司会 岩崎信子 最初の挨拶で、金子美登さんから、熊谷も暑く40度を超すという話を聞いた。そして、小川町が変われば埼玉県が変わると。ということで、今日はわざわざ矢野さんに来ていただいているので、小川町への期待のメッセージを頂きたい。
小川町は大学時代にもフィールドワークで経験をしてきた
矢野智徳 私は世の中に知られるよりも現場が抱える多種多様の問題点をどう具体的に改善できるかに取り組んできた。それが日々の課題だった。だから、皆さんに知ってもらうことは、後追いだったのだが、山梨県の上野原に引っ越してから、ポツポツと「大地の再生」の講座を開かせてもらうことになった。その初めの頃から「つぶつぶマザー」の方が身延におられて、つぶつぶマザーのグループと知り合いになって、そして、岩崎さんともつながるようになった。岩崎が取り組みを始められたのは8年も前のことだ。
こうして開かせてもらったことが、長年、東京に30年近く生活をさせてもらっていたのだが、自然の豊かな場所、都市と田舎をつなぐ大事な場所として、海から山までの大地の血管の斜面転換線の水脈の大事なところが、自然も人も豊かになると。そういう動きにつながっていけることが、日本の各地域にとってもモデル的に提示できると思っている。岩崎さんたちの活動が広がってくれればいいと思っている。
ここを良くするとあの山がよくなるという矢野さんの言葉
岩崎信子 私は、いつも会いたいと思うと、その人の仕草をみて、その人を観察して、自分でもってかえりたくなる。そして、矢野さんの講座は最初に参加したときには、ただ草刈り機で高く刈っていくのに驚いた。それが、職人までなっていく。食もそうで、大地の再生と通じるところがある。[腸の]通りを良くして栄養を良くしていく。矢野さんが「ここを良くするとあの山がよくなるんだよ」と言われたと。そんなことがありました。そして、大人から子どもまでわかるように2022年に矢野さんの活動を映画にしてくれたことで、嬉しく思っている。ということで、今日は参加できないのだが、前田監督のメッセージを聞かせてもらいたい。
皆でこの世をよくしているという肯定的な世界観
代読 ラブファーマーズ2021にお集まりの皆様。今日は「杜人」を上映いただきありがとうございます。「杜人」は矢野さんや他の人に頼まれたわけでなく、私が作りたいと言うので、2018年5月から矢野さんを追いかけて3年の映像をまとめたもの。その出会いは国立市での桜の伐採問題。忘れられないのは「虫たちは葉を食べて空気の通りをよくしているのですよ」という矢野サンの言葉。この世界が圧倒的な肯定と信頼に満たされたと。その自然観を一人でも多くの人と共有したい。それで映画作りが始まった。熱い呉の被災地も、寒い仙台も一人で感動していた。それが、映画を作る責任を重くしていた。たくさんの人の「結」がなければ世に出ることがなかった。4月15日に吉祥寺から上映会が始まったが、これがしっかりと地下に根を張って根底から変えていく力になっていくのかどうかだ。そして、絶望しそうになったときには肥田舜太郎(1917〜2017年)さんからいい言葉を教えてもらった。原発が容認される中でより重いと言葉だと思っている。
肥田先生からの一言〜あしもとを大切にせよとの言葉
先生から「是非これを追ってくれ」と言われたのが40年前。ただ、「現場を1日、仕事としてこなすだけでも大変なんです。費用の範囲でさらに研究することは至難の業です」と正直にお話したら、「たった1枚の写真でもいいから撮りためよう」と。1枚の写真だったら撮れるということから、見える水の裏に実は空気があることを先生と確認したのが出発点。そして、大地の中の気象環境という小さな現場から始まったのだが、やればやるほど仕事も大変になって、追えば追うほど大きな問題になっていく。小さな現場の水脈の環境改善が周辺の地域、さらに、流域、水源域、高山帯の分水嶺のエリア。こんな連鎖が起きていると。そして、負の環境問題が起きていると。それに突き当たるとこんな大きな問題をどうやったら伝えられるのかと。
当時、都立大の地理にいたときで、その後、東大に行かれた先生に相談したところ、「一造園屋の範疇として秘伝として収めたほうがいいのではないか」と。けれども、これを恩師の中村先生に話したら、「小さなこととしておいておくわけにいかない。大事なことだから続けよう」と。
そして、現場から「見える化」していくと、多くの人がこの問題を見てくれるようになり、事業として研究としてやればやるほど、一体どうやれば、多くの人と連携して、空気が通らないと水が通らないことを社会の常識としてしていけるのかと。これをどうするか。
この半世紀の研究で肥田先生がよりどころになったのが、3.11。「なぜ、多くの人と連携してやってこれたのか」との質問をお付きの人に聞いたら、「サイン会が1時間半あるので終わったらお聞きしましょう」と。そして、サイン会の後でたったひとつお聞きした。
「なぜ。たった一人で右も左もわからない原発の問題をどう広めてこれたのか」と言うと、「難しいことではない。先をみると方角がみえなくなる。だから、わからなくなるほど足元に集中して忍耐をして協力してくれる人に伝えてきた」と。その一言がすごいことだなと。
途方もなく大きく思え、手が届かなくなるような問題であっても、動物のようにすればいい。動物は先のことを考えない。目の前のことに必死で生きている。肥田先生の言葉と、私が日常で見てきた生き物の姿。「ああ、動物のように生きればいい」と思った。わずか15分くらいだったが、その時間だけでも、生の現実に向き合ってきた大先輩の先生の言葉は、なによりもの宝物の言葉だなと。で、「まだなにかありますか」と肥田先生が言われたので、「もう十分、貴重な答えをいただきました」と、そして、「なにかやることがあればお手伝いしたい」とお答えして、お別れした。残念ながら、お手伝いができないまま100歳でおなくなりなられた。ただ、人と自然がかかわっていける貴重なことだと思いました。
