぜひ見てほしい」とも書く。

 以下が、映画の紹介である。そして、上映会のやり方を含めては、こちらのサイト「君の根は。大地再生にいどむ人々」にアクセスしていただければ紹介されている。

 なお、自己宣伝ながら、この映画に登場する土壌学者、ニコール・マスターズ博士(p33)とメキシコの農家、アレハンドロ・カリージョ(p109)さんは、拙著「土が変わるとお腹も変わる」で文献からその活動を引用している。さらに、生態学者アラン・セイボリー博士については、一章とコラムで解説してある。また、日本語版の製作者、レイモンド・エップ、荒谷明子夫妻については「アグエコ情報屋」でこの夏にインタビューした拙動画も掲載してあるので、ご関心のある方はご覧いただければ幸いである。

posted by 情報屋 at 15:30| Comment(0) | 講演会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください