星野智子 今日のキーワードは、生物多様性、気候危機、脱炭素で、シナジーを生むためにはどうしたらいいのかを考えていきたい。自分の暮らしとの接点がなかなかわからないのだが、オーガニックな暮らしと気候変動や生物多様性がどのようにつながるのか、暮らしのヒントが見つければいいと思っている。
地域循環共生圏と生物多様性について
環境省自然環境局長 奥田直久
地域循環共生圏だが、都市と農山村とは自然の恵みで結ばれている。各地域での地産地消が環境的には理想だが、農山村に人が出かけていくことで支えられる互恵関係もある。森里川海のつながりが重要で、山や水田からの栄養塩類が河川に含まれていたりして川下の暮らしが支えられることもある。それを実感してもらいたいことから、5年、6年、こうした事業をやってきている。そして、森里川海の恵が得られるものを陸でも海でも「30by30」で保全していくと。これは、今年の12月に開かれる生物多様性会議で出されることなのだが、健康や癒し、食において素晴らしい恵を生物多様性が与えてくれている。そこで、2030年をターゲットイヤーにして、日本でどのようにこれを作るのかのロードマップを今年4月に発表している。
生物多様性を守るためには、保護地域や自然環境保全地域や海洋でも保護水面といった仕組みがあるのだが、それだけでなく、社寺林や都市の自然、里地里山もOECM(Other Effective area-based Conservation Measure保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)として認定をしていくことを考えている。街も公園として自然を守ると。そして、これをつなぐネットワークができればいいのではないかと思っている。
新宿御苑のような緑地、企業が守っている緑、例えば、知多半島でもグリーンベルトがある。そして、滋賀県の高島市の棚田や兵庫県の豊岡市のような事例もある。
世界的な目標は2010年の愛知でのCOP 10、2023年の末に開かれる生物多様性条約COP 15で、決まるので来年の3月に向けての国家戦略に向けた改正を考えている。今、「自然再起」という言葉を作ってこの実現を考えている。例えば、基本戦略の4は、一人一人が生活・消費活動でこの実現を行なっていくというものである。
星野智子 次に農水省から今年できたみどりの法律について話をいただきたい。
みどりの食料システム戦略
農水省地球環境対策室課長補佐 古林五月
そして、みどりの食料システム法も定めている。ここで、国がやるべきこととしては、①関係者の理解の促進、②調達、生産、流通、消費の促進、③有機農業についてもこれまでも言われてきているが新規就農で技術がないので有機農業ができないので、環境負荷低減の技術を普及・開発していく。そして、④環境負荷低減の見える化。これをするためにまず脱炭素の見える化を推進している。それは、まず、生産者がわかるようにする。次に消費者にも伝えることとしている。そして、消費と生産をつなげることで「あふの環勉強会」をやっている。農地の隣でイベントをやったり、小売店で環境に良いものをPRしたりしている。
国は基本方針を定め、それを都道府県、市町村、生産者につなげていくのだが、この中で、地域の特性と実情に応じた取り組みを推進していくと。生物多様性の保全の取り組みでは、化学肥料や農薬の負荷を低減することとあわせて、生物が住める場、魚道の整備や冬期湛水をしていく。
住民参加での生物多様性の戦略づくりがベースに
房総野生生物研究所 いすみ市自然と共生する里づくり連絡協議会 手塚幸夫
学校給食の有機化と教育ファーム
8校のうち3校、小学校の半分では取り組んでいる。農業体験、有機給食、そして、田んぼの生き物調査を一体的にやっている。
この授業を通じて伝えたいこと、大事にしたいことは、あらゆる生き物にとっての生物多様性である。人間にとってだけでなく、生物にとってもということで「ただの虫」という視点を大事にする。そして、総合的生物多様性管理(Integrated Biodiversiry Management= I BM)が有機農業の基礎になっている。そして、時間軸で見ることの重要性である。
生物多様性ちば県戦略のベースにある市民参加
次に生物多様性の地域戦略なのだが、2010年のCOP 10、2008年あたりからこの話をしたい。2008年春には埼玉県と千葉県とで二つの計画がまずできた。埼玉県の2008年2月の計画はまさに国や国連のものに沿ったものなのだが、3月にできた千葉のものは、これとは違う。例えば、温暖化が生物多様性にとって危機だということではなく、生物多様性が大事にできないから温暖化ができていると逆の視点も入っている。そして、農林漁業を見直そうとか、暮らしや生業の視点から生物多様性を見ようとしている。
