田中滋
RIPESSとは草の根の大陸横断的な唯一のネットワーク
パルクの事務局長、そして、リペス[RIPESS=Réseau Intercontinental de Promotion de l‘Economie Sociale Solidaire]の副代表もしている。さて、今日の話だが、私自身の哲学では物事は、誰かが決めて上から押し付けるのではなく、各地域毎のある人々の人生経験から作られるものである。つまり、誰かの権威が押し付けるものではなく、「漢方」のようなものなのであるので、今日の私の話もあなたにあえばそれを受け入れていただければいいと思っている。そして、自分の言葉で語れることを持ち帰っていただければと思っている。
1997年にネットワークとして設立され、4年に一度、会合を開いている。連帯経済ではそれ以外にも多くの事例があるが、草の根の運動で、なおかつ、中南米・北米・アフリカ・ヨーロッパ・アジア・オセアニアの六大陸のすべてに活動基盤を持つのは、唯一である。そこで、草の根の連帯経済運動ネットワークで全大陸にあるのは我々だけだ、として差別化をしている。
既存の経済システムの変革を政策提言とオルタナティブの実践を両輪として目指す
では、この社会的連帯経済の国際運動の潮流はどこから生じたのか。一つは米国の覇権の新自由主義に反対する「オルタモンド主義」が開かれ、世界社会フォーラム等の国際的市民ネットワークと共有するルーツを持つ社会運動である。そして、政策提言とオルタナティブの実践を両輪によって、既存の経済システムの変革を目指している。つまり、各地域で草の根での事業として成功するだけでなく、それをシステム化させる政策提言もしている。インドやタイのようなインフォーマル経済の国で自立的な女性グループができたとする。けれども、それで良かった、と言っても、そこだけしか救われない。つまり、自分たちの身内のなかだけで納得ができるのではなく、それをどう普遍化するかもセットで行っている。そして、この世界に対して、疑問を持つ人のために、どのような構造化が必要であるかを考え続けると。要するに、社会的連帯経済とは[古沢先生とは違って]セクターではなく運動体であると定義している。
言葉は文化によって異なるためビジョンを重視
しかし、リペスにとってその内容は流動的である。いままでのあり方を問いかけたいがために座り心地が悪い。ただ、協同組合とか社会的ミッションがあればグループに入れるというものであるはずではない。そこには何か共通するものがある。けれども、それを世界共通の言葉として打ち出せる状況にはない。各国や各地域によって文化や状況が違うからである。一見なんでもありのようなのだが、その共通項が何なのか。明確にまだ表現できていない。
そこで、言葉にとらわれ過ぎないこと。つまり、ビジョンが重要だとしている。具体的に言おう。例えば、フランスで「社会的経済」と言った場合には、それは協同組合となる。それは、日本での子ども食堂は全然違う。ビジョンを読み解かないと難しい。
資本主義および独裁的な国家主導経済システムに対するオルタナティブである。なにかに生きづらさ、座りの悪さを感じると。公共セクターが社会主義、第三のセクターをもり立てていくのではなく、それをローカルから初めて社会全ターに広げたい。セクターを肥えたシステム変革を目指している。政府の失敗、市場の失敗を補完するものではない。ただ、誤用するのは反対したい。他者が「社会的連帯経済」という言葉を異なる用法で用いるのには寛容になれない
例えば、ESS Forum Internationalはフランスの主に大規模生協が中心になって呼びかけられた組織で、変革性に乏しく、草の根の多様な運動とのつながりが希薄である。フランス語圏が中心のネットワークであり、文化・ジェンダー・人種等の多様性が十分に見られないからである。
社会的連帯経済の実践例Feira Livreは決められた価格という概念を壊す
推奨しているのは35%以上だが、学生では10%でいいかというケースもある。つまり、一人ひとりに納得して払ってもらっていると。
つまり、生産者が生きていくための額は絶対に支払う。その上で自分たちへの信頼に対していくら出すかということを毎回ガチンコ勝負をしている。つまり、フェラ・リブレとはまさに自由で、いくら払うかは客次第なのである。
買い手の人間性を土俵に乗せるが、そのリスクはすべて自分が負うと。では、次に、この事例を「面白い!」と思ったならば、どのような制度設計がされればFeira Livreのような事業体が増えるだろうか?。それを運動として考えてほしい。
人々の自然な連帯意識と制度の矛盾を考える
RIPESSの大陸間活動と国際的なアドボカシー
