2024年03月26日

誌上タネ交換会マッチング取材会&交換会

開会挨拶
                                                       編集局百合田敬依子局長

2023032601.jpg 今日は「誌上タネ交換会」の第6回のマッチングとなる。現代農業は1922 年に創刊してこの3月で102 年になる。農業雑誌の中では最も古い。そして、農家が作る農家の雑誌であることを目指してきた。

 このように、歴史は長いが、1980 年頃から「特集号」を始めた。年に3回あり、2月号が品種、6月号が減農薬、10 月号は肥料となっている。2 月号はちょうど正月に出版される。その年に何を播くかと作付けを考えるときのために2月号を品種特集としている。この中で2019 年から「誌上タネ交換会」を始めた。

 映画「百姓の百の声」でも取りあげてもらって有名になった。最初は1回だけのつもりだったのだが、農家から「来年もやってくれ」ということで定番となってしまっている。

 そして、以前は、現代農業の編集部が勝手にやっていたのだが、映画にもなったし、今年から編集部単独ではなく、農文協全体として「タネ交換会」をやることとなっている。そして、経営局文化活動グループの阿部真弓が担当となっている。

 具体的には、譲りたいタネを三人分に小分けして、どういうタネかの紹介文もつけて送ってほしい、さらにあなたが欲しいタネも書いて欲しい、と依頼する。そして、現代農業のページの下に応募券があるので、これを切り取って入れる。現代農業を買っていない人は参加できないしくみ(笑)。そして、250 円切手を同封してもらう。こうして集まってきたタネを欲しい人のところにいくようにマッチングをしている。

農家の自家採種の取り組みや広がり、タネを取り巻く情勢について

編集局山下快

 2023032602.jpg農家の自家採種について編集局の方から説明する。私は現代農業に10 年いて、今年から単行本を作る部署にいる。「誌上タネ交換会」は2019年から。その前年の2018 年4 月に「種子法」が廃止され、2017 年に「種苗法」が一部改定されて、タネをめぐって農水省が動いていた。種苗法はもともと農家の自家増殖を原則認める法律であった。それが2017 年から登録品種を自家増殖できない品目が増えた。そこで、『現代農業』では2018 年から「種苗法改定に意義あり」というシリーズ連載を始めた。「タネ交換会」もこの流れから始まった。その後、種苗法は改定されて農家の自家増殖は原則禁止となったが、農文協としては「農家の自家増殖バンザイ」。法律内で、タネの交換や自家増殖を応援しようというわけである。

 リアルなタネ交換会は以前から各地にある。例えば、埼玉県飯能市の「たねのわ」のタネ交換会。現場に取材に行ったが、人が入り乱れていて熱気がすごい。日本有機農業研究会の「種苗交換会」など、長い歴史のあるタネ交換会もある。それを誌上で再現しようとして始めた。

 初回の交換会では、現代農業によく登場する名人農家のタネをうりにした。例えば、茨城県の有機農家、魚住道郎さんが育てているキュウリは、市販の品種3種類が自然に交雑してできたものだが、だんだん固定されてきて「魚住キュウリ」と呼んでいる。無農薬栽培に強い品種としてタネを供給してもらい、抽選で応募者がもらえるようにした。自家採種名人の林重孝さん一押しのチンゲンサイのタネも出してもらった。

 すると、初回で100 件も手紙が来た。そして同封のお手紙の文章が熱い。また、交換で手元に届くタネに、送り主の農家の連絡先をつけたところ、その農家同士が電話をしたり手紙をしたりやりとりをしてくれた。「それが楽しい」という頼りも農文協にきたりしたので、やめられない状況となっている。

 ひとつエピソードを紹介すると、京都に青木さんという農家がいて、茶豆が出してくれた。青木さんのお母さんが50年もタネ採りを続けてきた茶豆で、「あんたには任せられない」となかなか任せてもらえなかった。やっと3年前にタネ採りを任せてもらえるようになって、そのタネを誌上交換会に出してくれたのだが、その後、青木さんは残りのタネを間違えて全部味噌にしてしまった。連絡が来て慌てて、こちらもタネを送った先に連絡をした。するとタネをもらった三人の農家がすごい量のタネをとって、翌年、青木さんに返してくれた。