こうした戦略ができたのは、当時の堂本暁子(1932年~)知事が県民会議を大事にしてNPOや男女共同参画を重視したからである。そこで、健全な農林漁業振興、教育と食と農林業を結ぶといった視点が計画に反映された。
そして、この千葉県からの問題提起を現場で解決するためにできたのが、いすみ市の生物多様性戦略である。千葉県が提起した課題に基づいて戦略を作っている。そこで、取り組みの事業として荒廃地の再生や先人の知恵に学び継承する、生命を感じる自立循環のライフスタイルといった計画が出てきた。こうした戦略が有機給食を支えていると。
シナジーを生むための有機農業と生物多様性の親和性
SDGsや地域循環共生圏はわかりやすいが、将来図や曼荼羅を描いただけでは何も生まれない。シナジーを生むには、生活と生産に関わった時に何をするのかという具体的なステークホルダーの配置がなされないと動かない。いすみ市の学校給食は地域戦略の上に協議会があって部会があって、どうやってするのかの中で学校給食が出てきている。で、これからどうしたい、どうあって欲しいかなのだが、地域商社やいすみとしての有機の社会化を考えている。
持続的な農業・気候変動でシナジーを生むために
日本自然保護協会 生物多様性保全部 藤田卓
野菜にしても果物にしても花粉が受粉されることで食べられている。ミツバチではなく、小さな花バチも重要で、例えば、蕎麦は結実率が低いが、周辺に森があるからこそ、蕎麦を食べられている。そして、この生物多様性が危機的状況になってきている。
第一に、集約的な農業によって農村から人がいなくなることが問題である。そこで、モニタリングサイトということで、環境省と共同して、235カ所でモニタリングをしている。2,500人のボランテイアで調査をしており、データー数が226万あるのだが、ごく普通の生き物、ウサギ、カエル等が急速に減っていることがわかってきた。こうしたデータを現場に活かすためにいろんな保全活動をしている。
まず、農家と一緒に観察会をしたり、伝統的な自然の利用方法を学んだりしている。農地の畦草でも刈りでも絶滅危惧種の配慮をしてもらったりしている。ただボランティアに頼っているところで限界もある。
今後の視点はただ守るのではなく、持続可能な資源の利用が重要である。この事例としてLUSHと連携したのが、接滅危惧種2類のサシバの化粧品を作ったり、三浦半島の耕作放棄水田を復活していることである。また、HSBCは金融企業だが、みなかみ町でいまある人工林を3割を1割に減らして、残りの2割2,000haを自然林に復元することに取り組んでいる。そのCO2の削減効果の評価方法を策定している。そして、200つがいしかないとされているイヌワシが人工林が伐採することで狩場を作ることを考えている。
今、持続可能な社会ということで農地が熱い。環境省の自然保護地域だが、現在20%なので、目標の30%のためにはあと10%が必要である。それを農地を活かすと。ただ指定してもメリットがない。そこで、TNFDや社会的インパクト投資が期待されている。他にふるさと納税、Jクレジット等があるが、まだ、環境省の制度と農水省のみどり法の連携ができていないことが課題ではないか。
星野智子 では、意見をお願いします。
生物多様性に役立つ農業が儲かることが大切
奥田直久 OECMに登録してもメリットがないのがポイントであろう。生き物に優しい農業が儲かる仕組みが大事であろうと。その事例として豊岡市が認証することで慣行よりも高く売れるコウノトリ米がある。そして、佐渡の朱鷺でも同様の取り組みがある。必ずしも無農薬ではないのだが、「朱鷺と暮らす郷」を認証することで、付加価値がつくのではないか。今後は、固定資産税あたりも検討していきたい。
古林五月 生物多様性保全への農業の可能性を提起していただいたが、まずは共通認識が大事なのかなと。みどりの食料システム戦略でもサプライチェーン全体で進めていくとしている。そして、関係者をつないでいくために「あふの環」もそうした観点で加入してもらっている。つながりを作ることを進めている。最後にいかに付加価値をあげていくのかだが、バイオ炭でクレジット化することも進んでいる。
星野智子 藤田さんの提言で農業でもいろいろとできるなと思った。次に手塚さんから暮らしの中での情報提供をいただきたい。
慣行農業を有機に転換する公共調達と既存事業の再整理
手塚幸夫 時間が限られているので二点ほど。農地保全の話も出てきたのだが、現実はなかなか厳しく、休耕地が増えてきて農業が後退している。いすみ市の場合は有機農業を一つの起爆剤にできないかとして始まっている。その前には生物多様性がらみのものがあって、豊岡市をモデルにしている。公共調達までいくとさらに議論ができるのだが、慣行農業の有機転換をどう促すか。そのための仕掛けがシナジーになっていくと。