フェイラ・リブレのような先進的・挑戦的な取り組みを草の根のレベルで行う実践家がRIPESSの主たる活動メンバーである。そして、実践を通してぶつかった困難を国際的に共有し、制度解決していくための提言に変えていくと。実際に、フェイラ・リブレも何度もつぶれかかっている。そして、それを打開するための明確な答えがないので、実践家同志が交流するしかない。そして、市町村レベルでの条例とか実験をシェアしていくと。それしかない。それを実践化していくことを我々はやっている。日々店鋪の経営でどこも大変なのだが、交代・交代でアドボカシーをしている。
RIPESSの国際的アドボカシーは、ニューヨークで毎年行われる。SSEはこういうことだよと。そして、最初は、関心を持つのは、フランスだけだったのが、最近では、多くの国でも認知があがってきている。そこで、イベントを行うことでその内容をもり立てている。例えば、数人の女性が集まっただけの協同組合が、国連の場において「自分の財布でまわせていますよ」という事例を出して称賛される経験をすることがすごいエンパワーメントになると。多くが自分の村から出たことがない人たちなのだが、彼らをこうした場に登場させることで、実は自分たちが次の社会のモデルなのだと確信してもらうことをあえて意図的に草の根でこだわっている。自信が持てることが重要だと。
Inter-Agency Taskforce on SSE(UNTFSSE)は、18の国連機関(FAO、ILO、WHO等)とOECDがメンバーとして加盟する社会的連帯経済に特化したタスクフォースなのだが、リペスはこのタスクフォース設立を強く要請し、設立当初からオブザーバー権限を持つ。FAOやUNEPにも入って、インターエージェン氏でやるべきだとしている。定期的に座長との会合も持つ。コントリビューターとして関わっている。
SDGsの達成には社会的連帯経済が不可欠
そして、国連でも考えがまとまりつつある。ECOSOC(経済社会理事会)でも早ければ、• 2022年9月の国連総会にて決議として各国の社会的連帯経済が促進されるよう求められる可能性もある。ルペンに勝たれたら絶望的であったのが、そうならなかったので、フランス政府がホストとなって頑張ってくれれば、それを出すかもしれない。そして、日本政府はどこにも連帯経済について書いていないのだが、国連決議が採択されれば、どこかの省庁が国連から聞かれた時に対応しなければならなくなる。
このように、各国は突然にして、社会的連帯経済を無視できなくなると。いま、国際社会の方が動いている。それに各国が追いついて動いていない。けれども、世界規模での草の根の実践家が変革に向けた影響力を持つようになってきている。そこに、レバレレッジがあると。そこで、リペスは国連決議を進めようとしている。ISOでディーセント・ワークが議論としてあがってきた背景にもそれがあるのではないか。そして、日本も国連が好きない人が多いのだが、開発途上国ならばなおさらそうであるし、途上国では国連の影響力が大きいし。
皆さんはここで学んで、何ができますか?
答えがないが、何かのきっかけで個々にはまることがあるかもしれない。その疑問を持ち続けてほしい。そして、それは小さなことではない。
地球規模の課題も地域の課題も解決していくために、そのような視点で現代社会を批判的に検証し続けることが大事であると。マクロとミクロとが複合的につながることを古沢さんも言っていたがそれは、分離していたことではない。そこで、自分に自信を持って問いを持ち続けてほしい。
一度にすべてをやろうとする必要はない。お米だけは有機を買おうとか。あるいは、年に1回は有機農家にいって関係性を作ってみようとか。そして、考えと実践・暮らしを直結させていくこと。そういうことをやっていると、リペスから話があって「ニューヨークで話をしてくれませんか」と。それでもっと元気になって欲しいと。そうした、皆さん一人ひとりが問いかけ、その積み重ねが大事だし、それが可視化することも我々の仕事。一人が全部をやる必要はないと。大きな構造の中のこの辺を私はやっているよねという鷹の目線と蟻の目線。それが必要かなと。
自分のことを語るよりも相手に耳を傾け信用を得るのが第一歩
会場質問 社会と生活上の課題とがつながっているというご指摘だった。そして、この教室にいる人は、そうした意識があると思うのだが、多くの雇用労働者はすでに「大きな物語」とのつながりが切れている。SSCにはそのタネがあることがあることを言わなければいけないのだが。どうしたらいのだろうか。その背景を申し上げると、私は生協の組合員で人々に物語を伝えたいと思っているのだが、関心がない人にはアプローチの方法がないので。