 いろんなエピソードや農家からの声があって、やめられずに続けてきた。

誌上タネ交換会の仕組みについて

経営局嶋川亮・阿部真弓

嶋川亮 農文協では「人が交流する場づくり」も大事にしている。それが雑誌の力にもなっていくからである。主に阿部が担当しているのだが、「百姓の声」でも取り上げられたが、これで6 年目で、今回は参加者が137 人、タネは300種類前後と過去最大に集まった。そして、珍しいタネということを超えて、タネにその人の人生を載せて手紙を書いてくれている。

2023032603.jpg阿部真弓 例えば、埼玉県蓮田市のこのインゲン豆にはこんな手紙が入っていた。「およそ50年前から私共で作り続けているインゲン(平さや)です。断然この品種が美味・果姿も美しい!! 門外不出で栽培し続けてきました。しかし貴誌の記事で魚住道郎さん(キュウリ)等のスタンスを識り深く尊敬し、自らを猛省しました。私には子供もなく身内にも農業者はいません。もはやこのインゲンタネを託す人は身近にはいなくなりました。誰かこの品種を試作してみて気に入ったら是非他の人にも推していただきたいと存じます」

 もう一つが、団体での応募で、小学生からである。

「鹿児島市の在来種である伊敷長ナスを小学校5 年生が総合学習で栽培し一広めている。たくさんの料理にも合うので、桜島大根と並ぶ伝統野菜になるようにPR するために頑張ってきました」と。

質疑応答

会場質問 農水省が自家増殖を制限するなかで、誌上タネ交換会は合法的にしているとのことだが、それについて教えて欲しい。それと3人分にした根拠は。

山下快 3人分にしたのはとくに根拠はない。5人分だと多い。ただ1坪でつくれる程度の量にしてもらっている。もらったタネを1坪で育てれば、そのタネが大量に採れる。採っていいタネと悪いタネだが、タネを大きく分類すれば、登録品種のタネとそうでないタネとがある。

 登録品種とは自分で育種した品種を農水省に届け出て、認められたもの。育成者には育成者権が与えられ、野菜類で25 年、果樹は30 年権利が保証される。そのタネを勝手に販売したりすると種苗メーカーなどの育成者が困るので、登録品種のタネは採ってはいけないことになっている。

 しかし、種苗法が2022 年に改定される前は、登録品種であっても、農家だけは自分の経営の中で栽培する場合には、ほとんどの品目で自家増殖していいことになっていた。農家は育成者権の例外にあった。98年にバラなど挿木で簡単に増やせる23 種類が「農家が勝手に増やしてはいけない」と決められていただけであった。いわゆる「例外の例外」。

 農家が勝手に増やせない品目は2006年に82種に増えたが、農家の自家増殖は種苗法が1978 年にできてから40年以上、原則自由であった。それが2017 年、農水省は原則禁止へと大きく舵を切ったわけだ。

 種苗法を作った当時の農水官僚にも取材に行った。すると「種苗法は農家とともに作った法律だから、自家増殖を禁止する理念はない」と言ってくれた。『現代農業』ではその後、「種苗法改定に異議あり」という記事を20回やっているのだが、結果として、2022年に種苗法は改定され、登録品種の自家増殖は原則禁止となった。もちろん、登録品種でも許諾を取れば自家増殖はできるし、公共団体が育成した野菜類などの品種は、届出を出せば認めてくれるようにはなっている。農文協としてはこれからも、農家の自家増殖は応援したいと思っている。

2023032604.jpg嶋川亮 どれが、登録品種かわからなければ農家が困るので、これについては2021 年に義務化。現在、タネ袋や品種カタログにはPVPマーク、楕円形のマークが表示されていて登録品種とわかるようになっている。

山下快 『現代農業』ではそのあたりも詳しく紹介しているが、「誌上タネ交換会」にも時々、交換できない登録品種が送られてくることがある。それはこちらで全部調べて、登録品種は弾いている。例えば「おおまさり」というラッカセイがある。千葉県の品種だが、非常によいラッカセイなので送りたくなってしまうが、それはやっぱり交換できない。当然だが法律は守って、そのルール内でやっている。