岩崎信子 まさに足元を見ることだと思いました。赤堀さんは畑でも大地の再生をしているが、家もしているので。
赤堀香弥 床をはるときに竹沢地区なので浸水した。寄居の中央園芸が来てくれて床に穴と開けようと。基礎工事も穴を開けた。水脈としてU字溝に穴をあけた。川がコンクリートが打たれていて水が流れが止まっているのでワークショップをやったら台風19号もあったが水がたまらない。4歳の子が風邪の草刈りをやるし、小学生の子は意味がわかっている。
岩崎信子 今日は、矢野さんは、和歌山から来てくれています。コンクリートでだんだん緑がなくなっていくので、それをスライドで伝えたいことがあるというので。
大地の泥化が松枯れの原因
マツクイムシの被害ひとつとっても大地がドブ化していることで起きている。いまは、松枯れが終わったのち、常緑のカシや落葉のブナが枯れている。海の白化現象。動植物の負の連鎖が起きていることが見えてきている。今日は、関西空港まで和歌山の現場からレンタカーで走り、上から日本列島の流域を見ていると、関東平野、小川町を中心とした上流と下流。ドロ汚染が全国で広がっているので、これが良くなると立ちどころに呼吸が良くなり、生物多様性、大地のラジエーター機能も復活して温度が10度も下がるのが、それを変えれば途端に変化する。「ミクロもマクロも相似形」ということを地理学で先生から教わったことから、日本列島全体に大地、つまり、地上と地下のことが反映している。あたりまえのことだが、ミクロを改善すると、沖縄から北海道まで、大地の現場を改善すると流域も再生して本来の豊かな生態系が戻ってくると。もう一度それを大切に捉えることが大事である。流域災害、地震も災害も生物の劣化も全部共通なのです。
加古里子が直感で描いた豊かな生態系の図
豊橋の屋上庭園も脈を通したら、ひと夏で耳が痛くなるようにセミがいる。そこにいるお孫さんが耳がいたいと。というよりも、トンボやアゲハ、セミが住む場所になってくる。地上と地下の循環。
流域の循環、生物の多様性、海の幸、山の幸を生み出していたんだなと。すごい時代がかってあったと。それが残念ながら損なわれている。それに気づけば小さなことからやれる。
私も途方に暮れた。日本列島1年かけて生身で歩きながら気候風土を体感したのだが、数十年で傷みに傷んだのだが、本当に落胆したのだが諦めるわけにいかない。
岩崎信子 今回は、映画だけで終わらしたくなった。座学もあって、その後にワークショプを入れようという企画でした。教わったことは実践してみると。効果が出ることがあるんだと。よしなんかやってみようと思ったらやってみる。例えば、移植ゴテで微振動が伝わると。最初、8年前にはわからなかったが、前回のワークショップでは風がまわってよってくることが見えると。来月は3回見学会があるので。興味のある人には日程をお知らせしたい。前田監督のおかげで皆に知ってもらえた。
最後にひとつ、「百聞は一見にしかず」という諺があるが、その後がある。「百見は一行にしかず」。つまり、聞くことから始まり、見ること。そして、やってみること。これを日常化する。ひとすらやって日常化する。そして、やっと考えに及ぶ。こういうすごい諺があった。ある学生から教えてもらった。こんな貴重な諺があることを多くの人が知らない。この四行が学びの本質として年相応に、分相応に培われていけば学びの本質があると。毎日、学んでいられる。あきらめないでいられる。すごいなと。
明日、実際に感覚を通じて生のフィールドワークをさせてもらうが、体を通して感じ、五感を通じると学びのことが実感できると。
日本は世界の縮図
赤堀香弥 豊かな日本に生まれた意味。日本の立ち位置は。
矢野智徳 日本列島はまことに小さいが、地球規模の風土が凝縮されている。大気もジェット気流を含めて、シルクロードの果にあるジパングが桃源郷ということは、地理の世界から現場を通じて見てきたのだが、大気は地球規模でここを経由して、海流も、大地もマントル対流、プレートも「地流」として、地球のあらゆるキャラクターを備えている。全体の本質を兼ね備えているのは、体でいうと臍だと。
だから、日本列島が、地政学でも、世界の交易の中でも世界の歴史の中で登場する理由が環境から見ていくと納得できると。日本列島各地の環境改善を大学のときも回らせてもらったのが、「すごい風土だ」と思った[当時の]実感はそういうことだったと。以上です。ありがとうございました。
編集後記
本稿は、2022年8月25日(木)に埼玉県比企郡小川町「小川げんきプラザ」で開催された「ラブファーマーズカンファレンス」での映画「杜人」の上映に続く、16:30~17:15の矢野智徳氏のスペシャル・トークショーの内容をまとめたものである。有料でのセミナーであることから、録音、録画はできない。あくまでも、会場での聞き取りメモを再整理させていただいたものとしてご理解いただきたい。
いきなり、地質の話から始めたのも、今回の会場となった「小川げんきぷらざ」は、標高264mの金勝山の山麓に広がるのだが、この地域は三波川変成帯で変成岩しかないはずなのに、なぜか金勝山は「角閃石石英閃緑岩」だからである。
断層によって、北から移動してきたペルム紀の岩石で根無し地塊(クリッペ)だと推定されている。低角度の衝上断層によって移動してきた岩体(ナップ)が、侵食作用によって本体から切り離されて孤立した地塊のことを言う。したがって、新しい岩石からなる山体の上に山頂部にだけ古い岩体が乗ることになる。金勝山とはこれほど特異な山なのである。