田中滋 まずなにかの機会がないと苦しい。そこで、まず、機会を作ること。それも、その人と会っているときに、その人が抱いている生きづらさを、その人の「いま」について個別に聞いて考えると。皆さん、どこか疑問を持っている。そして、それを突き詰めていくと、どこか共通するところに落ち着くのではないか。綺麗ごとに聞こえるかもしれないが、そうでなければ、[なぜこうした連帯経済が広まっているのかについて]自分なりにも納得がいかない。つまり、その人に「わかった」という感覚を持ってもらえるかどうかが、僕らからの経験から言えることである。
会場質問 その一人ひとりについてミスマッチなく何を提案できるかどうかが鍵だと。そして、それには、まずあなたの問題を聞かせてくださいと聞くと。
田中滋 そうです。自分たちの話をするのではなく、皆さんの話を聞かせてもらえる場をどれだけ作れるかが鍵であって、それが関係性を作ることであると。
会場質問 とかく、運動をやっている人ほど自分の話をしたがるのだが、そうではないと。とはいえ、何か事例がないと。
日本の事例も世界の事例もまとめているサイトがある
社会的企業研究会という勉強会があるですが、立教大学の藤井敦史先生が日本的なものをマッピング化して可視化しようとしている。私も協力している。そこをみていただききたい。
そして、国際的にはソシオ・エコがある。ここは、リペスとも協同関係にあって、世界の社会的連帯経済の事例をセクターと分野毎、例えば、食なら食で事例を出している。そして、市町村レベルでの条例の事例もあって、僕にとっても宝の山である。
EUでは公共調達を通じて社会を変える運動がかなり進んでいる
会場質問 社会実験を繰り返していくしかないとのことだが、それが制度化までいった事例はあるのだろうか。
田中滋 部分的だが大きな進歩があるのがバルセロナ市である。ここは市内での公共調達を含めて連帯経済が進められているし、公共調達条例を通じた連帯経済の推進が注目されている。実は、EU全体のディレクティヴとも関係してくれるのだが、EUでは「社会課題を解決するために公共調達を活用せよ」との指令が出ている。そこで、公共調達が鍵となってきている。実は、日本でも制度的にも設けることはいまでも可能である。例えば、総合入札で「予防的な措置を取っていればプラスである」という要件を設ければ、フェアトレードとか良いことをやっている業者が、ポイントがついて、入札で勝てる可能性がでてくる。つまり、社会的連帯経済の促進が可能である。
いま、フランスでは、学校給食を地産地消にしていくとの条例がでてきているし、南米ではブラジルでは連帯経済省まで作ったことがある。とはいえ、政権が変わって元に戻ってしまうこともある。
このあたりは、詳しくは、ソウルで生まれたジーセフ[GSEF]について丸山茂樹さんが話されると思うのだが、ソウル市ではフォーラムを立ちあげて、モントリオール市等の左翼陣営と協同してきたのだが、いま政権が変わって「もはやGSEFに避ける予算は殆どない」とまで言われてしまって、今はフランスのボルドーに移すことになっている。つまり、政権の事情によってかなり動かされる。ただ、撒いたタネはある。国家レベルではブラジルとかペルーとかですかね。
理念でこの指止まれよりはまずは尊重しあえる人間関係づくり
会場質問 シェア・オフィスで10人ほどの個人事業主のための学校を作ったのだが、そして、先生でもあり生徒でもあるということをやりたいのだが。私は芸術家なので。ただ、到達点への社会のイメージが違う人とどう議論したらいいのだろうか。
田中滋 時間がかかると思います。理念だけだと空中分解する。なので、それよりも一人ひとりの専門性を共有して、その専門性によってお互いが尊重しあえる関係性を築くこと。つまり、まずは互いが尊重しあって「個」であったものが、寄り添うことで問題をより解決できると。そうした人間関係を作ることが、課題に直接向き合うよりも重要。そして、そうした人間関係ができたうえで、私は気候変動やプラスチック問題のことに関心があるので、もし、あなたも共感すれば尊重してほしいと。こうして、関心の範囲を広げていく。最初から「この社会像を作りたいので、この指止まれ」という問題提起のあり方だと辛いかなと。
それと労働者協同組合の中であっても、どうしても力関係ができてしまって、水平性のある関係性をどう維持できるかはかなり難しいし、大組織になるほどそうなると。これは、コンシャスになってみなで考え続けなければいけないと。
やはり、人間性を取り戻すことが原点であると。例えば、仕事ができる奴が3人いるとする。そして、できない奴が一人いるとする。けれども、こいつがいるとなぜか場がなごむなと。けれども、それを能力だけで切るとなると彼が切られることになる。けれども、それは、人間の関係性の面から見ると耐え難いよねと。そうした人間の関係性を作っていけるかと。そういったチームの作り方ができると、非専門職ではなくても、この人がいてくれるから一緒に働いてもいいかもとなる。そういうボンドを作ることが大事かなと。
富沢賢治 協同総研です。UNTFSSEの運営資金源は国連ですか民間ですか?
