【基調講演】「環境にやさしい農業における緑肥の活用」
農研機構中日本農業研究センター温暖地野菜研究グループ唐沢俊彦氏
中日本農業研究センターで勤務している。輪作の順番が作物や土壌微生物にどのように影響するのかを研究してきた。2007年に有機農業推進法ができてからは筑波で研究している。2008年に化学肥料価格が高騰したことから、緑肥を用いた減肥の研究をしてきた。
さて、実際に緑肥効果を発揮させるには、土壌微生物の働きが必要あるなど、土壌微生物も関係してくることがわかってきた。
緑肥によるチッソの供給
緑肥によるリン酸供給
微生物の体内にあるバイオマスリン、土壌固定されないのだが、植物遺体。菌根菌も増やすことが示されている。
緑肥は窒素固定を除けば、元々あるところに漉き込んでいるだけなのだが、系外に溶脱する養分を回収して、また、難利用性の養分を可溶化していることがある。
土づくりの効果
ソルガムを用いると5kg/10aで2m高になるくらいまで生育させると地上部の乾燥重量が1.3t/10aになる。うち、土壌中で77%が分解して、炭素にで150kg/10aが残る。これと同じものは牛糞であると1.4tが必要であることがわかった。輸送コストがかかるわけだが、ソルガムは少量でよい。他の緑肥で土壌中で分解しやすいヘアリーベッチは0.2~0.3tである。ソルガムの方が有機物の蓄積を狙うのであればよいことがわかる。
緑肥で団粒構造を作る
緑肥は土壌病害や有害センチュウの防止に役立つ。カラシナもすきこむと土壌病原菌を減らせる。ただし、鋤き込むタイミングで、C/N比が増えていくと分解しにくい。6週までは肥料効果、それ以降は土づくり効果である。ヘアリーベッチは後半でもC/N比が変わらないため、大きくなるほど肥効が大きくなっている。
化学肥料の削減に向けて
【事例紹介】「緑肥を活用した有機栽培」
Farmめぐる株式会社 代表取締役 吉田典生氏
さて、緑肥についての考え方は、●有機物供給、●生物多様性、★根耕、★センチュウ対策である。なお、「●」を付けたのは堆肥でも効果があるもの。「★」は緑肥しかないものである。つまり、緑肥の根が土を耕すことに注目、期待し、排水性の改善も大きいことから、着目している。また、堆肥にない緑肥の効用として、センチュウ部分を一番重視している。もっとも使う緑肥のよってまったく逆効果もあることがわかってきている。つまり、センチュウを激増させてしまうこともある。
エンバクは越冬できないので有機物の補給でちょっと劣る。ライムギは越冬する。根の方が有機物量が多いくらいしっかり張る。また、窒素過多になることからマメ科は使っていない。
で、堆肥のメリットは堆肥散布にくらべて省力的。マニュアスプレッダーもいらない。持っている機械を活用することですぐに使える。品種使い分けによって機能性。デメリットは圃場回転率が低下すること。つまり、面積的余裕が必要。なお、緑肥もひとつの作物なので、冬が閉ざされる長野では回転率が著しく下がる。
有機物を他から持ち込まず、ひとつの畑の中で循環しているのが理想的である。堆肥を入れると外部からの持ち込みでPやKの過剰施用も起こると思っている。ひとつの畑の中で循環しているのが理想である。Farmめぐるの「めぐる」は「環境」の「環」を「くんよみ」したものなので、わが社の理念を体現したものと思っている。
意見交換、質疑応答
緑肥栽培マニュアルに何度もアクセスして実践に活用
伊藤専門技術員 チャットでの質問だが、先ほどの吉田さんが示された図で、太陽熱消毒の後で、CaとMgが増えているが、これは何か入れたのだろうかとの質問が来ている。
吉田典生 苦土石灰は入れていない。入れているのは鶏糞だけだが、Ca / Mgのバランスが崩れていないことを確認している。緑肥の関係で増えたのではないか。
(株)土あげ商店 納豆菌や酵母菌等も入れられたのだろうか。
吉田典生 生物性の活性化という意味でも入れることは有効かと思っている。なお、私からだが、せっかくなので、唐沢先生に我々の取り組みへのコメントをいただきたい。
唐沢俊彦 基本的に私たちがやってきた緑肥の持つ効果をうまく使われていると思っている。なお、養分のところについていま「鶏糞は入れる」と言われたが、養分は鶏糞でまかなっているのだろうか。
吉田典生 養分というよりも分解促進を狙っている。
唐沢俊彦 先ほどのCaの話だが鶏糞は採卵鶏糞であろうか。鶏糞は卵だと割合Caが入っているので。以上です。
吉田典生 先生がおつくりになされた「緑肥栽培マニュアル」は我々は何度アクセスしたかわからないほど活用させていただいている。
唐沢俊彦 ありがとうございます。
堆肥は悪臭を伴い散布に労力を伴うため緑肥を活用
伊藤専門技術員 では私から。吉田さんは緑肥を上手に使われているのだが、当初は堆肥を入れてうまくいかなかったとかそのあたりの変遷をお教えいただきたい。
吉田典生 ネガティブに取られるかもしれないが、堆肥の入手は軽トラで簡単だったのだが、そこからスコップで広い畑に撒くことを研修中にしていたが、その作業がすごくいやであった。これはきついと感じたのが一番のきっかけである。他に何かないのかということで緑肥がないのかと。独立後には堆肥撒きを一回もやったことがない。臭いもいやだったし、撒くのも大変だったので。