二点目は非常に重要なのだが、いすみ市の太田市長は「生物多様性戦略を憲法のようなものだ」と言ってくれているのだが、生物多様性を保全するためにいすみ市は物凄い取り組みを集めている。新しい戦略を書き込むのではなく、生物多様性と何かの接点を持っている事業をくっつけたところ、既存の事業の7割がマッチングしたと。つまり、新しい事業をやるのではなく、やってみて私も発見だったのだが、それを再評価することが強みかなと思っている。どこの市町村でもやっていることなのでそれをチェックしてもらえればいいと思う。
星野智子 既に新しいことではなく既存のものでもできるというのはいいなと思う。では、今の発言を受けてもう一ラウンド、コメントをいただければと思う。
奥田直久 現場の自治体での地に足がついた取り組みは大切で、国家戦略以上に何かアクションを起こす重要性が大事だと思った。また、現行の国家戦略でもそれは重要であって全ての省庁の政策がリスト化されていると。自分たちの政策を見直す意味で重要だと思った。それと地域戦略なのだが一つは自治体が連携していくことが大事だと思っている。トキと共生する里地づくりとして、関東圏域なのだが、自治体が一緒になって地域づくりをすることが大事であると。
星野智子 バイオリージョンは自治体を超えるので大事かなと思う。
古林五月 慣行農家の転換のために地域モデルを増やしていきたいと。そのためにも技術が大切なので協議会のようなことで技術の普及をし、地域として全体として進めていくことが大事かと思う。また、地域戦略も重要で生物多様性で言う政策の優先順位があるだろうと。
藤田卓 手塚さんが言われたタネと仕掛けが大事だなと。先ほどのアイデアではトキのようなシンボルを打ち出すことが仕掛けなのかなと思う。そして、公共調達、学校給食も仕掛けだと思うのだが、さらに「社食」のようなことで取り上げてもらって地域に貢献することも大事かなと。韓国では一村一社運動をやっている。こうした地域循環共生圏のようなもの。そして、仕掛けとしてOECD、固定資産税のようなメリットが大事である。生き物調査をすると人が集まる。これが皆で共有される仕掛けをうまく組み合わせることが大事である。
星野智子 私のかかわっている八津川でも生き物調査をしている。
具体的な里山管理のための智慧を子どもが学ぶことが大切
手塚幸夫 もう一つ言いたかったのがSDGsだが、それを暮らしにつながるうえで、歴史を子どもたちが共有することの大切さである。いま、大人も切り離されているので、改めて共用することが大事である。エドケーションもセットで見直してみたい。そして、授業やって痛感しているのが知識と同時に知恵が大事であると。里山の管理のやり方を知恵をとして学んでいる。知恵がないとダメであると。
星野智子 まず知ることですね。伝統智ですね。
藤田卓 私は企業と付き合うことが多いのだがプラスチックの対策とかもあるのだが、どう進めるかで悩まれている。ステークホルダーとしてこうしたところがうまく入ってもらうことが大事。わかりやすく持続的な社会として相談できればと思っている。
星野智子 明日のオーガニック会議はまさに公共調達。
奥田直久 地域循環共生圏はローカルSDGsであると。つまり、地元に取れたものを食べることだと。ローカルMY行動宣言のようなことができればと思っている。
古林五月 シナジーを生み出すうえで、農業はこの観点では強い。食べない人はいない。日々の買い物や食事の中で環境を考えることができる。有機野菜を手に取ったときに、農業と環境の知識、知恵を広めていきたい。そのためにいろんな人と手を取り上げなければと思っている。
2050年にはいまの子どもが社会の中心になっているので教育が重要
星野智子 今日は私も多くを学べた。で、最後のポイントとして他の人へのメッセージも含めて一言ずつ。
藤田卓 NGOでしかできないことがあるのだが、タネと仕掛けをやっていきたい。手塚さんがやっている進んだことを少しでも広げたい。
星野智子 それは、日本オーガニック会議で提言をしている。
手塚幸夫 みどりの食料システム戦略で2050年が目標なのだが、いずれにせよ今の子どもたちが社会の中核にいるのでそこは強く意識して教育の中で何をしていくのかで踏み出してもらいたい。今、私が力を入れているのが教育ファーム、そして、慣行農家を説得して歩くこと。
古林五月 今、手塚さんが言われたことの通りだと思う。食育を進めているが、食農環境教育だと思っている。民間に期待したいことだが入省1年目から私は現場が命だと思っているのでNGO、自治体、生産者の方々と意見交換をしながら進めていきたい。
奥田直久 勉強になった。最初に戻るかもしれないが、つながること。それが支えあう。それができればやりたいことが進んでいくのではないか。いい事例を知る。グッド・プラクティスを共有することではないか。グッドライフアワードも今年から生物多様性に特化した事例もあげるので。
星野智子 生き物は支えあって生きているので生き物や自然に学ぶことが大事だと気付かされた。
編集後記
【画像】
講師の画像はこのサイトより