田中滋 基本的にはILOのファンディング。民間からも金を求めていたことは知っているがどこからは抑えていない。
会場質問 プラットフォームビジネスについてどう思いますか?
田中滋 つまり、誰もが搾取の担い手になってしまう。先程も「ギグ・ワーク」の勉強会もあったのだが、僕たちは、そうしたプラットフォームは使わないポリシーを持っている。そうした中で働くためにウーバーユニオンも作られている。イタリアでは協同組合の働き手が組合のチラシをもって、信号待ちをしているドライバーに渡したりしている。少しでも自分でもできることがあればそれを促進していく。
それと別にまた心配なのは、労働者協同組合としてデリバリーのプラットフォームを米国は作ろうとしている。こうした価格競争に勝てるのかというと。そこで、オルタナティブができたときに、ここは人間を見ているとのシェアを仲間で広める運動にしていく。それができることかなと。近くでライダーで困っている人がいたら教えて下さい。
2022年5月27日(金)に高円寺パンディットで完成記念上映会(会場・オンライン)「自由な働き方」の罠がある
社会の中で脆弱な人ほど声をあげづらい。生きる以外の糧がある余裕のある人でないとなかなか社会運動に参加できない。そして、一部の声をあげる人の声だけが世の中にまかり通ってしまう状況にどう対応できるのかと。そして、「SSEがもっと外に出ていかないと駄目だ」とも言われるが、そこに政策提言を求めることも難しい。そこで、僕は、弱者の声をあげやすくするためにネットワークがあるべきだと思っている。
それぞれの事例が日々のことをこなすだけで必死であると。けれども、その声が発信されなければ、これだけの国際的な認知もなかった。実はリペスは脆弱な組織であって実践家が多く、関係者の回転も早い。歩みが遅い組織なのだが、いろんな声を入れていこうとしている。例えば、考え方ひとつとっても起草してから言葉にするのに5年もかかっている。ミッションステーツを4年間に抱えるのは、それだけみれば非効率そのものなのだが、声を出せる人に手を差し伸べることの方が大事であると。つまり、こうした社会構造への働きかけも諦めないことが大事なのではないか。
津村ちさと(Chisato Tsumura)からGlobal Vision on SSEがある。
一人ひとりの信頼関係の輪を重ねてネットワークを強固にする
田中滋 効率性がいい事業体を作って支払いは地域通貨で、という事例はある。誰も資本がないところから始めるので地域通貨を使うケースはある。こうしたテクニカルな事例はそこそこあるのだが、僕の経験では「これが連帯経済だな」と思うのは、いかに使える店があるか。そして、信頼関係を作って諦めない人がいるかである。僕はそれこそイサカの米国で大学院で暮らしていたのだが、その中心になっていた人が個人的に町から出てしまっていったらぐっと下がってしまったと。やはり、イサカといえども、その人の信頼関係で成り立っていたと。つまり、最初のエネルギーを高めていくのは人である。ただ、それをいかに一人に依存しないで事業体にするかが次のステップである。だから、最初は人間関係をどう作るかが鍵になる。そして、ブラジルの連帯経済のトレーニングでは「信頼の和」という概念がある。そして、それは人によって大きかったり小さかったりする。小さな人は3人。ただ心が広い人でも多くても仲間だなというのは15人くらい。
ただ大事なのはそれぞれが持っている信頼の輪を重ねることで、あの人を通じてと蜘蛛の巣のように信頼の輪を重ねていってネットワークを強固にしている。けれども、こうした信頼関係の輪も一度に作ることはできない。時間がかかる。
概念の居心地の悪さを甘受しつつ問い続ける
法政大学 では、最後にどうしたらいいのか。田中先生から一言。
田中滋 私は先生ではない。実践から学んだことを皆さんに持って帰って欲しいと思うのは、居心地の悪さを大事にしてもらいたいこと。つまり、落ち着きのいい場所に概念を押し込めると、それ以外の社会のあり方に対して疑問に思わないないまま「そうだ」と思ってしまう。つまり、絶えず、どうしたらいいのかと問い続けること。早い段階で「こういうことね」と納得してもらわないとありがたい。
会場意見 価格を人によって変わるようにつけることは、居住地などにより以前からあるものの、更にデジタルテクノロジーにより一層、購入の選択肢の少ない人が不利なようになっています。アマゾンとウォールマートの例のように監視資本主義とともに深刻化してるようです。データドリブンな志向が科学的知見の重要性の認識とその活動が人々の尊重よりも、政治経済的な利権優先にならないようにすることへの歯止めにもなるようにSSEが機能することも期待したいです。
編集後記
【画像】
藤井敦史教授の画像はこのサイトより
マスクがない田中滋さんの画像はこのサイトより