伊藤専門技術員 非常に率直で参考となった。
窒素飢餓を防ぐためには窒素の添加が必要
上田農業農村支援センター山崎 主作物の作付けまでの期間が違うことのご説明が興味深かった。そこで、窒素飢餓についての留意点があれば是非お教えいただきたい。
唐沢俊彦 窒素飢餓は、たぶん、マメ科の緑肥を作った後に起こることである。マメ科はC/N比があがらないが、イネ科はC/N比があがるため、大きくしてから鋤き込むと窒素飢餓が起こるので、そうなったときには窒素を外から足してやると。そうならないようにすることが重要かと。
雑草は緑肥と同じことが期待できない
会場質問 自然にはえる雑草を緑肥と比較した研究があればお聞かせいただきたい。
唐沢俊彦 雑草も有機物を補給するという効果は緑肥と同じ効果がありうると思うが、センチュウを抑制する効果等の機能を狙う場合には素性がわからないものがいろいろと植わっているとどうかと。センチュウを抑える場合の傍にセンチュウを増やすものがあると駄目なので雑草ではそれが期待できないと。また、タネから出てくる時期もバラバラなのでむしろ雑草が増えてしまう。つまり、コントロールが難しいと。
透水性の改善は3~4年目から
伊藤専門技術員 緑肥の場合、土壌の物理性の改善では透水性を高めるとされているのだが、その効果は1作目であらわれるのだろうか。そうでなければ何作目であらわれるのであろうか。
マメ科とイネ科の緑肥の混播は効果的
会場質問 来年から緑肥を使う場合には何がおすすめですか。
唐沢俊彦 いつでも大丈夫という品種はない。長野県だとこの暑い時期にエンバクだとうまくいかないし、もう少し寒くなるとソルガムは使えない。いつでも撒けるというのは難しいと。
会場質問 マメ科とイネ科を混作することはどうだろうか。
唐沢俊彦 だいたい中間の性質になる。エンバクとヘアリーベッチは種苗メーカーでも混ぜて売っている。ソルガムとクロラタリアの組み合わせはあまりないのだが昨年から試験をしている。中間的な肥料効果と有機物効果が得られている。片方が適してなくてもある程度、畑をおおってくれるのでありがたいと。
編集後記
本稿は、2022年6月29日(木)の19:00〜21:30まで、長野県佐久市にある佐久合同庁舎講堂及びオンライン似て行われた長野県農政部の「令和4年度「第1回長野県有機農業推進プラットフォーム勉強会」の講演内容を聴講しながらメモ書きしたものである。
7月1日、農林水産省は肥料価格高騰に対応するため、6月の購入分から化学肥料の使用量を2割減らした農家を対象に、価格上昇分の7割を補填する支援金制度を創設する方針をしました。すでに、原油価格の上昇やウクライナ問題の影響で、肥料価格は昨年費の1.7場にまで増えている。農水省はこの支援金により生産コストの1割削減を目指すという。
こうした中、緑肥を用いて化学肥料の削減そのものを対象とした学習会が開催されたことはまことに時宜を得ていると思ったりもした。
もっとも農林省の研究者といっても、日本はオーソドックスそのものである。すでにカリフォルニア大学サンタ・クルーズ校の村本譲司准教授が講演されているように海外は「ワンヘルス」をキーワードに土壌微生物と植物と根の間のダイナミックな「つんがり」の解明へと乗り出している。とはいえ、日本は「論理」ではなく「情緒的」な思考パターンを取りがちなうえ、基本的なメディアリテラリーの教育がなされず、なおかつ、昨今のメディア・ディバイスの急発展によって、化学肥料や農薬が問題があるとすると、それに反対するものは、猫も杓子も十把一絡げに「素晴らしいこと」とされてしまう。どうみても怪しげな「○○菌」や「☓☓農法」が跋扈し、第三者からみれば詐欺にかかっているかもしれないとの判断が働くであろう状況におかれても、冷静にはなれない。損失回避心理の働きで、ますますペテンへとのめり込んで行く。したがって、情報屋としては以下のようなステップがまずは必要なのではないかと思っている。
① いきなり有機農業に転換するよりも、慣行農業であっても緑肥を取り入れ、例えば、少しでも地表が裸地のままにおかれない状態を作ることによって土壌侵食を減らす。地表が緑に覆われていれば、たとえ、雑草であっても根から滲出液が放出されることでその分、確実に大気中から二酸化炭素が取り除かれる。
② 国の研究者が策定したマニュアルどおりに、まずは緑肥等を取り入れることによって、確実に化学肥料への依存を減らすこと。同時に県の試験研究機関や普及指導機関がサポートすることで地域の実情にあった微調整をすること。
③ カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校を始め、アジアでもすでに着実に研究が進んでいる微生物と植物と土壌の深いつながりを明らかにしながら、健全な「ワン・ヘルス」、すなわち、土壌、動植物、人間、食べ物、環境の循環を取り戻していくこと。
なお、情報屋個人はこうした卓見は、あえて「異人」に教えてもらわなくても、すでに戦前から日本の篤農家が蓄積してきたし、その過去の卓見を省みることで、あえて、アグロエコロジーとかオーガニックとかの言葉を使うまでもなく、同じような取り組みが過去にこの国にもあったことがわかるのだと信じています。あえていうならば、それは「シン・オーガニック」といえるであろう。