会場質問 送っていただいているタネだが、魚住キュウリは、サカタのタネと在来種が混在種したものだが、どれくらいが在来種なのか。あとはタネについてはどういうストーリがあるのか。また、届くのはそれぞれ3袋だけだが、もっと欲しいというニーズがありそうだが。

山下快 魚住キュウリは病気に強いので人気がある。リクエストが多かったので翌年は、魚住さんに頼んでタネを多めに送ってもらった。かなり全国に広がって、今はタネをもらった農家が、増やして翌年のタネ交換会に出してくれる。これを農家は「タネ返し」と呼んでいて、タネ交換会では大歓迎している。

2023032605.jpg タネ交換会に届くタネは、圧倒的に固定種が多い。在来種も多いが、野口種苗とか「タネの森」とか固定種を売っている業者でタネを買って、自家採種して送ってくれる農家も多い。いわゆる在来種は半分くらいかな。

 ごく一部だが、F1からタネを採って、自分で育てたタネを送ってくれる人もいる。かなり固定しているものもあれば、まだ固定種になりきっていないタネもある。その他、畑で突然変異したオリジナル品種を送ってくれる農家もいる。

 徳島県の東出圓朗(のぶお)さんはイネマニアで、「アクネモチ」の変種ができたと出してくれた。6 年連続で送ってくれている。誌上タネ交換会でしか出回らないタネもある。

会場質問 種苗法は韓国などに日本の品種が流出したことで管理を強化したと思うのだが、誌上タネ交換会に送られてくる韓国のカボチャとかブラジルの品種は引っかからないのか。

山下快 日本国内で品種登録していなければ、国内では自由に流通でできる。外国の品種でも、日本で登録された品種はもちろん弾いている。

 じつは逆も同じで、日本の品種も海外で種苗登録すれば、海外流出は防げた。種苗法改定の理由として農水省がいの一番で挙げたのが「海外流出を防ぎたい。シャインマスカットが中国、韓国で栽培されている」ということ。「それを阻止するためにも農家の自家増殖を制限する」と言ったのだが、これは大きな嘘で、シャインマスカットがここまで海外で広まったのは、育成者権者の農研機構が、海外で種苗登録していなかったから。

2023032606.jpg そもそも、農家の自家増殖を制限したところで、ブドウなんて枝1本あれば接ぎ木で増やせてしまう。悪意ある人が来日して産地の畑で枝を切って持って帰れば、それで増やせてしまう。海外での増殖を防ぐには、その国で種苗登録しておかなければならない。それはじつは、農水省自身も認めている。それをサボっていた責任を棚に上げて、海外流出を農家の自家増殖のせいにした。責任を農家になすり付けた。それに腹が立って、『現代農業』でしつこく特集した。

 本来は、囲い込まずにできてきたのがタネではないかと思っている。タネは世界中を旅するものである。農家育種家に取材すると、育成者すべてが自分の品種を囲い込もうとしているわけでもない。 イチゴの品種「レッドパール」や「章姫」の海外流出も問題になったが、レッドパールの当事者の農家に取材したら「盗まれたわけじゃないんよ」と話していた。レッドパールを親に韓国で新品種ができたことも、まったく怒ってなかった。技術支援にいっていたくらいだ。 例えば、長崎県の俵正彦さんは14 種類ものジャガイモの新品種を育成していたが、生前「自分の品種を農家同士が交換するくらいならいいよ」と話していた。「そこでまた突然変異して、新品種が生まれるかもしれない」「ただし、種芋として販売するのは困 るけどね」と。そういう育種家もいる。

編集後記

 この内容は2024年3月26日(水)に農文協の主催により、同ビル7Fの会議室で行われた内容の一部をまとめたものである。なお、毎回、お知らせしているとおりだが、この内容は会議を聞きながら会場でメモしただけのものだが、農文協編集局の山下さんに拙ブログでの掲載について確認したところ、超スピードで内容の訂正等をしていただいた。また、会議内容の拙ブログへの掲載を承諾いただいた農文協の担当の方々にはこの場を借りてお礼を申し上げたい。また、農ジャーナリストの小谷あゆみさんが素晴らしいリポートを書かれている。こちらも、あわせてご覧いただれば、このイベントへの理解が深まろう。
posted by 情報屋 at 13:30| Comment(0) | 有機農業現地取材 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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